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【防衛情報】ドイツアロー3ミサイル防衛システム導入とフランスASMP改良型,アメリカHAWC極超音速兵器

2022-07-18 20:01:46 | インポート
■特報:世界の防衛-最新11論点
 今回はミサイル防衛と核兵器やミサイル関連について11の話題をお伝えしましょう。

 ドイツのショルツ首相は独自のミサイル防衛システム導入の検討を発表しました。この構想は既に連邦軍ツオルン総監との間で調整が進められているとのことで、現在運用しているペトリオットミサイルでは不充分との視点で、ドイツ全土を防衛できる迎撃ミサイルとしてイスラエルのアロー3迎撃ミサイルが具体的な装備名として挙がっているとのこと。

 アロー3ミサイルはアロー弾道弾迎撃ミサイルとして1990年代に開発されたアローシリーズの最新型で、イスラエル軍ではアロー2の近代化を進めていましたが2008年より後継ミサイルとして開発が開始されたもの。その開発はイスラエルの防衛大手IAIとともにアメリカミサイル防衛局、そしてボーイング社が参加しており、大気圏外の迎撃能力をもつ。

 アロー3は射程が2400kmと、イージスアショアやイージスミサイル防衛システムに採用されるスタンダードSM-3と比べてもなお長く、人工衛星迎撃能力さえ有しています。その性能は高度100km以上において大量破壊兵器の搭載が懸念される弾道ミサイルを迎撃する事に在り、また発射システムは30秒間で5発の弾道ミサイルを撃墜可能とされています。
■アイアンドーム導入
 ドイツは11兆円規模の国防基金を立て陳腐化し減らし過ぎた連邦軍を再建する構想ですが、こう矢継ぎ早ですと。

 ドイツが導入を検討するミサイル防衛システムはアロー3とアイアンドームの二系統となるようです。これはドイツのショルツ首相が記者会見においてアロー3の導入検討を示唆した際、記者質問にアイアンドームが含まれるかとの内容に検討中である事を示した為です。アロー3は射程2400kmであるのに対しアイアンドームは射程10km程度のものです。

 アイアンドームについて。ドイツ連邦軍は冷戦時代にゲパルト自走高射機関砲やローランド戦術防空ミサイル等濃密な野戦防空能力を構築していましたが2000年代に全て廃棄され、現在はスティンガーミサイルが頼りとなっています、この為、都市防空にアロー3を充てると共に野戦防空へアイアンドームを調達しいち早く能力再構築を企図しているのでしょう。
■ASMP核ミサイル新型
 アメリカの空母には最早核兵器は搭載されていませんがフランスの空母は重要な核戦力の運搬手段となっています。

 フランス国防省はラファール戦闘機による新型のASMP-A空対地核ミサイル評価試験を成功させました。試験はカザウ空軍基地を基点に実施されている。ASMPは戦略空対地中距離ミサイルの略称であり、1986年に開発、運用はミラージュ2000N戦闘機や海軍のシュペルエタンダール攻撃機が充てられ、フランス軍の主力核ミサイルを構成していました。

 ASMP-A空対地核ミサイルは従来型の射程350kmから500kmへと射程は延伸しており、液体燃料方式のラムジェットエンジンによりマッハ3により飛翔、弾頭にはTN-81核弾頭が採用されていて、100キロトンから300キロトンの可変出力方式を採用しています、ASMPは80発が製造され60発が現役、ASMP-Aはこれを一対一で置換える構想です。
■HAWC極超音速兵器
 ロシアを刺激しない様に発表を遅らせていましたがウクライナ侵攻着手を受け公表した構図です、そしてロシアの情報機関はこの実験を検知できなかったという点も。

 アメリカ空軍は国際情勢の影響を考え二週間遅れで極超音速兵器HAWC発射実験成功を発表しました、これは2022年の三月半ばにB-52戦略爆撃機からの極超音速兵器発射実験を実施し成功しましたが、このHAWC発射がロシアへの軍事圧力とロシア側へ受け取られる事を回避する為に、敢えて四月まで発射実験の実施と成功の公表を見送ったとのこと。

 HAWCとはが大気吸入型極超音速巡航ミサイルの略称、アメリカ軍は冷戦時代からトマホーク巡航ミサイルを運用していますが、冷戦終結を受け1990年代に後継となる超音速巡航ミサイルファーストホークの開発を中止し、その後もこの種の兵器開発は行っておらず、開発を進めていた中国やロシアに対してミサイルギャップという状況が発生していました。
■B-52爆撃機より発射
 これを見ていますとまだまだB-52爆撃機の退役は先の事なのでしょうね。

 HAWC極超音速兵器のアメリカで三月に行われた発射実験について。発射実験はB-52戦略爆撃機による空中発射方式により実施、ミサイルは発射後に点火に成功した後飛翔高度を6万5000フィート、つまり1万9000メートルまで上昇し300マイル、つまり480km以上を飛翔したとのこと。極超音速兵器の定義は巡航速度がマッハ5以上とされています。

 今回実施された試験はロッキードマーティン社製のものですが、アメリカ空軍は2021年9月にもレイセオン社製極超音速兵器の実験を実施、このミサイルにはノースロプグラマン社製スクラムジェットエンジンが搭載されていたとのこと。複数の計画を同時進行する事は予算を要しますが、短期間でかつ確実な装備開発を急いでいる証左ともいえるでしょう。
■米英豪極超音速兵器開発
 オーストラリアとフランスの潜水艦建造中断問題は6月に漸く賠償金支払いで決着しましたね。

 アメリカイギリスオーストラリアの三カ国は極超音速兵器の開発及び迎撃技術開発の協力を表明したとのこと。これは4月5日に開かれたAUKUS安全保障協力枠組に基づくもので、アメリカのバイデン大統領、イギリスのジョンソン首相、オーストラリアのモリソン首相が共同声明で方針を示しました。具体的な開発計画は今後の分科会検討によるもの。

 極超音速兵器の開発及び迎撃技術開発は、この種の装備についてロシアと中国が先進しており、対抗出来る抑止力とともに、これらへの迎撃技術の開発が急務とのこと。なお、AUKUS枠組では2021年にオーストラリア海軍次期潜水艦として原子力潜水艦共同開発への支援が示されています。アメリカは現在、空中発射型を開発し実験を進めているところ。
■豪州新ミサイル導入へ
 オーストラリアで注目すべき点はアルバニージ新政権への政権交代後もこうした施策が継続されているということ。

 オーストラリア軍は防衛用ミサイル改良型開発へ35億豪州ドルを計上する、ダットン国防相が4月5日に発表しました。オーストラリア軍は現在JASSMスタンドオフミサイルやノルウェー製JSMミサイルの調達計画があり、F/A-18F戦闘機やF-35戦闘機、そしてJSMについてはハープーンミサイルの後継として水上戦闘艦での運用を計画しています。

 防衛用ミサイル改良型が何を示すかは明示されていませんが、アメリカイギリスオーストラリアのAUKUS枠組において開発するとのこと。なおJASSMスタンドオフミサイルとJSMミサイルについては2024年までに配備するとのことで、このところの中国軍事圧力を受けての防衛力強化が目立つものの、巨額の防衛費を持続できるかは大きな関心事です。
■レーザードーム開発
 連射する際のコスト低減というものはどの国でも喫緊の課題ですが安価でも数を撃ち込まれ続けるイスラエルには特に重要なのでしょう。

 イスラエルのラファエル社は画期的なレーザードーム高出力レーザー防御システムの技術試験を完了しました。レーザードーム高出力レーザー防御システムはラファエル社が製造しているアイアンドームミサイル防衛システムの後継となる近接防空システムです。レーザー兵器は各国にて開発が進められていますが、イスラエルは特段の事情があります。

 アイアンドームミサイル防衛システムは、現在イスラエルの主要人口密集地に配備され、イスラム過激派によるカッサムロケットなどのかく乱射撃から人口密集地を防衛しています、そのアイアンドームは一発当たり安価なミサイルを20連装発射器3基に搭載していますが、それでも1発は8万ドル、数十発単位で射撃しますと費用はおおきくなるのです。

 レーザードーム高出力レーザー防御システムは最大射程7km、ロケット弾や対戦車ミサイルと迫撃砲弾などを迎撃可能となり、また一回の照射に必要な費用は数十ドルとなっています。レーザードーム高出力レーザー防御システムはイスラム過激派からの人口密集地防護とともに、アロー3弾道ミサイル防衛システム等を防護する用途も見込まれています。
■シャヒーンⅢミサイル
 パキスタンはいまのところインド全土を射程に収めるミサイルの域を出ていませんが将来ロフテッド軌道用の単純射程ならばさらに長射程となるミサイル開発に進むならば、影響を受ける地域が広がるのかもしれません。

 パキスタン軍は射程2750kmであるシャヒーンⅢ弾道ミサイル発射実験に成功した、これは四月九日にパキスタン国防省報道局が発表したものである。ミサイルは地対地型で発射実験はパキスタン本土からアラビア海へ向け発射されたとしている。このミサイルは新型ではなく2015年3月9日に実験に成功しており、今回は性能維持評価が目的とされる。

 シャヒーンⅢ弾道ミサイルは、パキスタン国内からインド全土を射程に収めるミサイルとして開発され、インド軍のアグニⅢ弾道ミサイルへ対抗する目的がある。ただ、この射程ではパキスタン南部からイスラエルへ到達するイスラム圏の核ミサイルという性格も有している。今回の試験では中国製WSS51200機動発射装置が発射台に用いられたとされる。
■中国新巡航ミサイル原潜
 中国は戦略ミサイル原潜を護衛する攻撃型原潜整備がひと段落し戦力投射任務として地球規模の作戦を念頭とした巡航ミサイルと原潜の運用基盤構築に向かうもよう。

 中国海軍が遼寧省葫芦島港にて新型の巡航ミサイル搭載攻撃型原潜を建造している可能性が高まっているようです、これは最近の衛星写真により判明したもので、4月24日から5月4日までの期間、造船所のドックから水が抜かれている際に撮影された衛星画像に、従来の093型原子力潜水艦と似ているものの、細部が異なる潜水艦が写っていたとのこと。

 093型原子力潜水艦は商級原子力潜水艦として知られる潜水艦で水中排水量は6500t前後、既に8隻以上が建造されているとみられます。しかし葫芦島港で確認された潜水艦にはセイル後方に特異な点があり、これが巡航ミサイルを搭載するVLSではないかと解釈できるのです。中国の原子力潜水艦は従来、巡航ミサイルを魚雷発射管から発射していました。

 葫芦島港において撮影された潜水艦は更にもう一つ、推進装置部分が異様に大きく、静粛性を意識したポンプジェット推進装置が採用させた可能性があります、これはエネルギー効率が悪く原子力潜水艦にしか採用されていませんが、採用した潜水艦は先進国でも最新型に限られ、実際に採用されているならば、潜水艦建造技術の大幅な進歩を意味します。
■ブラモス改良型空中発射
 この新兵器の開発がインドとロシアの軍事協力をロシアのウクライナ侵攻開始後にも中断できない理由があります。

 インド空軍はブラモス超音速ミサイル改良型の空中発射実験を成功させました、これは5月12日に発表されたもので、今回のミサイル発射実験ではインド空軍が運用するSu-30MKI戦闘機から発射されています。従来型のブラモスは2012年に空中発射実験を実施し、実戦配備も2019年に開始されていますが、改良型による実験は今回が初めてとなる。

 ブラモスⅡとして極超音速対艦ミサイル型も2024年までに実験開始を目指しています、この開発はこれまで順調でしたが、その背景にはミサイルの原型がロシア製P-800オニキス対艦ミサイルである為で、ソ連時代に建造された原子力ミサイル巡洋艦にも搭載、一発当たりが初期のジェット戦闘機並の大きさのある超音速ミサイルであり、威力がおおきい。

 P-800オニキス対艦ミサイルは開発当初輸出などは考えられていなかったものの、ソ連崩壊後に共同開発の形で改良型開発をロシアとインドが協力した構図、インドは中国海軍のインド洋進出を前に空母に対抗するべくその開発を急いでいます、しかし、現在の開発計画は、ロシアのウクライナ侵攻を受け防衛協力への各国の反発があり、予断を許しません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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