漱石には何といっても「吾輩は猫である」があるから多分「猫派」なのだろうと思い込んでいた。
夫人・夏目鏡子氏の「漱石の思い出」をよむと、犬や猫に関する記述が初めて出てくるのは「大江の家」でのことである。
余りにもネズミが多いのに困っていると、女中のテルの姉さんという人が飼っている三毛猫をくれたそうだ。
ネズミもとるが、夕食の魚も食ってしまう。これにも困り果てて捨ててしまえということになり、捨てに行ったもののすぐ帰ってくる。
そこである時、同居人の土屋なる人(写真左端、のち裁判官)が捕まえて、自分の古靴下を頭から被せたりしているが、どうもこの猫夏目家ですっかり居住権を確保したようである。
それがこの写真の右端女中のテルさんの膝の上に座っている猫である。
そして、猫派か犬派かどちら?と思わせるようにワンちゃんも並んでいる。
熊本での犬の話は、5番目の内坪井の家で買い始めたという犬の話が面白い。
頂戴物の大きめの犬を飼っていたというが、是がやたらと吠えるし人にかみつく。
あるとき、ゴミを不法投棄する巡査の奥さんにかみついた。
巡査が怒鳴り込んできたが「犬は賢いもので、よい人には噛みつかないが悪い人間だと思うと噛みつくのだ」と漱石は意に介しない。
女中のテルさんは犬好き人間らしく漱石の言葉に大喜びである。
狂犬病の疑いがあるというので引っ張られたが、翌日には疑いも晴れて帰宅した。
ところがある日の夜遅く、謡から帰ってきた漱石の着物が食い破られている。どうやら漱石先生も所業が悪かったと見える。
番犬としては立派なものである。
こういう話になると、漱石先生猫派なのか犬派なのかさっぱりわからない。半藤一利先生の本を読んでも触れておられないように思う。