アイヌ民族として誇りを持ち、現代社会の在り方を問い続ける戸梶静江さん。80歳を超えた今も病を押してアイヌ精神の尊さを唱え続ける姿勢に多くの人が賛同を寄せる。宇梶静江さんの独白を追い続けたドキュメンタリーである。
昨日(11月23日)午後、北大大学院教育学院民族教育論研究室が主催するドキュメンタリー映画「大地よ アイヌとして生きる」の上映会が北大総合博物館「知の交流ホール」で開催されたので参加した。
映画は詩人、古布絵作家、絵本作家、そしてアイヌ解放運動家など多くの顔を持つ宇梶静江さんの思いを描くドキュメント映画である。韓国人である金大偉氏が監督をし、宇梶静江さんの独白を中心として描く105分にわたる長編ドキュメンタリーだ。
また彼女は俳優の宇梶剛士さんの母親としても知られ、本作において剛士さんはナレーターを務めている。
※ 戸梶
宇梶静江さんは東京在住の方だったが、2021年 88歳になって白老に居を構え、(一社)「アイヌ力(ぢから)」を立ち上げ、そこを拠点に活動を続けている。
映画はまず宇梶静江のこれまでの人となりを宇梶剛士のナレーションで紹介する。それによると、1933年に北海道のアイヌ集落に生まれた宇梶静江は、高校卒業後上京し、結婚して二児を育てたが、その間1972年に朝日新聞「ひととき欄」に「ウタリ(同胞人)たちよ手をつなごう」という文章を投稿し、大きな反響を呼んだ。それを契機に翌1973年には「東京ウタリ会」を立ち上げ、会長に就任した。一方で、「詩人会議」にも参加し詩作にも励んだが、1996年にはアイヌ伝統刺繍でアイヌ叙事詩を表現するを創出するなど多くの顔をもつて活動を続けた。そして2021年になってからの白老への移住である。
※ 宇梶静江さんが創出した古布を使って「アイヌ叙事詩」を表現する「古布絵」の一枚です
宇梶静江さんのこれまでを紹介しながら、間に彼女の独白が続く。その彼女の語りとは…。
人間らしい生き方とは何か?自然に生きるアイヌの知恵とは何か?民族のアィディンティティーはどこにあるのか?共生の道はないのか? 等々、多くの思いを観ているものに問いかける。
※ 今回のドキュメンタリーは彼女の著書が刊行されたのがその契機だったと思われます。
そして静江さんは、アイヌが培ってきた自然を敬い、人と人との礼儀を尽くし、祖先を敬うなどの尊い文化や習慣に誇りを抱いていることを率直に語る。
アイヌ民族が民族差別に虐げられた歴史は、その後ずいぶん改善されてきたと思われるが、彼女から見ればまだまだその緒についたに過ぎないというのが宇梶静江さんの実感なのだろう。地球温暖化をはじめとして、私たちの生きる地球環境の悪化が叫ばれる今、宇梶静江さんの問いかけに謙虚に耳を傾ける姿勢が私たちに求められているのではないか、というのが映画を観た私の実感である。