話を聞くと、その女性はコンパニオンさんで近くのホテルの宴会で酔客とダンスをしていたそうだ。酔った男性は足元がおぼつかなくなり、転倒しかけたその瞬間自分の前歯がこのコンパニオンさんの前額部に刺さったのだという。傷は深いが出血も多くはない。そして歯も折れたりして創部に残留している様子はなさそうである。さて困った。ここで「human bite」は創感染が多いなどという記載をみてしまったものだから思案したのである。もちろん傷は数時間以内に縫合したほうがよい。しかし縫合すると前述のように感染を起こす恐れもある。さて今、縫合したらよいか、あるいは開放創処置にして、後日二次的に創縫合したらよいか迷った。結局、十分創感染がおこるであろうことを説明し消毒だけして帰宅させた。そして数日後、外来で縫合したのであった。その後は特に変化なく順調に経過して抜糸して終了した。今でも「あの時は最初から縫合したほうがよかったかな」と答えがでないのである。傷口が綺麗に治るには早めに縫合したほうがよい。でもあの「human bite」という記載は今でも頭の中にこびりついて忘れないのである。<o:p></o:p>