訳者が丸谷才一、解説が井上ひさしというユーモア小説の第一人者が押している本書、なかなか凝った設えで面白く読んだ。本書をおすすめしてくれたのは、恩師の娘さんである。彼女は、私が大学生のころ、ご自宅に伺った折、まだ小学校入学前でやんちゃ極まるお転婆さんだったのだが、今や大学の先生だ。なかなか渋いおすすめ本だった。これは、おそらく彼女がイギリスに数年間留学していた折に知り合った現地の人々から感じ取ったニュアンスを踏まえてのことだろうと想像する。
わたしは、イギリスには行ったことがない(ヒースロー空港で乗り継ぎしたぐらい)が、オーストラリアで知り合った人々にはイギリス出身者もおおくいて、彼らの話しぶりや、一緒にテレビを見ている際のコメント、笑いのポイントなど、これは本書を読んでいてつながるものを感じた。諧謔とユーモア、皮肉といったところであろうか。
もう一つ、土地勘が今ひとつわかない者としては、第5章からはじまるロンドンの西郊キングストンからテムズ川を遡上してオックスフォードに至って下るボートによる往復2週間近い旅はGoogle Mapsをたぐりながらともに旅が出来たような気がする。テムズ川がこれほど蛇行を繰り返しているとは、思わなかったし、少なくとも航空写真ではコンクリートの護岸がない緑豊かな川旅は素晴らしいものであるとわかった。ボートを漕いだり、曳いたりするのは御免被りたいが、一度はテムズ川の川旅というのもやってみたいものだ。