悪友の話だから脚色があるかもしれず、保証の限りではない。
10数年前、悪友の友人がそれぞれ夫人を伴い7組ほどで温泉の旅をしたという。どうやら黒川温泉らしい。
その帰り道、貸切の小型バスが夕日に映えるススキ原に行きかかったとき、友人の一人が声を上げ停車を乞うたという。
何事とみんなが首を回すと最後尾にいた友人が、「トイレタイム」と声をあげ失笑を買ったそうな。
処が本人と思いきや、なんとご夫人だったそうで、皆がなんとも間の悪い顔になって、夫人を送り出したという。
夫人はバスを降りると後ろ側からススキ原に入り用を済ませたらしいが、旦那なる人物は気が気ではないらしく最後尾の窓からススキ原を睨んでいたらしい。
しばらくするとそのススキ原がさやとゆれて、ゆっくりと歩を進ませてバスに帰られたそうな。
そして一言、ススキもいいけど萩だったらもっとよかったかも、と平然として言われたそうだ。
その後日談、悪友たち男どもが集まった際、「大だったのか、小だったのか」と旦那を問い詰めると、「小だよ」とのご返事・・・・
「ススキもいいけど萩だったらというのが判らん・・」とさらに聞くと、どうやら夫人は太宰治の「斜陽」に出てくる一場面、「おかあさまの小用」になぞらえてのことだったらしい。
と聞いても私にはよく判らず「斜陽」を読む羽目になった。
お母さまは、つとお立ちになって、あずまやの傍の萩のしげみの奥へおはいりになり、それから、萩の白い花のあいだから、もっとあざやかに白いお顔をお出しになって、少し笑って、「かず子や、お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」とおっしゃった。
「お花を折っていらっしゃる」と申し上げたら、小さい声を挙げてお笑いになり、「おしっこよ」とおっしゃった。
なんとも・・・・