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ウクライナ戦争-シリア義勇兵問題,シリア軍の市街戦経験の高さと相容れぬロシアの戦略

2022-03-16 07:00:23 | 国際・政治
■臨時防衛情報-ウクライナ情勢
 ウクライナ軍の徹底抗戦ぶりは各国の支援があるとはいえ物凄いものがあり、実際驚かされてばかり、日露戦争も各国はこのように日本を見守ったのでしょうか。

 シリア軍が何故市街戦で市街地にT-72戦車を突入させてほぼ全車が小破か中破程度で戻れるのかが昔は謎でした、ロシア軍はチェチェン戦争で首都グロズヌイに戦車部隊を突縫うさせ装甲車や自走砲など100両を短期間で喪失した事例がありますし、2000年代におけるアメリカのイラク治安作戦を見ますと戦車よりは歩兵戦闘が市街戦の肝要となっていた。

 ロシア軍はシリアからの義勇兵を募集しているという、シリア内戦の長期化により深刻な景気後退に陥っているシリアでは月給邦貨換算13万円という、要するに13万ルーブルか、収入はリビア内戦での傭兵よりも報酬が高く、ロシアとしては市街戦で経験を積んだシリア兵に期待している所が多いのでしょう。しかしロシアが思う短期決戦は、できません。

 BCT大隊戦闘群、ロシア軍の作戦基本単位であるBCTは800名規模の諸兵科連合部隊に歩兵が200名程度しかおらず、歩兵不足が深刻という状況もあるのでしょう、なにしろBCTは歩兵大隊と戦車大隊を支援する為に砲兵大隊とロケット砲兵中隊が置かれているのだから、人員が大量に必要となる市街戦にはこの歩兵では不足ですし、工兵隊も全く足りない。

 T-72戦車はシリア軍が大量に保有していて、故障した分をロシアの軍事援助により補填されていますが、ミサイルに対しての脆弱性が高いのはウクライナでの改良型T-90の苦戦を見れば理解できるでしょう、しかし、シリア軍は戦車を単体で突入させているようにみえて、市街戦の機動部隊として戦車を活用しているだけなのですね、どういうことなのか。

 歩兵が市街地の各所に監視所、無線機と地図と双眼鏡に携帯火器、そして食料と水を充分、こうした規模の部隊を配置し、市街地におけるシリア民主軍の動向を多数の監視網で網羅している。もちろん監視所と共に、戦車部隊よりも前方に都市部の頑丈な建物にはシリア軍歩兵部隊が展開していまして、可能な限り路上を移動せず建物同士を穴で結び移動する。

 陣取りのように少しづつ前進する。第一段階は歩兵部隊が十字路などに無防備に前進して適当に建物に射撃、すると応戦されどの方角の為物に敵が展開しているかを地図上に記す、大きな反撃が有れば砲兵を使うが、基本は戦車と随伴歩兵が前進する。この前進するのは前述の監視所を増設する為、占拠した建物を増やす為、時間は掛かりますが堅実ですね。

 戦車の前に歩兵を置くのは禁忌です、主砲の爆風や音速で飛散する装弾筒は重機関銃弾並に危険だからです、が、それは開けた地形の話であり、頑丈なコンクリート建築物に隠れて耳を塞いでいれば装弾筒や爆風はそれ程危険ではありません、そして戦車を支援する随伴歩兵は戦車の真後ろに待機し、戦車が射撃後の十秒間で土煙に隠れて前進すれば良い。

 建物を歩兵が占拠しますとシリア軍は街路の左右を幾つもの紐で結び、布や網で暗幕の様に垂らして対戦車火器が飛翔できない様にします。遮蔽物を避け至近距離で戦車を狙うとRPG擲弾などは最低射程内で炸裂さえしません。こうして陣取りの様に市街地の占領を広げてゆく。だからこそシリア内戦は長期化していますが国軍が損耗する事も避けられます。

 シリア軍は市街戦で強い、これは事実なのですが、ロシア軍は規格外の経済制裁により消耗していますので短期決戦を望んでいます。するとシリア軍が市街戦で長年蓄積した戦術は時間がかかるものですので、ロシア軍が意図した通りの作戦には向かないのかもしれません。短期決戦を望めば人的被害は増大します、傭兵とはいえ忍耐に限度はあるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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