◆F-15が三沢に配備?
本日は第一次世界大戦終戦記念日、行政刷新会議が東京で仕分け作業を開始しているという日であるが、QDR-2010について気になる情報があったので掲載する。
三沢基地のF-16飛行隊が米軍再編に伴う本土撤退に伴い、嘉手納のF-15飛行隊が一個、移駐するというものだ。もともと、三沢基地のF-16飛行隊は、ソ連極東軍への抑止力として新冷戦を睨み、前方展開したものであり、対地攻撃から制空戦闘まで多用途に運用できるF-16が極東に配備された経緯がある。
三沢基地のF-16飛行隊が、QDR-2010において米本土に撤収することについては、これまで報道されていたが、第35戦闘航空団に所属する二個戦闘飛行隊が撤収することで、三沢基地に展開していた米空軍機すべてが撤収するため、36機のF-16が運用していた航空掩体など、関連設備は今後どのようになるのかなど、話題となっていた。
今回、この三沢基地に嘉手納基地の第18航空団からF-15一個飛行隊が移駐する改編案が2010年に発表される四年ごとの国防戦略見直し計画、いわゆるQDRに明記される可能性が出てきた、きっかけとなったのは産経新聞の報道である。産経新聞だけに情報源は気になるが、以下に引用する。
米政府が米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)に展開するF15戦闘機の半数を米軍三沢基地(青森県三沢市)に移転させる構想を日本側に打診していることが10日、分かった。三沢基地に配備されている約40機のF16戦闘機はすべて米国に撤収する。構想は来年2月に米政府がまとめる「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)」で検討されており、極東地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性がある。
構想は、嘉手納基地については現在48機配備しているF15を24機とし、残り24機を三沢基地に移す。今回の提案では、三沢基地から常駐の米戦闘機がなくなることへの懸念を払拭(ふっしょく)するため、嘉手納基地のF15部隊の半数を回すとしたが、北朝鮮情勢をにらんだ両基地の米空軍戦力はほぼ半減となる。2009.11.11 08:53配信:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091111/plc0911110857005-n1.htm
嘉手納基地には、第18航空団のF-15二個飛行隊が展開している、とよく表現されるが、この表現に沿って、F-15飛行隊一個が嘉手納基地から三沢基地に移駐するという表現は、二個飛行隊のうちに一個飛行隊ということで、あたかも嘉手納基地の駐留部隊の半分が三沢基地に展開するような印象を受ける。
ところが、第18航空団は航空自衛隊の二個要撃飛行隊からなる2000名程度のコンパクトな航空団とは比較にならないほど大きな飛行隊である。第18航空団は約2万名の人員から編成される大きな航空団で、戦闘機の飛行隊に加え、空中給油機、早期警戒管制機の飛行隊が配属されている。
航空優勢確保を担うF-15C/D戦闘機を運用する第44戦闘飛行隊、第67戦闘飛行隊の二個飛行隊を筆頭に、第909航空給油飛行隊がKC-135空中給油機を運用、第961航空警戒管制飛行隊がE-3空中早期警戒管制機を運用しており、このほか第33救難飛行隊がHH-60G救難ヘリコプターを運用している。
加えて、任務支援群、整備補給群、医療支援群、施設群を隷下に有している編成だ。このほか嘉手納基地には、第353特殊作戦飛行隊、第82偵察飛行飛行隊が展開している。第18航空団とは別部隊であり、嘉手納基地の広大な面積が有する米空軍の戦略拠点としての機能が垣間見えてくる。
第353特殊作戦航空群は、MC-130H特殊戦機を運用する第1特殊作戦飛行隊、HC-130特殊作戦を運用する第17特殊作戦飛行隊とその支援部隊が展開しており、第82偵察飛行隊は、RC-135電子偵察機やWC-135大気情報収集機などを運用、日本周辺の軍事安全保障上の状況を、偵察衛星などでは得られない情報の収集にあたる。
したがって、F-15飛行隊の半分にあたる24機をF-16に代えて三沢に移駐させる改編は、大きなインパクトを与えるようにも見えるのだが、必要があれば太平洋空軍所属の飛行隊を瞬時に嘉手納に展開させることができることもあり、基本的に航空団は訓練を除き移動しない航空自衛隊の要撃運用重視の体系とは異なっている運用がある。
横田基地日米友好祭でも一個飛行隊に匹敵する部隊を毎年集めていることからも米軍の展開能力の高さは極めて大きく、必要とあれば米本土のF-16戦闘機はもちろんのこと、打撃力の大きい戦闘爆撃機のF-15Eから、航空支配戦闘機F-22も含め、必要であれば即座に部隊を結集させることが可能となっている。
航空打撃力を有するF-16から制空戦闘機であるF-15に置き換わることは、一応認知しておくべくではあるが、三沢基地の基地機能が維持され、嘉手納基地にもその整備補給能力が維持される以上、ポテンシャルの大きな低下とは言えないだろう。
それでは、何故、三沢基地にF-15飛行隊を移駐させるという検討がなされているのだろうか、一つは、三沢基地はF-16飛行隊だけの基地ではない、ということが一つ挙げられるだろう。三沢基地は、米国家保安局(NSA)や空軍電子保安中隊が運用する大規模な通信傍受施設を備えた姉沼通信所が置かれている。不定期ながら海軍のP-3C部隊も展開している。そして、三沢基地の航空管制は米空軍が行っている。
三沢基地は、米空軍の基地であるとともに、航空自衛隊北方防空の重要拠点でもある。三沢基地にはF-2二個飛行隊を隷下に有する第3航空団が展開しているとともに、北海道を中心に北日本の防空を担う北部航空方面隊司令部が置かれているほか、警戒航空隊隷下の警戒飛行監視隊がE-2C一個飛行隊を展開させている。
米空軍戦闘機がすべて撤退すれば、航空管制を米空軍から航空自衛隊に移行させる要望が当然出てくるだろう。また将来的には米空軍のF-16用航空掩体が、可能性として航空自衛隊の戦闘機用に返還を要求してくる可能性もある。空き掩体が40基近く並んでいれば、米国側としてそうした要請が出てくる可能性も予見できる。
基地機能を維持するだけでも費用がかかり、駐留費用、その一部を日本の駐留米軍分担金が用いられているのならば為政者として、こうした政策提案も必要となってこよう。また、三沢基地の一角、それも広い面積の部分が活用されていなければ、三沢基地返還を求める声は世論から国会まで、高まってくるだろう。
しかし前述のように三沢基地はF-16だけの基地ではなく、NSAなどの拠点でもあり、飛行場区画の返還要請が契機となり、有事の際には北朝鮮を睨む本州東北地方の基地を維持し、極東地域における通信傍受施設を有した三沢基地の全面返還要求へ進むことを抑制したいという視点も考えられ、そのための活用案として、F-15の移駐は行われると考えるべきだろう。
HARUNA
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