日経新聞夕刊の2023年を回顧した書評(12月13日付)で小谷真理が1位に上げていて読んでみることにした。小谷が「ボーイ・ミーツ・ガールのSFロマンス。一見ライトノベル風の体裁と見えるが、実は、量子宇宙論にまつわる、真に骨太なSF」と書いていて、それにつられて早速購入したものの、「ラノベ」の乗りかと思えてしまい、なかなか読み進めることがなかった。
作者の作品は、実は読むのは2冊目であることに途中で気がついた。このブログの下書きの「2015-06-22」の項に作者の『カラマーゾフの妹』があった。読み終えたから「下書き保存」したはずだが、何も書いた形跡がなく、宙に浮いていた。どのような感想を持ったのか、まったく記憶にないので、少し残念なのだが、しょうがないだろう。
パラレルワールドものだが、2つの世界の交錯ぶりが興味深く読めた。主人公の夏紀と登志夫が、ほのかに思いを寄せる幼馴染のようでもあり、実は2つの世界の焦点であるという設定がよかった。それが故に、夏紀は分身を守るために(じつは、自分を守ることにも通じる)自分の属する世界の消滅を選んだのだ。また、設定として、コンピュータ技術や宇宙開発が2つの世界で微妙に大きく異なるというポイントも興味深く読むことができた。どのような、きっかけで、異なる未来につながるかもしれないという、リアリティを感じることができた。
作者も「あとがき」に書いているが、もちろん、Google Mapsをつかって、舞台となった土浦の地名などを検索しながらみたし、「ツェッペリン飛行船」についても、Google検索しながら読んだ。最近の読書は、たとえ、フィクションであっても、現実の地名や史実が登場するほうが楽しく思える。