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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

吉村昭著「羆嵐」を読む

2022-02-14 14:33:17 | 本・感想

 羆が何人もの人間を食い殺すという戦慄のストーリー。それは大正4年、北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢の開拓部落に巨大な羆(ヒグマ)が現れ、部落民を喰い殺したという実在の「三毛別羆事件」を吉村昭の圧倒的な筆力で私を恐怖に陥れた。

 小説「羆嵐」は1971(昭和46)年の発刊だから、吉村昭が作家として活動を本格化させたのが1960年前後だから、吉村としては作家として脂が乗ってきたころの作品である。

          

 時は大正4年冬、北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢(現在の苫前町三渓)の開拓部落に冬眠し損ねたと思われる巨大な羆が現れ、二日間にわたって部落民5人を喰い殺し、4人に重傷を負わせるという悲惨な事件が発生した。

 この史実を吉村昭は徹底的に取材し、語り伝えられている中で欠けている部分を補い、読者を恐怖の世界に誘った。この小説は前回の投稿で吉村作品のことを、吉村が〈「戦史小説」より「歴史小説」の方がはるかに自由で創作的な満足感が得られる〉と述べたことを紹介したが、「羆嵐」は明らかに「歴史小説」の部類に属する小説だろう。さらに、このことも先に記したが、この「羆嵐」においても吉村はまるで開拓部落の一住民であったかのような目線でこの小説を綴っている。それが圧倒的な恐怖感を読者に与え、読者の支持を得たのだと思う。

 小説「羆嵐」は、事件の後に羆を退治しようとする人々の姿を追うが、想像を絶する巨大羆(一説には体長3.5m、対自由380kgと伝えられている)に地元の猟師たちも、地元警察も及び腰となる中、一人のヒーロー(ヒール?)が登場する。酒癖が悪く素行も決して良くないが、熊打ちにかけては名人と呼ばれる山岡銀四郎(史実では山本兵吉)の登場である。孤高の彼はだれにも頼らず一人山に入り、やがては巨大羆を倒すのだが、山岡の存在もこの小説をより深くより、盛り上げてくれている。

 前回の投稿で「吉村昭に嵌まったかも?」と題したが、今の私は完全に吉村昭に嵌まっている。この間も「羆嵐」だけではなく、「脱出」、「羆」という短編集も読破し、この後も「高熱隧道」、「赤い人」などを傍において読み進める準備をしている。

          

 「脱出」については、「脱出」、「焰髪」、「鯛の島」、「他人の城」、「珊瑚礁」といった短編が収められている。いずれもが第二次世界大戦で苦境におかれた庶民の姿を描いたものであるが、戦地沖縄から九州に脱出した主人公を描いた「他人の城」が最も心に残った。

          

 また「羆」には、「羆」、「蘭鋳」、「軍鶏」、「鳩」、「ハタハタ」という短編が収められているが、扉に「動物小説集」と記されているように動物を対象とした作品である。私はこれらの小説から、趣味というより生きがいとして鯉の養殖、闘鶏、鳩レースなどに賭ける人々の異様さを小説から感じてしまった。

 どの短編も一気読みができるほど楽しめたが、吉村の良さはやはり長編にあるような気がしている。綿密な事前の調査、取材。それを基にして打ち立てる構想力、そして文章に起こす際の表現力、全てがいかんなく発揮され、読者を魅了するのは吉村作品の長編であると思っている。これからも折に触れ吉村作品をレポしたい。

《北京冬季五輪寸評》

 昨日夜遅く、スピードスケート女子500mが行われたが、高木美帆選手が見事銀メダルを獲得した。彼女は中距離の選手と目されていたがね 今シーズンはWCで500mにも参戦していたが、ここまでの好成績を残すとは思わなかった。素晴らしいの一語に尽きる。一方、オリンピック二連覇を目ざした小平奈緒選手は精彩なく予想外の17位に沈んでしまった。スタート直後にアクシデントがあったようだが、爆発力を必要とする短距離で35歳という年齢はかなり難しいのかもしれない。もう一戦、1000mを残しているが、なんとか意地を見せてほしいものである。

 快進撃が続くカーリングのロコ・ソラーレは本日午前の対中国戦も危なげなく制して4勝1敗とした。本日の夜の対韓国戦もぜひ勝利して決勝トーナメント進出を濃厚にしてほしいものである。

 本日夜には期待のスキージャンプ男子団体戦も期待される。エース小林陵侑選手が好調なだけに、他の3選手がどこまで奮起できるかが鍵である。なんとかメダル圏内に!と願いたいところだが果たし??