北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性:危機は回避,カールビンソン反転とロナルドレーガン停泊

2017-04-20 19:41:36 | 国際・政治
■米軍は即応体制維持し静観
 朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性ですが、危機は回避されたようです。米軍は即応体制維持を強調していますが、大規模攻撃準備の態勢は少なくとも現時点では整えていません。

 朝鮮半島有事が現実のものとなれば我が国へも大きな影響が及びます。在韓邦人救出任務が発動しますし、対岸の火事ではなく在日米軍基地への弾道ミサイル攻撃や、我が国港湾施設へのミサイル攻撃という懸念が高く考えられたためです。トランプ大統領は豪州沖の原子力空母カールビンソンが朝鮮半島沖へ向かい、もう一つの空母戦闘群が展開しつつある、としました。しかし、AFP報道では空母は一時北上したものの反転南下し、もう一隻の空母は横須賀で整備中となっています。

 日本を訪問中の19日にペンスアメリカ副大統領は横須賀基地へ前方展開する原子力空母ロナルドレーガンを視察、米兵や自衛隊員らを前に演説し、われわれはいかなる攻撃をも打ち負かし、通常兵器や核兵器が使用された際にも米国は圧倒的かつ効果的に対応する、と述べ、重ねて北朝鮮からのいかなる攻撃にも「圧倒的かつ効果的」に対抗措置を取ると艦上で演説しました。ロナルドレーガン艦上へ自衛艦が招かれている点に注目しつつ、現在、ロナルドレーガンは横須賀基地に停泊しており、洋上に展開していないという事実も注目すべきでしょう

 ロナルドレーガンが横須賀に停泊したまま、副大統領を迎えたという意味は重要です。野島崎沖や四国沖を遊弋しているのでゃなく、横須賀に停泊したままでは、F/A-18E等の艦載機を運用できないばかりか、原子炉二基を搭載したまま動かない状態という事を示します。更にロナルドレーガンは現在横須賀において整備中であり、BBC報道では予定として整備へ一ヶ月程度を要するとの事、ペンス副大統領はこの整備を早期に終了させ、早期に出港する選択肢もあるとしていますが、その兆候はありません。

 横須賀基地は北朝鮮のノドンミサイル射程圏内にあります。仮に懸念されている通り、アメリカ海軍がシリアに対して実施したようなトマホークミサイルによる北朝鮮核施設への限定攻撃を行うならば、弾道ミサイルによる反撃を想定し、横須賀基地を出航していなければなりません。アメリカ海軍が朝鮮半島において大規模な軍事行動を行う体制に無いという事を端的に占めるものといえましょう。

 原子力空母カールビンソン、豪州沖から朝鮮半島沖へ急行する旨がアメリカ海軍から発表され、ジャワ島沖を航行する様子が公式発表されていましたが、最新の情報では豪州北西海域を遊弋しているとされ、アメリカ海軍当局も現在位置を認めました。豪州沖から西日本沖には三日から四日程度を要します。また、ジャワ沖を航行している写真を公表した後に豪州沖を遊弋している現状は、一時反転し豪州へ戻った事を意味します。

 ミサイル防衛体制強化も在韓米軍では棚上げされています。アメリカ政府は、先日、韓国への新型ミサイル防衛システムTHAADの前方展開を、中国との関係上当面棚上げするとの発表を行っており、こちらもTHAADのレーダーシステムは在日米軍基地防護への第一線警戒監視手段であることから、THAADの配備棚上げは朝鮮半島有事の可能性を政治的に示唆しつつ、軍事的には準備していない事を端的に示していました。

 在韓米軍への新型ミサイル迎撃システムTHAADの韓国国内配備が一時棚上げされました、米軍は3月よりTHAADの一部構成器材を韓国内に運び入れ、配備を開始しており報道では早ければ4月中にも運用が開始されると報じていました。これは中国側への配慮を踏まえた米中首脳会談の結果を受けてのものと考えられますが、北朝鮮のミサイル実験はこの直後に行われた訳です。国防総省は朝鮮半島近海に巡航ミサイルを搭載したイージス艦二隻が遊弋している状況を発表していますが、THAADに代えてイージス艦がミサイル防衛任務を補完している可能性もあります。

 核実験の強行、延坪島砲撃事件、哨戒艦天安沈没事件、サンオ級潜水艦江陵浸透事件、北朝鮮が実施し得るアメリカや韓国への挑発としての選択肢はこうしたものが挙げられます。また、長距離弾道ミサイル実験として日本近海へ弾道ミサイルを発射する可能性もあるでしょう。アメリカ政府は、核実験が行われたならば行動を起こしていた、と発表しており、場合によっては核実験以外の行動へは軍事行動が起こされない可能性もあるでしょう。

 延坪島砲撃事件は2010年に発生した北朝鮮軍による韓国離島無差別砲撃に端を発する韓国軍砲兵隊との砲兵戦闘、哨戒艦天安沈没事件は同じく2010年に発生した黄海上の浦項級哨戒艦への小型潜水艇による雷撃撃沈事件です。サンオ級潜水艦江陵浸透事件は1996年に発生した潜水艦による工作員浸透事案で工作員など26名の上陸へ韓国軍2個師団が掃討へ出動し射殺自決等22名、対して韓国側に17名の戦死者や事故死者が出ました。このように危機は段階を踏んで移行しますが、この種の事態はまだ発生していません。

 朝鮮半島情勢は極めて緊迫しているとの報道が多々ありますが、アメリカが行動を行う場合、北朝鮮はカノン砲射程内にある韓国最大の都市である首都ソウルを攻撃可能、重ねて在日米軍基地への中距離弾道ミサイル攻撃と在韓米軍基地へのロケット弾攻撃や短距離弾道ミサイル攻撃への対策を行う必要があります。韓国在留アメリカ国民の退避体制確立、在日米軍基地のミサイル防衛体制強化等が指摘されますが、いずれも実施されていない。当面はトランプ大統領の華々しい発言の一方、準備を整える構図には無いようです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【京都発幕間旅情】大垣城,桜花満開の大垣公園城郭遺構と水都彩る映画“聲の形”の舞台訪問

2017-04-19 20:12:32 | 旅行記
■歴史と水都大垣観桜の散策
 大垣へ行ってまいりました。映画“聲の形”の舞台として有名となりました水路の美しい岐阜県大垣市、京阪神と近江を関ヶ原を越えて至り中京を結ぶ東海道の要衝です。

 大垣城、関ヶ原の戦いの兵力集結地であり前哨陣地となった城郭の遺構、麋城や巨鹿城の別名でも知られます。第二次世界大戦までは1620年建築の複合式層塔型三重四階の天守閣が残りましたが、1945年に米軍の空襲で全損しました連郭輪郭複合式平城の遺構です。

 大垣、東海道本線夜行快速ムーンライトながら号定期運行時代にはその始発駅であり終点駅として、東京へ展開する際の要衝として幾度も利用し、所縁のある街です。この大垣は水の街として知られ、市街地を数多の水路が巡る美しい街でして、水都とも呼ばれている。

 映画“聲の形”、京都アニメーションが昨年制作した劇場版アニメーションで、深い題材を日常的に有り得る視点から描いた苦い青春像の明るい未来という原作を京都アニメーションの写実性をもって劇場映画化したアニメーション作品で、岐阜県の大垣市が舞台です。

 大垣城と満開の桜花、今回は大垣へ桜花観桜へ歩を進めた訳ではなく、“聲の形”の作中に大垣城を含む大垣公園の情景が多く描かれ、この舞台訪問、所謂聖地巡礼として巡りました。大垣城は歴史の分岐点に幾度も記される城郭ですが、戦災の全損後は公園となります。

 大垣公園として、城郭遺構は整備されており市民の憩いの場となっています。実はこの大垣公園は1873年に岐阜県初の都市公園として大垣城址を公園化しました、大垣城は岐阜連隊区にあり陸軍進駐による城郭破壊を免れた形で、この公園の一角が大垣城である訳です。

 歴史を紐解けば、この城郭は1500年に竹腰尚綱がこの地の防備を固めるべく城塞を構築、しかし1544年に守護大名織田信秀が攻略したものの、竹腰氏が仕えた美濃の斎藤氏が奪還、1559年に織田信長配下の桑原直元が大垣城の堀や土塁等を整備、近代城郭となりました。

 豊臣秀吉治世下、後の姫路城主池田輝政が城主となり、1586年11月29日に発生した日本史上最大の内陸地震である天正地震により天守閣は倒壊し大垣の街と共に全焼した。豊臣秀吉の全国平定後に小田原北条氏攻略に勲功を挙げた伊藤盛景が新しい城主となりました。

 関ヶ原の戦いという日本史を大きく転換させた決戦に際し、伊藤盛景は西軍に属し最大兵力集結地となりましたが、東軍が三河地方から長良川を渡河し岐阜城を攻略、西軍の策源地大坂城へ向かう徴候を見せた為、留守隊長福原長堯を残し主力を関ヶ原へ転進させます。

 西軍は大兵力を率いていたものの総指揮官石田三成の部隊掌握が不充分であり、決戦体制下での指揮系統不明瞭のまま戦闘序列を組み関ヶ原へ野戦陣地を構築、この為、戦闘中に東軍徳川家康への支持を急遽表明する離反者が続発し戦線が崩壊、西軍は潰走しました。

 江戸時代に入り、譜代大名石川康通を城主として城郭は維持されましたが、1635年に戸田氏鉄が城主となり、以後江戸時代を戸田氏の居城として永く維持され、戸田氏は領域整備へ水路開発を積極的に行い石高を増やし、今日の大垣市が形成されてゆく事となります。

 大垣公園の美しい水路は、この遺構が今日も活用されている表れであり、“聲の形”ではその情景が京都アニメーションらしく描かれていました。桜花と水路の情景は作中主人公石田将也と先天性聴覚障害と共に生きる西宮硝子とが心の交流と和解に至った舞台のひとつ。

 君に生きるのを手伝ってほしい、という表題と共に描かれた作品は第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞、同じく岐阜県が舞台の“君の名は”、と並び2016年の日本映画界に標を残し、大垣市散策は其の世界観を共有する事ができるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南スーダン自衛隊撤収開始,PKO任務へ施設部隊中心の自衛隊と国連地域防護部隊派遣要請

2017-04-18 22:33:52 | 国際・政治
■第9師団派遣隊青森空港帰国
 任務完了による南スーダンPKO撤収が閣議決定された一件は既報にてお伝えしていますが、このほど部隊の撤収が開始されました。

 自衛隊の南スーダンPKO部隊撤収が開始されました。青森第9師団の要員を中心に編成された自衛隊南スーダン派遣施設隊350名は第一陣が19日までに青森空港へ帰国する見通し、来月末までに派遣施設隊の全員が帰国を完了します。自衛隊はこれまでの南スーダンでの支援任務の成果を生かし、UNMISS司令部業務への要員派遣は継続するとのこと。

 南スーダンジュバ市内のUNMISS司令部要員4名の派遣は継続されますが、インフラ整備、そして安全保障関連法整備に基づく宿営地共同防護や他国部隊救出を目的とした駆けつけ警護実施の待機は任務終了となりました。駆け付け警護は集団的自衛権行使となるため憲法違反、国連職員などの危機の際は見捨てるべきとの議論は昨年国会などで盛んでした。

 南スーダンPKOは野田政権時代の2012年より開始、スーダンより独立を果たした新国家創造へUNMISS国連南スーダン支援団の一員として派遣されました。当初はスーダン政府との関係から情勢悪化の懸念があり、内陸部に位置し、万一の際の撤退が難しいのではないかとの懸念が想定されましたが、実状は別の問題へ展開しました、内戦の発生です。

 国連南スーダンPKOは本来、スーダンから独立した新国家の建設支援を行う目的で派遣され、自衛隊PKO派遣部隊もインフラ整備を主軸とした施設科部隊による工兵任務を主眼として派遣されていますが、南スーダン新国家の主導権を巡る大統領と副大統領の政治闘争が2013年以降、戦車や攻撃ヘリコプターを用いた内戦状態へ発展、緊張が続いています。

 自衛隊撤収の背景には、国連からの要請が工兵部隊から歩兵部隊へ転換した点が上げられます。当初自衛隊が派遣された当時、新国家建設に伴うインフラ整備の要請は、内戦とともに文民保護という更に重要な任務需要が生じており、地域防備部隊として機械化歩兵部隊など、人道危機へ即時直接に介入できる近接戦闘部隊の派遣を国連が求めるものでした。

 社会インフラ整備は重要なことですが、社会インフラを利用する人々が内戦の飢餓に苦しみ、戦闘に巻き込まれる状況ではインフラ整備の必要性は高くありません。実のところ2013年の内戦発生の時点で、自衛隊の施設整備という任務需要は無くなっていたよう思えるのですが、政府もそして国連もこれほど内戦が長期化する事を予見できなかったのでしょう。

 地域防護部隊派遣要請は2013年の南スーダン内戦とともに国連より繰り返されていたもので、自衛隊の活動地域は首都ジュバ近郊に限られていたため、散発的な衝突、反乱軍のT-72戦車が首都で攻撃に移り政府軍のMi-24攻撃ヘリコプターが航空攻撃でこれを撃破するという、衝突が僅かに数える程度でしたが、南部地域程、緊張していわけではありません。

 この規模の部隊同士の交戦は衝突ではなく、戦闘といえるのかもしれません。実際問題、各国は日本の政府用語でいうところの衝突を戦闘と報じました。そしてスーダンとの国境地域では断続的な戦闘があり、韓国PKO部隊宿営地が孤立し弾薬不足に陥ったため自衛隊が弾薬を供給、またインド軍などPKO部隊要員の戦死者も出始めるに至りました。

 国連平和維持活動とは日本がPKO協力法を制定した当時は、国連総会と国連事務局の所管で進められる任務でしたが、2002年の南スーダンPKO以降、安全保障理事会の法的拘束力を持つ安保理決議に基づきPKOが編成され派遣されています。このため、国連平和維持活動が開始された当時の国連軍とPKO部隊の明確な区分は、やや曖昧となっています。

 このため、草創期のPKOでの主任務であった停戦監視のような紛争当事者とならない任務に加え、工兵任務という国家創造への関与、地域防護という紛争当事者への参画が含まれ、実のところ日本のPKO協力法では参加が難しいものとなっていた背景があり、そして、PKOの枠組を安全保障理事会の拘束力ある決議として派遣する施策、無理があるようにも。

 日本の国連PKO参加ですが、実質的に南スーダン派遣施設隊の撤収を持って、派遣されている自衛隊要員はUNMISS司令部へ派遣されている4名のとなりました。国際貢献任務では、自衛隊の国際活動教育隊への留学生受け入れなどは1992年から続く自衛隊PKO参加のノウハウを教授することは非常に大きな国際貢献ですし、自衛隊以外の支援もあります。

 国連主導ではありませんが、ソマリア沖海賊対処任務への護衛艦派遣と哨戒機派遣は、派遣規模では南スーダン派遣施設隊に比肩しえます。しかし、国連PKOへの部隊規模の参加が完了したことは事実で、政府は国際貢献への次の派遣を模索しているとのこと。ただ、現状のPKOが大きく変容した実状は、あまり深く認識されていないよう思えてなりません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性:アメリカの非軍事攻撃選択肢と限定攻撃政治的リスク

2017-04-17 23:14:05 | 国際・政治
■北朝鮮攻撃以外の選択肢
 朝鮮半島有事はどこまでその蓋然性があるのでしょうか。なによりも実際に発生すれば、日本本土への直接的影響も否定できないだけに慎重に情勢を見極める必要があります。

 北朝鮮は土曜日には首都平壌において大規模な軍事パレードを行い、開発中の各種弾道ミサイルが登場しました。軍事パレードにおいて登場したミサイルにはアメリカ本土を狙う開発中の物もありました。加えて次に、日曜日、新型中距離弾道ミサイルの実験を強行しました。実験は失敗、ミサイルは日本海沿岸にて発射から数秒後に空中で爆発しています。

 アメリカは原子力空母カールビンソンと有力な水上戦闘艦部隊を朝鮮半島周辺へ展開させ、必要であればトマホーク巡航ミサイルと空母艦載機による限定空爆を、北朝鮮核関連施設や弾道ミサイル関連施設への攻撃が可能な体制を急速に構築しつつあります。しかし、限定空爆、という選択肢は採用するには同盟国へ北朝鮮からの攻撃というリスクが残ります。

 東京や在日米軍施設への弾道ミサイルによる反撃が起こり得る、アメリカが懸念するのはこの点です。第二次世界大戦で散々爆撃された経験がある我が国は、北朝鮮が対日戦用に準備するノドンミサイルは200発程度、のドンミサイルは弾頭重量が1t程度ですので全部打ち込まれても1945年3月10日の東京大空襲一回と比較すれば遙かに少ないものです。

 現在、日本の世論はミサイル攻撃への盤石性を有していません。自衛隊にはミサイル防衛システムが高度に整備されていますが、予算上広範囲を防空可能なTHAADミサイル等は導入されず、常時防空体制を維持できているのは首都圏中枢の範囲のみです。一方ミサイル防衛システムは元々日本全土を防空する為のものではありませんが、此処に誤解がある。

 一般に日本全土を防空しうるものと誤解している向きがあり、仮に在日米軍基地やその周辺部にミサイル被害が生じた際、日本世論はどの方向へ進むのか不明です。現在はJアラートによりミサイル攻撃を受けた場合、即座に警報を発令する機能は整備されています。しかしシェルターや代替防空壕施設等、万一の際の退避施設や手段は明示されていません。

 仮に限定攻撃をアメリカが実施し、これに対抗する形で日本本土へのミサイル攻撃が行われる可能性は充分あります。実際、北朝鮮は韓国離島に対する無差別砲撃や軍事境界線非武装地帯韓国軍監視哨への攪乱攻撃の実施、平時の韓国国内への武装工作員浸透と韓国軍部隊への襲撃、韓国哨戒艦攻撃事案等、武力攻撃を平時から繰り返した実情があります。

 すると次善策はどうか、アメリカはシリアへのトマホーク攻撃を実施し、北朝鮮への必要に応じアメリカは動く、という通牒を送ったと解せられる行動がありました。アメリカ軍は続いてアフガニスタン国内へ大型爆風爆弾MOABを投下し武装勢力を攻撃、これもk他朝鮮に対して一定の通牒としての波及効果を期した運用といえるかもしれません、即ち示威です。

 アメリカ軍は核実験施設への限定攻撃が可能な装備を誇示する可能性があります。GBU-57大型貫通爆弾MOPという、地下施設を専門に狙う爆弾がありますが、このまま北朝鮮とのアメリカの対峙が続くのであれば、MOPもシリアのISIL地下施設攻撃という名目で、もしくはアフガニスタンのタリバーン洞窟陣地攻撃という名目で使用されるかもしれません。

 GBU-57はバンカーバスターとしてしられるGBU-28では破壊不能な地下施設を狙う大型爆弾で、重すぎて戦略爆撃機にしか搭載できません。不十分とされたGBU-28でも地中30mの硬化シェルターを攻撃可能ですが、GBU-57は成層圏から投下することで地中100mまで貫通し攻撃可能、ステルス性の高いB-2戦略爆撃機から隠密裏に投下する事が可能です。

 GBU-28は湾岸戦争後にイラク軍の地下司令部を攻撃するべく開発されたものですが、イラク軍は地下50m以上の大深度地下施設に司令部を置いたと分析されたため、対抗して100m以上地下を叩くことが可能な新兵器が開発されたわけです。映画シンゴジラにて米軍がゴジラ攻撃用にこの改良型を運用する描写がありましたが、ゴジラは痛そうでしたね。

 実際に軍事行動を実施する事には相当なリスクがありますし、限定攻撃を行う際には反撃を想定した軍属や軍人家族の韓国国内や日本国内からの撤収や、ミサイル防衛部隊の増強という必要があり、現時点でこれだけの準備がアメリカ、そして日本や韓国が行っているかについては、その兆候は無く、韓国軍では予備役の動員もおこなわわれていません。

 示威行動により可能な範囲内でアメリカ本土への核攻撃リスクを抑える状況変化を期待しているのではないか。この示すところは、アメリカはカールビンソン空母戦闘群を展開させる事で北朝鮮へ軍事圧力をかけると共に、周辺国、暗に中国への同調圧力を掛けているよう読み取れます。そして中国への譲歩を示すように、様々な施策を講じているようです。

 米中首脳会談が行われましたが、一つの懸案となっているTHAAD韓国配備、在韓米軍へのTHAAD防空システム配備の一時棚上げを示唆しています。THAADは在韓米軍を北朝鮮ミサイルから防護する装備ですが、中国は自国ミサイルの韓国への示威効果が低下するとして反発しています。このTHAADが一時的に棚上げされる可能性が報道されました。

 THAADはアメリカが北朝鮮への軍事攻撃を真剣に検討するならば、在韓米軍施設を防護するために即座に配備が必要な装備です。これを政治的に棚上げする事は軍事的合理性に適いません。勿論、アメリカ海軍はイージス艦の朝鮮半島周辺展開を増強している為、THAAD以外にイージス艦のSM-3ミサイルにより迎撃できる体制は構築しているのですが、ね。

 中国は平和的に、この問題の鎮静化を要望しています。これに対しアメリカのトランプ政権は、中国側が必要な制裁措置を取らない為に現状が醸成されたとの批判を続けています。勿論、北朝鮮がグアム周辺等へのミサイル実験、核実験の連続を行えば、限定攻撃の可能性はあります。しかし、軍事攻撃以外にも強硬な手段を執る余地は残っているのです。

 在韓米軍への戦術核兵器前方展開、限定攻撃を除く非軍事手段として考え得る現実的にもっとも強硬なアメリカの選択肢は1992年に撤去した韓国国内の米軍核戦力を再度展開させることでしょう。具体的にはB-61戦術核爆弾を烏山基地などへ展開し、もしくはグアムのアンダーセン基地へ韓国配備準備として展開し牽制するという選択肢も考えられます。

 B-61は通常の戦闘機からも投射可能で、必要に応じアメリカ空軍のF-15E戦闘爆撃機や韓国空軍のF-15K戦闘爆撃機などからの運用を行える体制を構築することは北朝鮮への大きな抑止力となります。日本と韓国はアメリカ本土のミニットマン大陸間弾道ミサイルによる核の傘に守られていますが、守られていると入っても現物が手元にない状況がある。

 太平洋の向こう側では安心できない韓国世論などがあり得るでしょう。しかし、B-61核爆弾の在韓米軍配備が行われたならば、韓国世論は一定程度落ち着く可能性があります。勿論、これは非軍事攻撃という選択肢の中での最も強硬な手段ではあるのですが。この他、北朝鮮に対し、かつてイランへ行った水準以上の経済封鎖を行う選択肢もあり得るでしょう。

 ただ、最大の危惧はアメリカが軍事行動に出る可能性が捨てきれず、同程度の可能性として日本本土へのミサイル攻撃が実施されるという危惧に対して、相応の対応策が構築されていない実情があります。北朝鮮が核実験を繰り返した場合にアメリカが軍事行動への分水嶺を越えたと判断するのか、直接的な砲撃等挑発行為が実施されるまでは分水嶺を越えないのか。注意深く見てゆく必要があります。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【日曜特集】築城基地航空祭二〇一三【4】新田原基地ファントム機動飛行(2013-10-27)

2017-04-16 22:11:44 | 航空自衛隊 装備名鑑
■ブルーインパルス妙技展示
 築城基地航空祭二〇一三、第四回は新田原基地より展開した第301飛行隊特別塗装機の飛行展示です。

 第301飛行隊は現在百里基地にいます//築城基地航空祭、九州の航空祭という事で単純に京都からの距離を考えてみますと、戦闘機部隊基地としては京都駅から新大阪駅へ進み、新幹線さくら号にて小倉駅へ、特急ソニックにて行橋駅へ、そこから日豊本線を築城駅、所要時間三時間強、距離は628kmです。

 新田原基地から展開のファントム、カラーリングが眩しい//京都市から最寄りの戦闘機部隊基地は石川県の日本海防衛要衝、小松基地です。しかし、その次に近い戦闘機部隊基地、となりますと、航空自衛隊戦闘機部隊は続いて茨城県の百里基地となります、距離にして599km、百里基地の方が築城基地より若干近かったのです。

 築城基地と新田原基地は同じ九州太平洋側の戦闘機部隊基地です//百里基地、近いとはいえしかし交通手段を見てみますと、京都駅を新幹線のぞみ号にて東京駅へ、ここまでは二時間強と比較的早く足を運べるのですが、特急ひたち、特急ときわ、との連絡に時間を要しまして概ね所要三時間半から四時間以上を視ておかねばなりません。

 ファントムの機動飛行は気合いが入っている//自衛隊戦闘機部隊基地では若干百里基地の方が近いのですが、百里基地は東北新幹線から距離がある常磐線沿線、故に所要時間では近くとも山陽新幹線とJR九州の特急網を駆使した築城基地よりも所要時間は長くかかってしまう、という点が、ちょっと意外でしたね。

 2005年に入間で視ました海洋迷彩ファントムを思い出す//F-1支援戦闘機が運用されていた時代、友人が足を運んでいまして、あのころはフィルム式カメラの主流でしたが、F-1支援戦闘機のシャープな形状の機体が六機編隊で飛行している情景を青空の下で順光の理想的な撮影配置から収めた一枚が新鮮でした、が、遠かった。

 居合刀の如く直ぐに切り帰してきます//この2013年に足を運んだのが初の築城基地航空祭展開でした、ただ、世の中狭いものでこの航空祭から少々経て鮎の旨い秘密の隠れ家、ではないけれども市内の居酒屋さんで呑んでいましたらば、昔F-86を築城で整備していたよ、という御爺ちゃんのお話を聞けました。

 低空飛行、滑走路から少し上を飛行します//F-1支援戦闘機は近接航空支援へ超低空を飛行する運用から対地迷彩が独特で、しかし地上展示以外は三沢基地か築城基地に足を運ばなければ編隊飛行など視る事が出来なかったのですが、九州の航空祭へ足を運ぶには少々遠い印象がありまして、気付けば機種転換、と。

 制空戦闘から対地攻撃に果ては対艦攻撃までこなす//戦闘機部隊基地と云いますと、忘れてはならないのが在日米軍基地で、山口県の岩国基地、神奈川県の厚木基地、この二つの拠点があります。岩国基地は新幹線新岩国駅から山陽本線で間近、厚木基地は新横浜駅から横浜を相鉄線に乗り換え若干離れますが、まあ、近い。

 群青のファントム、築城で視られてよかったです、新田原連戦はちょっと遠い//小松基地は京都市から最寄りの自衛隊戦闘機部隊基地でして、京都駅から特急サンダーバードに乗りましたらばそのまま乗り換えなしにて二時間弱の小松駅直通です。京都と金沢は歴史的なつながりが永く、特急も本数が多く運行されている故の速達性といえましょう。

 ブルーインパルスの飛行展示は続いて実施されます//九州、しかし距離と所要時間とは別としまして、首都圏の百里基地、首都圏外縁というべきでしょうか茨城県は、この距離感と比較しまして心理的に遠く感じてしまいます、もちろん、主観的なもので見方によっては山陽新幹線の始発から終点へ向かいすぐ、ですが。

 ASM-2空対艦ミサイル、F-2はこれを四発搭載し長距離攻撃が可能です//ブルートレインが運行されている頃には、九州はもっと身近に感じていたもの、実は初めて足を運んだ海上自衛隊基地は舞鶴基地ではなく佐世保基地でしたし、初めての体験航海は舞鶴地方隊護衛艦きくづき、でしたが初の停泊艦見学はミサイル護衛艦さわかぜ、です。

 ブルーインパルスは飛行する大空を背景に取りたいので、この最前列の撮影位置から陣地変換する//九州ブルートレイン最終章を飾る頃まで、京都駅を宵の口に寝台特急なは・あかつき号が運行されていました、特急なは号は京都駅から西鹿児島駅、現在の鹿児島中央駅を結んでいまして九州新幹線部分開業と共に熊本止まりとなりましたが、毎晩運行されていました。

 岐阜基地以外で実戦配備されているのは暗視ポッドなど初めてみましたね//特急あかつき号は京都駅から長崎駅まで運行されていまして、この寝台特急にはレガートシート車という座席車が連結されており、この部分が寝台を使うよりも格安で移動できたわけです、長崎へのブルートレインは東京から寝台特急さくら号が運行されていましたね。

 小⑨っくぴっとも一般公開していましたが並ぶ時間は流石に余裕がない//京都駅を0000時過ぎに九州へ出発していました寝台特急富士はやぶさ号も九州と本州を結ぶ特急でした、1800時頃に東京駅を出発し、六時間かけて東海道本線を京都駅まで到達していた訳で、考えると長距離を一晩でゆくブルートレインの風格充分という列車でした。

 ブルーインパルス飛行展示までの時間を有効利用するべく地上展示を順次見てゆく訳ですが、そろそろ離陸時間だ//こう考えてみますと、寝台特急がどんどん運行されていた時代の方が、寝ているうちに目的地へ到達する事が出来た訳ですし、旅行の自由度は高かった、と思ってしまうのは気のせいではないでしょう、日本海縦貫線にも青森へ特急日本海が運行されていましたし、ね。

 ブルーインパルスT-4練習機のタキシングが始まった//寝台特急で九州まで足を運んで、その上で航空祭を堪能し、新幹線で帰る、勿論寝台特急全盛期には人気も当然全盛期ですから少々早い時期に切符を手配する必要がありましたが、今考えてみますともう少し寝台特急のB寝台6300円を好意的に考えていれば、と思う事も。

 F-2戦闘機と離陸するT-4が行き違う//新幹線全盛の時代ですが、一方どれだけ便利になったのかと考えてみますと、驚いたのは京都駅から始発で築城に行く場合です。京都駅から新快速で新大阪駅へ、新大阪駅を始発新幹線みずほ号に乗車しますと、八時過ぎにはもう福岡の小倉駅へ到達してしまうのです。

 ブルーインパルス離陸//特急にちりん号に小倉駅で乗り換えますと九時前には行橋駅到達、航空祭開催日にはJR九州は臨時特急と築城駅臨時停車を行いますので行橋駅で乗り換えずともそのまま築城駅まで特急で行く事が出来、即ち京都駅始発でも九時ごろ築城駅へ到着できる、これは凄い。

 撮影位置は上空が見えれば文句なしのつもりでしたが、先ほどの最前列付近に戻ってみた//百里基地へ始発ではこうはいきません、京都駅を新幹線のぞみ100号にて勇躍出発しまして東京駅に到着するのが九時近く、東京駅から上野駅へ移動する頃には既に九時半近くで石岡駅へ特急ときわ号到着は十時半頃、この頃にはシャトルバスが大渋滞に巻き込まれる。

 航空祭最前列は競争が激しい人気撮影位置ですが、なんと戻ってみたら余裕があります//航空祭へ足を運ぶ際、若干近い百里基地ですが、それでも新幹線と連絡する特急の関係から一時間半ほど所要時間が大きくなるわけでして、こうした所要時間を考えますと、新幹線が頻繁に往復する需要がある分、交通面で九州は京都から近い場所にあるのだなあ、と。

 ブルーインパルス、最前列から撮影だ//小松基地への始発が気になるところですが、これはもう何度も調べています、サンダーバードの始発はそれ程早くないので、小松駅到着は九時半近く、基地までは徒歩で行く事も出来ますが少々時間を要します、即ち小松航空祭へは前日入りが必要になりホテルが要る。

 快晴ゆえのスモークの白い輝きが眩しい//撮影へ展開する場合の築城基地ですが、築城駅から近い点が嬉しい所です。逆に百里基地ですとそうはいかない、石岡駅から茨城空港まで15km離れていますので、BRTかしてつバスとシャトルバスが運行されていますが、道路部分で確実に大渋滞に巻き込まれます。

 ブルーインパルスの飛行展示は始まったばかりだ//築城基地航空祭、こうして考えてみますと、もう少し早い頃から行くべきだったなあ、と考える次第です。特に現在の航空祭は来場者が多くなり過ぎ、最前列確保は開門前一時間の行列が求められるほど、しかし、寝台特急多数運行時代は航空祭ももっと大らかでした。

 築城基地航空祭はブルーインパルスの次にも多くの飛行展示が組まれているプログラムです、つまり航空祭は此れからだ//行かず後悔するよりは行って堪能、この記事をご覧の方は是非迷われている行事には足を運ばれる事をお勧めします、勿論、築城航空祭二〇一六のような悪天候になって飛行できない状況ですと、まあ、足を運んで公開される、という事もあるかもしれませんけど、ね。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性:金正恩の北朝鮮核とミサイル実験へ米トランプ政権の施策

2017-04-15 22:20:02 | 防衛・安全保障
■朝鮮半島有事危惧の現実化
 朝鮮半島有事の切迫、周辺事態に挙げられる朝鮮半島有事、果たして今回はどのように展開するのでしょうか。

 朝鮮半島情勢が風雲急を告げる緊迫した状況となっています。朝鮮半島有事、日本からは日本海を越えた対岸の隣国ですが、この地域での有事は我が国へ大きな影響を及ぼすもので、決して対岸の火事とは言い切れません。そして現代の北朝鮮ミサイル戦力は日本本土へ充分大きな脅威を及ぼす水準であり状況次第でミサイル防衛戦の第一線となりかねない。

 北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル実験、更にまもなく準備が完了すると観られる六回目の核実験準備を受け、朝鮮半島情勢の緊迫度合いが増してきました。カールビンソン空母戦闘群の豪州沖からの朝鮮半島沖急派を受け、具体的には北朝鮮の六度目の核実験など、アメリカが想定するレッドラインを越えたと判断した場合、不測の事態が発生する可能性が高い。

 アメリカのトランプ大統領は、北朝鮮情勢とその脅威度を慎重に見極めようとしています。見極めるとは、米本土へ及ぶ脅威が感化できない水準へ達する前に必要であれば必要な全ての措置をとるとの意味です。トランプ大統領は大統領選当時には北東アジア情勢へ極力不関与の姿勢を示し、日本と北朝鮮の紛争に巻き込まれたくないとの発言がありました。

 日本が核武装すればよい、北朝鮮の核戦力に日本が脅かされるのであれば日本が核武装すればよい、との発言をしています。日朝間の紛争とみていましたが、しかし、北朝鮮の核戦力は核兵器国であるアメリカを標的としており、米本土への核攻撃態勢が確立するまで核開発及びミサイル開発は継続される実状に鑑み、積極的な姿勢を示すよう転換しました。

 ただ、軍事行動が実施される場合でも限定攻撃に留まるでしょう。限定攻撃に留まると判断する根拠は、在日米軍基地や在韓米軍基地の増派状況が大規模な航空攻撃を実施するには不十分であり、北朝鮮国内の多数が整備される軍事目標を無力化するには、現在朝鮮半島へ向かっているカールビンソン空母戦闘群だけでは全く不十分といわざるを得ません。

 アメリカが本格的な軍事行動を行う際には、グアムや在日米軍基地への大規模な航空部隊増派と在韓米国民の退避体制確立、弾道ミサイル防衛部隊の増強が為されなければ十分ではありません。充分行わなければ韓国の首都ソウルは北朝鮮の野砲やロケット弾の射程内にあり、東京や上海と北京に並ぶ北東アジア有数の大都市圏が危険に曝されるのです。

 航空攻撃を実施する場合、アジア地域にアメリカはかなり強力な航空戦力を展開させています。在日米軍は嘉手納基地に有力な戦闘機部隊が展開していますが制空戦闘任務にあたるF-15飛行隊が主力で、対地攻撃に当たる航空部隊は三沢基地のF-16飛行隊、韓国の烏山基地に展開するF-16飛行隊、F/A-18やF-35Bを運用する岩国基地の海兵航空部隊など。

 これに第七艦隊の水上戦闘艦艇から運用されるトマホーク巡航ミサイル、太平洋艦隊のオハイオ級巡航ミサイル原潜の打撃力はかなり規模ですが、同盟国へ北朝鮮ミサイル攻撃等の事態拡大を阻止するには第一撃で大半の北朝鮮弾道ミサイルや南北国境付近のロケット砲兵戦力を無力化する必要があり、平時に西太平洋へ配備される戦力では不十分なのです。

 トマホークによる限定攻撃の可能性はどうか。アメリカ海軍は先週、実際にミサイル駆逐艦によるミサイル攻撃をシリアへ行いました。シリアの化学兵器サリンの使用を受け、アメリカは59発のトマホークをシリア国内の空軍基地へ投射し、シリア空軍戦力の二割を無力化しました、この種の限定攻撃が北朝鮮に対しても行われる可能性はあるのでしょうか。

 この点について考えてみますと、オハイオ級巡航ミサイル潜水艦など152発のトマホークミサイルを搭載する投射手段があり、同時に600発程度のミサイルを北朝鮮限定攻撃へ用いることは可能ですが、北朝鮮の対日戦用及び対韓国戦用の弾道ミサイルをこれだけでは無力化することは難しいのが現実としてあります。何より、ミサイルの位置が分からない。

 北朝鮮ミサイルは移動発射装置により自動車化されているため、発射されるまでその位置は正確にはわかりません。今日、人工衛星により多くの地上目標を監視することができるようになっていますが、これは固定施設などを定点撮影する場合に限ったもので、移動するミサイル発射装置を常時監視する事は、特にトンネルや森林に秘匿されれば分りません。

 ミサイル移動発射装置、大きさは新幹線車両1両分ほどのものですが、これを北海道の1.4倍もの面積をもつ北朝鮮全土から巧みに偽装された発射装置を探しだし、常時追跡するには現在の監視体制では全く不十分で、例えば常時十数機の高高度無人偵察機とその数倍の数の無人偵察機を上空飛行させ監視任務に充てない限り、追跡は実質、不可能でしょう。

 核関連施設への限定空爆、という可能性について。アメリカが用い得る手段として一定程度可能性が大きなものはこの選択肢です。北朝鮮の豊渓里核実験場を空母艦載機か岩国のF-35B戦闘機、若しくは烏山基地か三沢基地のF-16戦闘機により精密誘導爆弾により正確に破壊する。岩国のF-35Bであれば環太平洋地域唯一のステルス機部隊となっています。

 有人航空機を北朝鮮上空へ展開させる事は、防空制圧が必要となります。即ち、北朝鮮にはきわめて密度の高い地対空ミサイル部隊が展開し、時代遅れですが目視照準の高射砲部隊、更に高射機関砲部隊が高密度に配置されています。これは朝鮮戦争再燃へアメリカ軍との戦闘を想定し、航空優勢を喪失する前提で陸上部隊を航空攻撃から守る為のものです。

 トマホーク巡航ミサイルは、この種のリスクを回避できる長距離打撃力ですが、残念ながらトマホークは地下施設を破壊する設計ではなく、坑道入り口部分を正確に破壊するものです。一時的に機能を喪失させられますが、掘り返す事で復旧し、これだけでは残念ながら核開発を止める事は出来ません。また、弾道ミサイルによる同盟国への反撃はあり得る。

 北朝鮮に対し巡航ミサイルによる攻撃を行う事は、核開発を短期的に停止させる効能はあるものの長期的には開発を中止に追い込むには至らず、在韓米軍基地や在日米軍基地へ弾道ミサイルを誘発する事となり、この弾道ミサイル部隊への報復攻撃が重ねられるならば、戦略上の禁忌、戦力逐次投入ともなりかねません。ここに北朝鮮限定攻撃の難しさがある。

 もっとも、アメリカは打つ手なしの状態ではありません。アメリカは米軍が保有する通常爆弾では最大のMOAB大規模爆風爆弾をアフガニスタンにおいて実戦使用しました。これは制式名称をGBU43Bといい、高熱を発するアルミ粉塵充填のトリトナール爆薬を用いた10t近い超大型爆弾で、高熱により大気を刺激、極めて広範囲に爆風被害を与える装備です。

 具体的には弾道ミサイルなどの移動発射装置やミサイル本体へ爆風圧を叩きつけ無力化することが可能で、アフガニスタンでの使用はアメリカ軍での説明ではISILの地下施設などを狙ったとの発表ですが、地下施設を攻撃するならば、もう少し安価なバンカーバスター地中貫通爆弾をF-15E戦闘爆撃機から投射すれば事足りる事で、少々威力過剰というもの。言い換えれば北朝鮮への示威行動としてGBU43Bが用いられたといえるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平成二十九年度四月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2017.04.15/04.16)

2017-04-14 20:55:41 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 観桜最盛期を越え桜吹雪舞う中、日本海対岸の朝鮮半島では核実験準備と空母展開に風雲急を告げる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 第6師団創設55周年神町駐屯地祭、今週末最大の自衛隊行事はこの神町駐屯地祭でしょう。東北地方南部を防衛警備管区とする第6師団は基幹連隊指揮統制システム実験部隊として自衛隊初のC4I部隊化が為され、現在の新師団通信システム整備への基礎を築くと共に、統合機動防衛力整備へ隷下部隊一部を機動連隊へ改編する過渡期の師団創設祭となります。

 陸上自衛隊幹部候補生学校創設63周年前川原駐屯地祭、幹部候補生学校とは陸上自衛隊全ての幹部自衛官の登竜門となっている、即ち3尉任官を目指す幹部候補生の教育機関です。福岡県久留米市に所在する駐屯地で、候補生の行進や訓練展示は動作仕草一つ一つが将来の陸上自衛隊部隊指揮官を目指すに相応しい模範で、全ての指揮官はここから錬成される。

 霞目駐屯地創設60周年記念行事、震災前は東北方面隊記念行事海上、映画ガメラ2にて仙台市からの退避拠点となり、実任務として東日本大震災では仙台市始め宮城県内の航空部隊策源地として活躍した霞目飛行場にて、行事が行われます。霞目駐屯地には東北方面航空隊隷下の方面ヘリコプター隊が駐屯、震災後は例年、防災訓練展示が実施されています。

 宇都宮駐屯地創設67周年記念行事、中央即応連隊と第12特科隊が駐屯する駐屯地です。中央即応連隊は中央即応集団隷下の緊急展開部隊で海外派遣第一陣を担う部隊だけに小銃の訓練度合いが物凄く、装甲車を多数配備し訓練展示は小銃と機関銃だけでも物凄い迫力です。尚、飛行場のある北宇都宮駐屯地とは別の場所ですので展開に際し、ご注意下さい。

 板妻駐屯地創設55周年記念行事、第1師団隷下の第34普通科連隊と東部方面混成団第3陸曹教育隊が駐屯する静岡県御殿場の駐屯地祭です。師団普通科連隊で、部隊規模が大きい。映画ガメラ2で79式重MATにて活躍した第1対戦車隊がかつて駐屯し、最新装備中距離多目的誘導弾が全国に先駆け第3陸曹教育隊へ配備された駐屯地としても有名ですね。

 久居駐屯地創設65周年記念行事、三重県津市に所在し近鉄久居駅から隊舎が見える便利さで有名です。第10師団隷下の第33普通科連隊が駐屯し、駐屯地に隣接する広大な訓練場が式典会場となります。第33普通科連隊は中部方面隊で最初に軽装甲機動車を受領した部隊で、訓練場地区にはV-107やUH-1等の保存展示機が並び、迫力ある写真が撮れます。

 信太山駐屯地創設59周年記念行事、大阪府和泉市に所在する駐屯地で第37普通科連隊が駐屯しています。映画ガメラⅢにて信太山駐屯地営門を防衛出動する連隊機械化部隊の様子が登場し、実際行きますと映画そのままの雰囲気を残している事に驚かされます。式典会場は観覧地区が起伏に富み、撮影位置を変える事で発見が非常に多い駐屯地祭のひとつ。

 高田駐屯地創設67周年記念行事、新潟県上越市に所在し第12旅団隷下の第2普通科連隊が駐屯しています。上越市観桜会と併せて行事が行われますが新潟県は今頃が見頃なのでしょうか。第2普通科連隊は先週の第12旅団創設記念行事相馬原駐屯地祭にて悪天候下訓練展示を実施しました、雨天でよく見えなかったという方、再度というのもありでしょう。

 松本駐屯地創設67周年記念行事、第13普通科連隊が駐屯しています。日本アルプスを警備管区とし山岳連隊として名高い部隊で、この時期の長野県は時折雪に見舞われる事から駐屯地祭や訓練展示を冬季迷彩で実施する事もあります。雪を冠した日本アルプスを背景に冬季迷彩は映える迫力を誇示しますが、さて、今週末の天候は野戦迷彩か冬季迷彩か。

 さて。孤独のグルメ、という教養ドラマがありますが、雑貨商の中年男性が仕事の合間に気ままに美味しそうなお店に入るという漫画が原作です。これ、中々面白いもので、行きつけの居酒屋さんの女将さんも愛読していたりして、しかも、初めて足を運んだ知らない街の知らないお店でも勇気を出して入ってみるという、気概と冒険心が湧いてくる作品ですね。

 お仕事で遠くに足を運んだ際は兎も角として自衛隊関連行事の為に遠くの街に足を運んだ際には、何を食べたいのだろうかと自問自答しつつ街並みを楽しむこととしている当方ですが、やはり迷ってしまうのは、その土地の名物を頂くのか、食べたいものを探すのか、というところです。勿論知らない街ですので、迷子にならないように気を付けつつ、です。

 そこで気づくのは、やはり、雰囲気が古いといいますが、店構えと客の入り具合が外から見えるお店に外れは無い、という事です。対して調度品が新しく、店員の元気だけで持っているようなお店、観光地などに多いのですが、これは店員さんの自己満足で賑やかを演出しているお店も無いではなく、何故潰れないのだろうか、と驚くこともあり要注意です。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・4月16日:第6師団創設55周年神町駐屯地祭…http://www.mod.go.jp/gsdf/neae/6d/
・4月16日:霞目駐屯地創設60周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/neae/neaavn/
・4月16日:高田駐屯地創設67周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/1eb/5eg/
・4月16日:宇都宮駐屯地創設67周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/utunomiya/utsunomiyahp/
・4月16日:板妻駐屯地創設55周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/1d/unit/34i.html
・4月15日:松本駐屯地創設67周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/12b/
・4月16日:久居駐屯地創設65周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/10d/butai/sta/hisai/
・4月16日:信太山駐屯地創設59周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/3d/shinodayama/
・4月16日:陸上自衛隊幹部候補生学校創設63周年前川原駐屯地祭…http://www.mod.go.jp/gsdf/ocsh/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【京都幕間旅情】清水寺,春夜間特別拝観(中篇)半世紀隔てての本堂大修復を奥ノ院から望む

2017-04-13 20:00:00 | 写真
■五〇年に一度の大修理
 京都幕間旅情、第二夜は清水寺春の夜間特別拝観情景を前回に続き紹介しましょう。

 清水寺の印象、この奥の院から描写されているといっても過言ではない。奥の院からは本堂の美しい屋根の軽寿が見えまして、二重の檜皮屋根が一つの屋根を一層に二層を含める独特の形状となっています。室町時代からこの本堂の屋根の曲線は維持されていまして。

 技巧溢れた屋根の形状、少々半世紀に一度の修理により見えなくなっているのは残念ではありますが、夜景にて組まれた足場の木々を眺めれば、一風昼間の修繕風景とは異なる印象が、ある。そして足場の狭間から屋根の形状が見え、此処が張り替えられる訳ですね。

 本堂の片隅には出世大黒、大黒様が祀られています。大黒様は崇敬を集めたことで出世大黒と称せられるようになっているのですが、これは参拝者が大物になっただけでなく、室町時代に参詣道の入り口に安置された大黒様が現在の本堂の隣に移ったという歴史がある。

 出世大黒、これは参道から様々な数奇を経て本堂の隣へ隣と移設され、本堂に達したことで出世した、という由来となっています。夜には少々参詣が難しい場所ではありますが、室町時代に安置場所を出世し本堂の隣に至った、やはり大志を抱き参拝したいものですね。

 本堂の舞台は子安塔と山を拝むことができます。山岳寺院の山を拝む場所、お山の角度を造営に際して緻密に計算したことが伺えるのですが、その工夫は残念ながら今日誰が設計したかは伝わらず、美しい情景を崇敬の場所とする設計者の心の温もりだけが伝わります。

 子安塔は高さ15m、先ほどの三重塔の半分の高さで、しかし外見は重なり、半分の高さの子安塔が山を一層引き立てているようです。子安塔は夜間特別拝観では公開されていません、昼間の参拝では少々小ぶりの印象をうけるのは足を運んだ際の感想、というもの。

 朱色の建物は遠く遠景に大きな仏塔との印象を強く与え、なるほど遠景に観るべきかのかもしれません。室町時代には仁王門のとなりにあり、奈良時代に皇室の子安を願い千手観音が安産を祈願する場所でした。修復した後に明治時代、現在の場所へ移っています。

 本堂裏手には地主神社が広がります。夜間特別拝観では参詣する事ができないのは残念ですが、縁結びの御利益で有名な神社ですね。創建は京都盆地がまだ湖の時代で神話の時代に創建されたといわれます。清水寺の前から地主神社があり奈良時代の様式をとった社だ。

 社殿には大国主尊が祀られていまして、その前に恋いの石などが置かれています。この石はいつごろからこの場所にあるかは不詳ですが、室町時代にはすでにあり、江戸時代の文献には大勢にぎわったとも。拝殿、四方聖獣の蒼龍をまつり、京都の東の鎮守を担います。

 鎌倉時代の逸話では地主神社の拝殿から音羽の滝へこの蒼龍が夜な夜な抜け出し、水を頂いていたともいわれます。このころから音羽の滝はあった、ということでしょうか。音羽の滝はいまも滾々と水を湛える、清水寺の名前の由来となったのが音羽の滝の清水です。

 音羽の滝、三本の水流があり、もともと一本の滝であったようですが、鎌倉時代にはすでに三本の滝となっていたという。その前には記録がありません。滝行にあたる音羽の滝であったのですが、参拝の人々が多く滝行を行うために三本に分かれたともいわれています。

 今日では音羽の滝は水を願掛けとともに頂く場所となっていますが、滝行をへて昔は本堂へ石段を登り、33回行う修行を行っていたという。観音様の三十三観音にあわせて滝行と本堂参拝を行っていましたが、今日では飲む事で成就、といわれています。楽になった訳ですね。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【京都幕間旅情】清水寺,春夜間特別拝観(前篇)春の京都宵闇彩る幻想的な観桜と信仰の燈火

2017-04-12 20:02:31 | 写真
■音羽山清水寺春の夜間特別拝観
 音羽山清水寺、京都春の風物詩のひとつ、夜間特別拝観が9日まで拝観者を迎えました。遅咲きの桜花と観桜には少し早い情景ですが、ご覧いただければ幸い。

 清水寺、1200年の歴史を伝える京都を代表する寺院です。今回は春の夜間特別拝観の様子を紹介しましょう。さて山門を観て横には馬駐があり、かつてはこの場所に夜間特別拝観の受付がありましたが、仁王門をへて清水寺の境内は今年広く参拝者を招いています。

 西門、極楽浄土は西方にあるとの言い伝え故に西門は荘厳美麗の場所なのですが、既に補修工事が始まっています。清水寺は江戸時代まで参拝者が参拝の後、宿坊に宿を取ることができまして、西門には夢殿として参拝者が宿坊に際し朝最初に足を運んだ場所という。

 夢殿、この西門のとなりに在ります伽藍は清水寺が江戸時代に宿坊を行っていた時代、朝最初に参拝者が見た夢を夢殿にて伝え、そこから夢見の意味する事を問うた占いを願い出ることができました。このため西門は江戸時代まで、この清水寺を代表する参詣の場であったとも。

 三重塔、階段を上りまして右手にみえる仏塔です。三重塔は31m、日本でもっとも高い三重塔ですが最初の塔は応仁の乱で炎上、江戸時代に再建されまして知性を司る来日如来を安置しています。朱色の仏塔は昭和末期に創建当時の朱色の彩色を再現し今に至ります。

 極彩色の仏塔を観ますと、半世紀ぶりに行われる工事の喧騒を眺めつつも、これからはじまる復元工事にも期待が高まるのは当方だけでしょうか。三重塔は幾重の屋根が上に行くほど大きな構造物や図柄となり、遠近法を考慮した設計となり、威厳を今日に伝えます。

 本堂は三重塔に奥まり、いよいよ奥へと進むわけです。手前の田村堂、お堂は江戸時代や平安時代には参拝者に開放されており、寺の開祖を祀ったお堂です。清水寺は開祖を田村堂としていますが、この由来は坂之上田村麿が山中、鹿狩りを行ったさいに由来がある。

 延鎮正人に坂上田村麻呂は鹿の殺傷をとがめられ、この鹿を弔ったことから清水寺が始まったとのこと、これは清水寺の始まりですが、最初の征夷大将軍坂之上田村麿が開祖として今日にも崇敬を集めているわけですね。隣に鹿間塚として鹿狩りの鹿も祀られている。

 寺を代表するのは崖の上の本堂、この本堂は国宝で、清水寺といえば本堂を示すものといえるかもしれません。正面は36m、高さ18mという建物です。本堂は崖にせり出した舞台が代表的な形状、清水の舞台から飛び降りる、という語原で、これはご存知の通り。

 本堂と清水の舞台は本尊への雅楽や舞をおこなうための舞台として位置づけられています。50年に一度の大修復が行われているところではありますが、半世紀に一度しか見る事のできない貴重な情景です、今ならば夜景の雰囲気がいつもと違う本殿を拝めるでしょう。

 本堂の修復が進む様子、半世紀に一度の修理は檜皮蕗の屋根を張り替えるというもの。本堂におさめられるのは十一面千手菩薩が祀られています。祈る手の上にはさらに小さな仏像、33の姿に変化し人々を救うとされます。本尊はもう一つ奥に秘仏として納められる。

 半世紀に一度の修復故に少々往事の本堂の姿をみるには時を置く必要がありますけれども、半世紀に一度しか拝むことができない修復の姿を参詣していると考えるならば、これはちょっと何かの縁を感じることができるやもしれませんね。よい視点から考えてみましょう。

 奥の院、本堂のさらに先にあります。延鎮正人由来の建物で、清水寺の舞台と本堂よりも、この奥の院からお寺は始まりました。本堂の桧一枚の大舞台を望見できる本堂と、そして奥の院、この奥の院にも舞台があります。絶景、奥の院から望む本堂の様子はほぼすべて。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカロシア対立激化!シリア攻撃受け緊迫と東欧・東部ウクライナに続く鉄のカーテン

2017-04-11 23:44:00 | 国際・政治
■21世紀の冷戦構造が形成
 アメリカのシリア攻撃へ、シリアを支援するロシア政府が強く反発、2009年の弾道ミサイル防衛システム東欧配備決定や2014年のウクライナ東部紛争及びクリミア半島併合に続く新しい緊張を生み、点と線が繋がろうとしています。

 アメリカ国防総省の戦果確認によれば、シリア空軍作戦航空機20機を破壊し、これは可動航空機の二割に達するとの認識です。シリア政府は攻撃された基地の滑走路機能は維持できているとしてアメリカの攻撃失敗を強調しましたが、アメリカ国防総省は滑走路があっても飛ばす航空機や支援設備の無い滑走路は単なる平地に過ぎないとしています。一方、シリア軍の化学兵器備蓄施設については、その破壊により化学剤が飛散することで周辺住民への付随被害が及ぶ危険性からその攻撃を慎重に避けたとのことです。

 アメリカのシリアトマホーク攻撃ですが、アサド政権には軽い御仕置程度の効果しかない、とは軍事専門家の意見の一つですが、アメリカのトランプ大統領としても軽い御仕置御程度であったという認識が必要でしょう。今回トマホーク攻撃を行ったのはアメリカ海軍の駆逐艦二隻、巡航ミサイルが対地攻撃における艦砲射撃の代用と考えれば、アメリカ海軍は膨大な水上戦闘艦の中で二隻の駆逐艦が艦砲射撃をしたに過ぎず、ほんの端緒といえる。

 そして、化学兵器が使用されれば、こうした制裁措置が即座に実行されるという決意表明は、シリアのアサド大統領にとり軽いものではないでしょう、地中海にはより多数の駆逐艦がトマホークを搭載し攻撃可能な海域に遊弋し、50機の戦闘爆撃機を搭載したニミッツ級原子力空母が周辺海域を遊弋しています、更に今回の約三倍という154発のトマホークを搭載したオハイオ級巡航ミサイル潜水艦も今回の“御仕置”には参加していません。

 アメリカ海軍駆逐艦によるシリアへのミサイル攻撃はシリア空軍作戦機の二割を破壊したという戦果評価を示した国防総省発表にたいし、シリア空軍は攻撃を受けた空軍基地の復旧を発表、航空攻撃を再開しました。今回、アメリカ海軍はミサイル駆逐艦2隻からのトマホークミサイル攻撃を実施したのみですので、必要であれば追加のミサイル攻撃や空母航空団からの航空攻撃、無人攻撃機からの攻撃と特殊部隊による特殊作戦という選択肢が残ります。トマホークの弾頭重量は500ポンド爆弾二発分、空母航空団は50機の艦載機を毎日170任務飛行連続出撃が可能で、F/A-18E戦闘攻撃機は8tの各種兵装を搭載可能、この打撃力はトマホークとは比較になりません。

 しかし、今回のミサイル攻撃によりロシアの極めて強い反応が新しい米ロ対立を加速させました。トランプ大統領とプーチン大統領は現段階で双方を直接非難する段階にはなく、慎重に言葉を選び相互を牽制している極めて瀬戸際の段階ではありますが、シリア軍へのロシア軍支援が今後継続された場合はどうなるのか、ロシア軍がシリア軍の装備を補強し、そのシリア軍とアメリカ軍が戦闘に展開する、ヴェトナム戦争の構図が再燃しかねません。具体的にはシリア軍の地対空ミサイルがロシア軍により強化されることが大きな懸念でしょう。

 シリア軍は四度の中東戦争をはさみ、極めて高度な航空打撃力を有するイスラエル空軍の航空攻撃から地上部隊を防護するべく高度な野戦防空部隊を整備してきました。2011年からのシリア内戦によりシリア軍野戦防空システムは大きな被害を被っており、特に整備を放置するだけでも稼働率は著しく低下するため、現時点では最盛期と比較し相当能力は低下していると考えられます。しかし、2017年に入りイスラエル空軍がゴラン高原のシリア軍防空施設へ航空攻撃を実施し防空制圧任務を展開しているため、イスラエル空軍に越境作戦を決断させる程度には健在、ともいえるでしょう。

 ロシアが今回のアメリカ軍によりシリア政府軍攻撃を実施した事への極めて厳しい反発、これはプーチン大統領とアサド大統領の個人的信頼関係に依拠した2011年のシリア内戦勃発からの継続したシリア軍事支援の継続にたいし、この支援基盤である空軍基地をミサイル攻撃により破壊したことはロシア側にとりアメリカが一線を越えた、という認識となったのでしょう。

 現在、ロシア軍のシリア軍事支援は2015年に本格化した航空攻撃や艦隊派遣による巡航ミサイル攻撃、地上戦軍事顧問の派遣などを実施しており、シリア支援への自由シリア軍やISILへの大規模介入は終了していますが、今回のアメリカ軍空爆により、ロシア軍再派遣を行い米軍を牽制する、または地対空ミサイルなどの供与が行われる可能性が高く、すでに黒海艦隊のロシア軍艦艇がシリア南部へ入港しているとの報道もあります。

 危惧する点はロシアとアメリカの直接軍事対決、特に戦術核兵器がシリア領内で使用される可能性や、シリアと国境を接するイスラエルが巻き込まれることで第五次中東戦争へ発展する懸念です。イスラエルとシリアは中東戦争などをへてシリア内戦以前までPKO部隊が停戦監視に当たっていましたが、ゴラン高原PKOはシリア内戦とともに終了しています。

 今回の米ロ対立は、オバマ政権時代とその前の共和党政権であったブッシュ政権末期からのロシアとの対立を更に新しい方面から拡大するリスクが生じていまして、これは日ロ関係への展開へ波及する可能性も否定できません。オバマ政権からの対立は、欧州のアメリカ同盟国と在欧米軍基地防衛を目的とし、欧州へミサイル防衛システムとミサイル防衛対応イージス艦を展開させる事でロシアの核戦力が欧州に対して抑止力を失う危惧から生じたものです。

 ミサイル防衛を巡る対立、基本的に対立の第一線は欧州の東欧でした。この対立は2014年のウクライナ東部紛争により拡大する事となりましたが、ここにシリアを巡る対立が重なる事で、欧州から黒海とクリミア半島ウクライナ東部を通り、シリアを経て地中海まで、新しい鉄のカーテン、東西冷戦の再発への新しい対立構造が構築されようとしているようにみえてなりません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする