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155mm榴弾砲-2022年の動向【2】中国の翼-主翼を持つWS-35砲弾とアメリカは砲弾にラムジェットエンジン搭載

2022-12-03 20:00:35 | 先端軍事テクノロジー
■射程だけを伸ばす技術と
 そうする他ないのは知っているがまさか本当にそうするとは思わなかった、これが2022年の火砲に関する素朴な印象という。

 アメリカ陸軍は将来火砲用として砲弾にラムジェットエンジンを仕込むという、中国のWS-35砲弾が主翼を持っていた事には驚かされましたが、アメリカは射程を延ばすにはそうする他ないものだろうかという選択肢を採りました、ラムジェット砲弾試験が6月28日にノルウェーのアンドン兵器試験場において実施されたとのことで、どう展開するのか。

 ラムジェット砲弾は砲弾の先端部から空気を吸入しラムジェット燃焼機構を通じて後部から噴出させるというもので構造としては単純であるラムジェットエンジン方式を採用するのですが、従来のRAPロケット補助推進弾よりもエンジンにて加速させることで長射程を実現させるのが狙いとのこと。無理があるよう見えますが、技術的コスト的に可能なのか。

 XM-1155計画としてアメリカ陸軍が進める58口径155mm榴弾砲から投射されるものです。野砲では従来の常識で、射程を延伸させるには初速を高めれば良いのですが、これは同時に猛烈な腔圧が砲身を痛めライフリングと寿命を削る点が難点です、しかし、発射後に加速する方式ならば砲身を痛める心配はありません。いよいよミサイルに近づきましたね。

 ラムジェット推進装置の開発にはノースロップグラマン社やレイセオンテクノロジーズ社などが参加しているとのこと。アメリカ陸軍では2024年までに実用装備まで開発を進めたいとしています。このラムジェット砲弾がどのような射程を見込んでいるのかは未知数ですが、WS-35以外にも100kmの射程を視野に含む装備が、欧米共同で誕生しつつある。

 100kmを越える砲兵戦となれば、誘導砲弾が主力となります。もちろん、理想は現在のM-107砲弾による30km射程にて誤差50mという精度を100kmの射程でも維持することですが、100kmとなりますと地磁気や地球自転の影響だけではなく大気状況の湿度や空気密度が不確定要素となる、AI人工知能などにより弾道計算を行ったとしても厳しくないか。

 エクスカリバー誘導砲弾のようなGPS誘導砲弾か、カパーヘッドやクラスノポールのようなレーザー誘導砲弾というもの、現実的には100km先を狙うならばこうしたものが必要、いや必須、となるように思うのですね。しかし、いま西側でもっとも普及しているエクスカリバーは一発9万ドル、オランダなどへの販売実績の数字ですが、さすがに、安くない。

 効力射のほかに攪乱射撃などが野砲の任務にはありますが、費用を考えるならば当たり前ですが誘導砲弾は使えません、そして問題は、短期決戦、これは指導者が夢見る身勝手な理想像なのですが、これを実現できなかった場合、長期戦を想定するほどに備蓄できるものでもありません、すると長すぎる射程は使い難いという概念も、今後ありえるでしょう。

 39口径砲の用途も実はあるのではないか。ここで留意したいのは、湾岸戦争やイラク戦争のアメリカ軍砲兵です、実は中東戦争の戦訓からイラク軍は砲兵の強化をすすめており、45口径のG-5榴弾砲を装備していました、南アフリカ製の強力な野砲で射程は48kmに達したという、1991年の湾岸戦争の時点で、です。対してアメリカは従来火砲で臨みます。

 M-109自走榴弾砲は39口径に改良を進めていたところですが、射程は24kmであり、砲兵ではイラク軍が優位と考えられていたのです。しかし結果は歴史をごらんの通り、イラク軍の完敗でした。イラクには48km届く野砲はあっても50km先を索敵しリアルタイムで情報共有する能力が欠けていたためです、相手が要塞などならば別なのでしょうが。

 野砲は22口径から30口径を経て39口径となり、スペインと南アフリカが45口径を開発しましたが歴史は一気に39口径から52口径が基本という時代へ進みました。ただ、上記の通り45口径砲が39口径砲に一方的に叩かれる事例もありますので、特に第一線が求める火力支援として、従来型の39口径砲にも一定の需要は残るように思えてならないのです。

 52口径砲となりますと現状で牽引砲はなく、要するにヘリコプターによる空中機動に対応させるには39口径砲しか存在しないのです、それはもちろん60口径砲なども牽引砲は開発の動きはありません、すると機動力、特に戦略機動性の面では39口径火砲というもののポテンシャルは残るもので、勿論火砲以外、120mm重迫撃砲などでは置き換えられません。

 ウクライナ軍は進攻したロシア軍へアメリカから供与されたM-777やイタリアなどから供与されたFH-70で反撃を加えています、自衛隊が装備して見覚え或るFH-70が使われている情景は、一種不思議な思いを受けるのですが、火砲というものは射程も重要なのですが、射程だけではないのかもしれない、そんな事をかんがえさせられる情景に思えたのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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