パンデミックの間一体何をしていたんだろう。振り返ってみても、特段のことは書いていない。おそらくは、ロックダウンがなかったから、意外に平和な日常だったのではないか。2月末のオーストラリアとニュージーランドへの出張とか、3月末の北陸への小旅行とか、同僚との飲み会にも行っている(もちろん、ウェブ飲み会もやったが)。くわえて、私ごととしては、転倒して額を縫ったり、三叉神経痛で病院通いをしている。
さて、本作、ロックダウンが行われたアイルランドのダブリンを舞台にしている。作者はこの経験を踏まえて本作の筋書きを思いついたという。時間が前後し、視点が異なる章が連なっていて一見わかりにくいようにも思うが、筋書きとしてはシンプルだ。
少年二人が別の少年を殺害して裁判にかけられて匿名のママ処分が行われた、一人は18歳で退所し、主犯とされたもう一人は残る15年の刑期を悲観してか誕生日に自殺する。自殺した少年の妹が、真実を知ろうと成人となって働いているもう一人の元少年にアプローチし、かえって恋に落ちてしまう。そのタイミングがロックアウトであった。
著者は、今付き合っている恋人同士はこのロックアウトに際して分かれるか、同棲するかを選択しなければならないとの政府筋の発言(ロックダウンの状況下のリアリティ)にヒントを得て、この運命のカップルに同棲を選択させ(フィクション)のだが、元少年はメンタルの問題をかかえていて、強い精神安定剤を一定期間ごとに服用しなければならない。それが、事故を招く。
腐乱死体を通報により発見した警察官のコンビは事件性を疑うが、時間が立っていて、指紋等の物的証拠が消し取られてしまっていてたどることができない。
自殺した元少年の妹は、恋人となった元少年の告白を聞いて、兄は主犯ではなく、目の前の恋人が主犯であったという真実を知ることとなるのだが、だからといって、それが、殺人の動機となって、殺人事件が起こったわけではない。
コロナ禍という未曾有の混乱を踏まえた作品として興味深かったが、しかし、ロックダウン(罰則を伴う社会的接触の禁止、行動制限)を経験しなかった私としては、今ひとつリアリティに欠けていた。もちろん、作品としては面白く読んだのだが。