元文科省事務次官の前川喜平氏は、「現代の学校教育は危機にある」と言う。そうした学校教育の現状に風穴を開けようとしている学校法人雙星舎(そうせいしゃ)スコーレの代表:星野人史氏の挑戦にエールを送った。
11月26日(土)午後、北大学術交流会館において学校法人「雙星舎」と、モシリナァスコーレ設立準備会が主催するシンポジウム「学校をつくろう!」に参加した。私はシンポジウムがどのような趣旨なのか理解しないまま、前川喜平氏のお話を伺いたいと参加を決めた。
シンポジウムの登壇者は、学校法人雙星舎・N PO法人珊瑚舎スコーレ理事長の星野人史氏、象設計集団の大亀直子氏、北海道アイヌ協会元事務局長の竹内渉氏、現代教育行政研究会代表の前川喜平氏が登壇し、司会を小学校PTA会長という桑原さやか氏が担当した。
※ シンポジウムに登壇された方々です。(一部写真に写っていない人もいます)
最初に星野氏が学校設立の趣旨・概要などについて次のように説明した。
学校法人「雙星舎」は、すでに沖縄・那覇市に2001年に初等部、中等部、高等部、夜間中学を開設し、2021年には学校法人となり高等部は法制上の学校となったそうだ(他は以前のまま)そして今、札幌市・星観地区に2025年開設を目指して昼間の初等部・中等部(フリースクールの小学校と法制上の中学校)、そして夜間中学の3課程の準備をしているそうだ。児童生徒数・職員を3課程合わせて100名以内の小さな学校を目指すという。
学校法人名の「雙星舎(そうせいしゃ)」の意味を配布されたパンフレットでは次のように説明している。
「学校法人名の雙星は二つの星、舎は小さな建物、日本列島の北と南で輝きを放つ二つの学校を表しています。どちらもかつて先住民族が生活の場とし、独自の文化を作りあげてきた土地です。近代国家の日本はその地を併合しました。彼らは差別、抑圧の対象となりました。言葉を奪われ、文化、伝統、習慣なども蔑ろにされた歴史があります。現在も彼らに対する差別は存在しています。文化国家を自認する日本は先住民族に対する過去を直視し、蔑視の目から敬意の目で彼らの文化の基盤となる様々な「観」、自然観や人間観などですが、その「観」を見つめ直すことが必要です。その眼差しは、花綵(かさい)列島と呼ばれる日本列島ょその名の通り、蔑視・差別・抑圧から敬意・交感・共生の花綵に相応しいものに変える力を持っていると思います。眼差しの変容には小さな試みの積み重ねが必要です。それは日常の中で多様な「観」と向かい合うことです。」
そして札幌市星観に開講予定の学校名を「モシリナァスコーレ」とするのは、アイヌ語で「モシリナ」は大地、「ナァ」は庭を意味し、「大地の庭に建つ小さな学び舎」という意味を込めたという。
星野氏に続いて、その星野氏の思いを受けて、その思いを具現化する校舎を設計した大亀氏が具体的な設計図をもとに説明された。続いて竹内氏はアイヌ民族の歴史、文化等を正しく伝える学び舎となることへの期待感を語った。
※ 大亀氏が設計図をひいた「モシリナァスコーレ」の全体構想図です。
そして前川喜平氏の登場である。前川氏は「今、学校教育がおかしな方向に向かっている」と指摘した。具体的には2007年から「全国学力テスト」が実施されるようになり、学校の序列化、子どものランク付けが進められてきた。さらに2018年からは「道徳教育」が教科として採用された、ことを指摘した。そもそも学校教育は明治時代に森有礼が初代文部大臣として我が国の教育制度を確立したのだが、その学校教育の目的は「日本の近代化に資する」ものであり、そのために軍隊教育を学校教育に取り入れたものが今も底流に流れているとした。そうした中で今の教育界においては「学校教育からの大量脱出」が顕著になってきたと前川氏は指摘した。2021年の不登校児童・生徒の総数は24万5千人、コロナ感染回避のための長期欠席が5万9千人、その他の長期欠席が5万2千人で、合計35万人もの児童・生徒が学校を長期欠席しているそうだ。そのうち「その他」の5万2千人とは積極的に学校へ行くのを止めよう、とした確信犯的登校拒否の数だという。こうした状況の中において、星野氏が目指す学校づくりは希望の灯であり、おおいにエールを送りたいと述べた。
※ 前川喜平氏が発言されています。
私自身学校教育の一端を担ってきた者として、教育行政の事務方のトップだった方から学校教育の欠陥を指摘されることは内心忸怩たる思いをしながら耳を傾けた。確かに前川氏の指摘には頷くところもあるが、日本の学校教育が人材育成に大きく寄与してきた一面があることも一方で強調したい思いがある。ただ、欠陥を是正し、より良き教育を目指そうとする思いに共鳴したい思いも私の中では共存する。
2025年の開設を目指している「モシリナァスコーレ」が予定通り実現し、現在の学校教育の在り方にどのような形で一石を投じることができるのが、注目し続けたいと思っている。