本当は別の本を目的に立ち寄った,最近新しくできた本屋さん
そこでドリンクを飲んだりとか、いろんなお菓子だとかも売られてて
新しいタイプの本屋さんだって、ずっと前に開店はしていたのだけど
先日初めて寄ってみた。
目的の本はなかったので、そのあたりをうろうろして
見つけたのが小川糸さんの本が思った以上並んでいて
すでに読んだものもあったし、エッセーみたいなのも
何冊も並んでいた中で、手に取った一冊は『ライオンのおやつ』だった。
だいたいからして、糸さんの言葉というか言い回しが好きで
言葉からこぼれ落ちる糸さん独特の繊細さとでもいうのだろうか。
言葉で情景が見える…そういうとこが好きな作家さんだった。
重病に侵された孤独な主人公がホスピス、ライオンの家での生活で
生きることとは死んでいくこととはを題材にした本だけど
美しい風景と出会う人々と決して暗い話とはちょっと違う
そこが糸さんらしいとこなんだと思った。
ホスピスでの生活で一番欠かせないのがマドンナの存在と
他にも小さいころから飼いたかった前に亡くなられた方の飼い犬との出会い
ブドウを栽培してそれでワインを作っている青年だとか
瀬戸内の海に囲まれた島で風景も空気も美味しいところ。
そんなホスピスでの食事、そして週に一回おやつの日があって
そこでは自分にとって人生特別のおやつ、一人一人が申し込むのだが
ある人は仲の良くなかった母親との初めて作ってもらったものだったり
またある人は小さい頃の思い出のおやつだったりとか
外国で食べたお菓子だとか初めて父親の誕生日に作ったお菓子だとか
いつ自分の申し込んだオヤツが選ばれるのかは誰も知らない。
そんな中で
ひょっとしたら奇跡が起こるのではないかと思う瞬間があったりするのだけど
やっぱり主人公は何人かのホスピスの先住人を送って行く中で
不安やまだ生きていたいと思う気持ちなどが入り混じり
気持ちも乱れるのだけど…成るようにしかならない
生き物すべて自然に生かされてるのだと気付く。
やがて主人公はしだいに弱って痛みに苛まれ
モルヒネを使うようになると、眠っている時間と起きてる時間とが曖昧となり
読んでいる私でさえ、これは夢なのか現実なのかって分からない部分があった。
立ち上がることも出来なくなり夢と現実の狭間でうつうつとベッドに横たわっていた。
若くして事故で亡くなった両親の代わりに育ててくれた叔父を
お父さんと呼んで二人三脚の様な二人だけの生活をしていたが
お父さんの結婚とともに一人暮らしを始め
病気になった事ホスピスに入った事を言わなかった。
そんな主人公のもとにお父さんが主人公の妹を連れて面会に来てくれた。
初めて会った妹と懐かしいお父さんの顔と
もう立ち上がる力も残っていなかっただろうに
車いすに乗って思い出のブドウ畑でお父さんと妹に
あの美しい瀬戸内の風景を見せてあげる事が出来た。
その数日後に眠るように旅立った。
旅立つこと、すべての人がいつか訪れることを
暖かく優しく表現している。
最後の一章はお父さんの奥さんと妹と主人公がいる。
そんな雰囲気の夕食に好きだったプリンと
主人公の話をしている…思わず一気読みしてしまった。
私が最後に食べたい特別なおやつはなんだろう。
今のところ心に残っているおやつは思い浮かばない。
これから出てくるのだろうか、それとも忘れているだけなのか
分からないけど、何度でも読みかえしてみようと思った一冊だった。