明治の面影、宴会場復活 熊本地震で被災、肥後細川家の料理人邸宅 配信 
熊本市中央区西阿弥陀寺町で100年以上にわたり宴会場「商工クラブ」として親しまれ、熊本地震で被災した「料理谷[りょうりや]邸」が6月下旬、修復を終えて新たに飲食・宿泊施設などを備えた複合施設としてオープンした。
肥後細川家に料理人として仕えた料理谷家の邸宅で、1887年ごろに建築。料理谷という姓も細川家からもらった。 建物は木造2階建て、延べ約400平方メートルで、料理谷家が居住しながら結婚式や宴会の企画運営などを営んできた。商業と工業に関わる人が集まる場所になってほしいと、初代熊本市長が「商工クラブ」と名付けた。
25歳で結婚するまで同邸宅で暮らしていた中村静代さん(81)=西区=は小学生の時、商工クラブで開かれる結婚式の三三九度でお酒をついでいたことを懐かしむ。「結婚式の会場と言えば、商工クラブだった」と振り返る。
熊本地震までは、山下みきさん(56)=中央区=の家族が住み、宴会場なども営業していたが、地震で半壊し、営業を断念した。
邸宅を維持・管理する山下さんは「修復しても維持が大変だと思い、最初は解体が頭をよぎった」と言う。だが、県内外の建築家や宮大工らが「造りはしっかりしており、屋久杉の一枚板など珍しいものも使われている。残すべきだ」と何度も説得。山下さんは周囲の町屋が解体されていくことに寂しさを覚え、修復を決意した。
県の有形文化財になることを見越して、2019年に修復工事に着手。復旧には約1億7千万円かかったが、約5割は県からの補助金で賄い、明治の趣が残る「商工クラブ」が復活した。1階は焼き鳥店と、幅広いジャンルの料理を提供する飲食店が入る。地震前からあった「席貸[せきがし]」と呼ばれる貸しスペースや茶室も備え、2階は宿泊施設として8月にオープン予定だ。
建物全体をプロデュースした久保貴資さん(47)=中央区=は「“清く、正しく、謎めかしく”がテーマ。見た目はもちろん、席貸しや飲食店の取り組みも珍しく、たくさんの人に興味を持って来てほしい」と話す。
山下さんは「再び、いろんな人が出会い、集える場になればうれしい。周辺地域の活性化にもつなげ、かつてのにぎわいを取り戻したい」と意気込んだ。(上野史央里)