講師は断言した。「日本のエネルギー安全保障、温暖化対策の両立には原子力が不可欠」だと…。講師の現状分析、そして論旨は明快だった。しかし…、講師の論で原子力の安全性についてはまったく触れることがなかった。そこをどう考えるのか??
10月28日(金)午後、ニューオータニイン札幌で「北海道エナジートーク21」が主催する「エネルギー講演会」が開催された。知人のK氏から入場券を譲られたので参加することにした。私は北海道エナジートーク21が原発擁護派であるらしいことは薄々知っていた。しかし、さまざまな意見に耳を傾けることは私のポリシーでもあるので臆せず参加することにした。
講演は「地球温暖化をめぐる国際情勢と日本の課題」と題して、東京大学公共政策大学院の特任教授である有馬純氏が講師を務められた。有馬氏は通商産業省(現経済産業省)に入省し、官僚として長らく資源エネルギー関係の部署に関わってきた方だと紹介された。
有馬氏の論旨は明快だった。それによると、世界の先進国は地球温暖化阻止へ意思統一ができていて、日本もその一翼を担っている。そして2020年には当時の菅総理大臣が所信表明演説で「2050年のカーボンニュートラル宣言」をした。
しかし、資源の少ない日本にとって国力を維持するためには製造業の隆盛が欠かせない。そのための産業用電力は高騰する化石燃料によって世界でも最も高い電力料金となっているという。さらにロシアのウクライナ侵攻によって状況はますます混迷しているとした。一方で中国やインドはロシアからの石油輸入が倍増しているという事実もあるという。
地球温暖化阻止を先導するヨーロッパにおいては、ドイツのように原発ゼロ政策を掲げた(ロシアのウクライナ侵攻によって原発2基を再稼働するというニュースもある)例もあるが、他のほとんどの国は再エネと原発を併用することで自国の電力を賄う方向に舵を切っているという。
こうした状況にあって、我が日本は再エネによる発電がまだまだ国の電力需要を賄う状況にはなっていないことを踏まえ、かつ世界の温暖化対策を先導する一員として、残された道は「原子力発電を推進することが不可欠である」と有馬氏は断言した。
しかし、有馬氏の講演を聴いていて、有馬氏の論には原子力発電が抱える “安全性” に対する言及が欠けていることを感じていた。経済官僚であった有馬氏にとっては原発の安全性はいわば専門外と言えるのかもしれないが、国のエネルギー問題を考える際には避けて通れない問題ではないか、と私は考える。ご存じのように原発には「原発のゴミ(高レベル放射性廃棄物)問題」が常について回る問題である。現代の科学技術は今のところこの「原発のゴミ」を安全に処理する技術を見いだしていない。現状はよく言われるようにガラス固化体にしたうえで地下奥深くに埋蔵し、10万年もの途方もなく長い時間をかけることによって放射線量がゼロになることを待つ以外に途はないという。それも世界ではまだフィンランドのオンカロに最終処分場が建設されているのが唯一の例である。なのに世界では現在434基もの原子力発電所が稼働中であるという。
そうした中、資源のない我が国が原発に頼らない、というのは世界の現状を見ると現実的ではないという論も分からないではないのだが…。
私は政治問題などセンシティブな問題について、ブログ上で私の思いを表出することは控えている。しかし、この問題だけは先にも「核のゴミ問題が解決するまでは原発は用いるべきではないのではないか」と明言している。その思いは今も変わらない。
願わくば、一日も早く科学者たちの手によってこの問題に目途がつくことを願っているのだが…。