『となりの地衣類:地味で身近なふしぎの菌類ウォッチング』
著者のゲッチョ先生には2013年3月ニュージーランドからの帰国便の機内で偶然席が隣り合わせになって、しばらくお話させていただいたことがある。その後、ご著書を送っていただいたのだが、最後まで読んだのは本書が最初というのは、申し訳ないことだ。
本書を手にとったのは、最近、人間と他の様々な生き物との間の共生に大変興味が惹かれるからで、その関連で、菌類と藻類の共生体の地衣類を知り、著者の名前を見つけたからだ。本書は、地衣類を中心にした日本の自然誌で、知らないことが多く引き込まれてしまった。最近出かけた伊豆湯ケ島の宿の敷地内で見つけたウメノキゴケ(これしか、名前を知らない)の写真をスマホのトップページに置いてしまったほどだ。
特に注目しなければならないと思うのは、地衣類が根を張らずに空気中の水分(雨など)と共生関係で太陽光線によって生活していて、自然の状況が彼らに反映されるということだ。つまりは、チェルノブイリやフクシマのあと大気圏に放出された大量の放射能は雨を通して地衣類に蓄積されるということだ。地衣類は我々が直接口にすることはまずないが、しかし、地衣類を口にする動物やその動物の肉を食する人々が世界にいるということだ。これは、明示的であるが、しかし、我々とても、目に見えない放射能をどのようにして体内に摂取しているかが不明なことは不安材料だ。
放射能を蓄積したトナカイゴケをトナカイが食し、その肉を食するサーミの人々。これは、放射能を蓄積した牧草を家畜が食し、その肉を知らず知らずのうちに口にしていると見ることができる。フクシマ産の食べ物だけが影響を受けるといったミクロな問題はなく、世界的に起こりうることだと見てよいだろう。自然界に存在しない放射能は核実験の開始以来、ヒロシマ・ナガサキを経て、スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマへと連鎖しているはずだ。
フィンランドには地震が少なく硬い地盤をもつ場所に放射能廃棄物などを地中深く数十万年貯蔵して隔離するという施設があるというが、数十万年は現生人類の進化史よりも長い時間であることを忘れてはならないだろう。