すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

宮西達也作品を読み解く(3)

2023年10月16日 | 絵本
 「道徳より一冊の絵本を…」なんて大声では言えないが、その可能性を秘めていることは確かだ。小さい子の場合は、絵本という形だからこそダイレクトに心に響く期待が大きい。『ニンジャ さるとびすすけ』は忍者というモチーフと作家独特に集団や多勢を描く絵柄が効果的で、楽しんで「生き方」を学べる一冊だ。




 猿飛佐助の孫という「すすけ」の最初の悩みは「ちちとははのおしえのまき」。勉強重視の母と遊び重視の父の助言に迷い、殿様に教えを乞う。次は「いじめ問題」。そして最後は「しんだあとは?のまき」と、レベルアップしていく。結論は言うなれば「マインドフルネス」の考え方になるわけで、なんとも今風である。


 これなら低学年にぴったりではないかと、今さら教師根性(笑)が出てきてしまった。それはさておき、次のこども園のメニューに加えようと決めたのが『ヘンテコリンおじさん』。系統としてはウルトラマンシリーズと同様だろう。設定が恐竜のいる時代になっていて、その点に、読み物としての面白さが感じられる。


 「ゆめはかなう」を皮切りに「あきらめない」「あきらめない2」「はやいとおそい」「しあわせだなぁ」「じぶんだって」「どうぞどうぞ」「なきむし」と強弱や硬軟を取り混ぜて、人間らしさを描いてゆく。シンプルに価値観を照らし合わせる。端的にはかなり大人に向けたメッセージといえるのが、宮西作品の特徴だ。


 最終章は「おじさんのねがい」。ここでプテラノドンにのったおじさんは「みんなのいえに マンモスのおにくをくばって」まわる。そして雪が降ってきたので赤い毛布をかぶった。「も もしかしたら おじさんは…」というエンディングがいい。おじさんの行動に込められた願いが拡がりますように…と余韻が残る。

宮西達也作品を読み解く(2)

2023年10月14日 | 絵本
 「ふしぎな●●やさん」シリーズ。これは全部で「キャンディーや」「タネや」「カサや」「ヒーローや」の四作品ある。かなり以前に大型絵本で「キャンディーや」を語ったときがある。どれも展開がほぼ同じであり、いうなれば起承転結が明確で楽しめるし、その中に繰り返しの要素があり、安定した作品群と言える。



 2007年発刊の「キャンディーや」と次の「タネや」は、一層共通点が多い。どちらも小さく、口のなか、土のなかへと入れられ、挙句にブタくん自身が変化したり、木に実がなったりと一定の筋が予想される。最後に「大物」が登場して、オオカミが逃げ出す逆転のオチを見せる。ブラックボックス的な面白みの典型だ。


 「カサや」は、傘の図柄が空中に広がるというビジュアルが楽しい。途中、黒い傘からお化けが出る変化や、たくさんのブタが消えてなくなるオチも愉快だ。「ヒーローや」は、初めて「身につける」という動作が出てきて、モノによって違うパワーを持つ、しかしその度に危機はやってくるという顛末で、救うのは…。


 こんなふうに並べてみると、手渡された「好奇心」は、使えば身を救うけれど、一時的なものに過ぎず、必ず「最終的手段」が必要になるという括り方になるだろうか。自分が巨大化する、味方?が現われる、思いもかけない展開になる…と様々だが、現実に喩えてみれば、逃げ切れる何かを持っているのは強いことだ。


 「あるひ、ブタくんが、もりのなかを、トッコトッコあるいていくと」登場する「ふしぎな●●やさん」。そしてそこに必ず現れるオオカミ。これは一種の比喩といってもいい。一つの良き出会いの次には、壁や不運が待っている。これは人間の宿命なのだ。出会いによって得た力で負を解消していく。その繰り返しだ。

宮西達也作品を読み解く(1)

2023年10月11日 | 絵本
 来週水曜に絵本作家宮西達也さんを招いて、小学生向けの「絵本ライブ」を予定している。超のつく有名人、売れっ子といってよいだろう。本館にも70冊ほどの作品が揃っている。個人的に好きな「ニャーゴ」「やきいもとおにぎり」は読み込んでいるが、他作品に目を向ける意味で少し俯瞰的に作品群を見たい。


 まずは「おとうさんはウルトラマン」シリーズ。これは6冊揃っている。1996年発刊の「おとうさんはウルトラマン」が起点だ。家族・父親・母親像を描くモチーフとしてウルトラマンを充てたというより、ウルトラマンを一個の生物としてとらえ想像を拡げて人間らしさ、素敵さを適用させたと言ってよくないか。



 扉のことばはこう記されている。
ウルトラマンは、目には見えないけれど
確かなものをいつも追いかけていた。
勇気と希望を、優しさや思いやりを、
そして愛を…


 スーパーヒーローにも弱さがあり、いい加減さも垣間見えてしまう。それらも含めて「かっこいい」という考えを根付かせる象徴がウルトラマンだ。最終的には一生懸命さの価値観につながるように感じた。そして、もう一つは「真の強さ」という点か。典型的なのは「せいぎのみかた」シリーズ2冊にも表れている。


 「ドラフラ星人の巻」では、見た目や言葉に左右される人間の姿が描かれる。「ワンダーマンの巻」では、守る意味とは何を指すのかが問われている。いわば「戦いの本質」とも言える。対比される存在が出てくる二つの物語は、可視化された即時的・即効的な成果にばかり期待する、今の社会への批判に違いない。

長月十番勝負その十

2023年10月01日 | 絵本
 十番勝負と名づけて気合いを入れた、読み聞かせ等も最後となった。定例のこども園訪問であり、基本的に前回と同じにするのだが、来週以降のこともあり変更を加えることにした。最初の大型絵本「だるまちゃんとてんぐちゃん」はそのままだ。今回も反応がよかった。次からの絵本ラインナップに加えたのがこれ。




 某こども園で「怖いのを読んでほしい」とラブコール(笑)があり、悩んだ末の選書である。表紙絵からも想像できるように、怪談話ではない、どちらかといえばユーモラスな展開だ。幼児相手では、いや小学校低学年でも完全な恐怖バージョンは避けるのが妥当ではないか。どきどきする楽しさの着地点を考えている。


 初めて一人寝をしておしっこが出たくなり、階下のトイレにいくまでの妄想と現実、最後にオチもあり愉快な展開だ。声や間で十分に想像をかき立てることが可能だ。読み手としては、声調を変えたり、緩急をつけたりすることを意識するのにいい読み物だ。そして「お化けより怖い怪獣」といって、次の一冊を出す。



 「ボンバルボン」は「せかいいちれいぎただしいかいじゅう」と表紙に記されている。怪獣好きはたくさんいるが、こうした発想でストーリーがあることも楽しい。正義のヒーローも親怪獣も登場するが、誰もが良い人で幸せな結末。そういえば、自分自身がこの作家キューライスを多く手にしていると改めて思った。

長月十番勝負その九

2023年09月25日 | 絵本
 9月22日。午前は昨日書いた中学校でのビブリオ。12時半までかかり、図書館へ戻っておにぎりを食べ、すぐに三輪小学校へ向かう。5,6年生への読み聞かせがある。選書は結構悩んだのだが、結局、水曜日と同様にする。構成がいいと思うし何よりここ数日絶不調で新規練習ができない。ドリンク剤で凌いでいる。


 最近のお笑い『ねこ、いる!』、昔の?お笑い『ねこのさら』、そして実に絵本らしい絵本『なまえのないねこ』という流れは、20分弱としてはまとまっている気がする。落語が入っているのでどうしても上学年向きだろう。今回は、語ってからオチについて話したら、「あああっ」と反応してくれた子もいて嬉しい。





 さて、メインの名作『なまえのないねこ』。わずかに知っていた子はいたようだが、これは何度でも触れさせたい作品である。「名づけ」こそ存在証明であり、それは存在を認めてくれる他者がいることと結びつく。限られた文章の中で、世の中には知らず知らずのうちに疎外されている者がいることにも気づく。


 当然、落ち着いた調子で語りかけていく。他の猫の台詞もあるのだが、極端に声調を変えない方が全体のトーンを乱さない。クライマックスは、女の子との出会い。手でページをめくる時も今回のようにPPTで行う場合もここはゆっくりと進む。一語一語の重みが伝わるようにしたい。工夫のしどころがある作品だ。

長月十番勝負その七

2023年09月22日 | 絵本
 9月20日。午前のこども園に続いて、午後は高瀬小学校へ。ここは小人数なので4年生から6年生までが一緒だ。多少学年差に気を遣う必要はあるのだが、そこは絵本の持つ強みがある。ストーリーだけでなく、絵の面白さ、何よりジャンルの広さが大きい。冒頭に「今日はいろいろなタイプの本を読みます」と語る。




 動物愛護週間でもあり、図書館で「犬・猫特集」をしていることを紹介しつつ、数多い「猫」の本を取り上げる。最初は、もはや定番ともなった『ねこ、いる!!』である。お笑い芸人が描いた絵本で、フリップ芸に近いと話し、それから昔の笑いということで「落語絵本」に移っていく。春に取り上げた『ねこのさら』だ。


 講談も含めこうした類の絵本は、内容的に難しい面があるかもしれない。だから感想で一人の子が「五七五の連続を聞いているようだった」と、話の調子に着目してくれたのは嬉しかった。語りを磨くというところまではいかないが、何度が読み込んでいるうちに、いくらか手慣れてきている。慢心せず練習したい。


 最後は『なまえのないねこ』。数年前発刊され、数々の賞に輝いた作品である。少しめくってはいたが、実は今回初めて読み聞かせに取り上げる。実にいい。町田尚子の絵のタッチは他の作品でも堪能しているが、竹下文子の展開させる物語性の深さに惹かれる。語り方も考えざるを得ない。22日にもう一度チャレンジ。


長月十番勝負その六

2023年09月21日 | 絵本
 秋めいてきた9月20日午前。来週の予定を繰り上げてのこども園読み聞かせがある。この頃は続けて紙芝居を最初に取り上げていたが、今回は大型絵本とする。図書館の棚を一通り漁ってみていて、これがいいかなと実のところ軽い気持ちでピックアップした一冊だ。名作『だるまちゃんとてんぐちゃん』である。





 40人ほどを相手に「前に読んだことがあると思うけど…」と通常版の本を出して訊くと、「あるう」と声を出した子は数名だった。確かにそうなのかもしれない。次々に新しい絵本が発刊されているし、大人が知っていても今どきの子の多くが読んでいるとは限らない。大型版を出すと、わあっととたんに見入ってくる。


 ストーリーは単純で、だるまちゃんがてんぐちゃんの持っているあれこれを欲しがり、だるまどんに用意してもらって見せに行くという形。読み聞かせ方を考えると、改めて絵の見せ方もポイントになるなあと気づいた。たくさん用意してくれたもののなかから、てんぐちゃんが選ぶものは…といった見せ方が有効だ。


 今どきの子どもたちの受け止め方はどうかやや心配もあったが、やはり名作は名作だ。子どもたちの目と耳が惹きつけられているのが伝わってきた。長く読み継がれる作品には、心をとらえる芯のようなものがある。それは達磨と天狗という対照的な造形と、筋の繰り返しの妙と変化、明朗さといった点が挙げられる。


 大相撲中継をしている今の時期ならと思い、力士が登場する絵本を一冊取り上げた。『たぷの里』という書名が、力士の体型とあいまって面白い。子どもたちの頭などに「たぷ」と胸部が乗っていく繰り返しがユーモラスだ。これなら乳児であっても笑えるかなと思う。そのあとに2冊短いものを取り上げ、終了

長月十番勝負その五

2023年09月16日 | 絵本
 昨日は、今月上旬に急に学級閉鎖になり読み聞かせを延期したこども園に向かった。一つの紙芝居と3つの絵本のラインナップは、今までと同様だった。わずか12人なので、非常に反応が拾いやすい。女の子が多くお転婆な雰囲気もあるので、今回のラインナップの締め(笑)として、ちょっとした工夫を入れてみた。

 

 ページのめくりのタメと台詞の繰り返しで、期待感を持たせ、盛り上げる手法だ。『わにくんのだめだめアイス』では、わにくんがぶたくんから預かったアイスを食べたくなってしまう場面…十分に間を取って、子どもたちの心を寄せさせる…一昨日、高校生の読み聞かせを聞きながら、自分ならと思いついたことだった。


 他人の読み聞かせを聞くことの大切さを、今さらながらに知った。そしてもう一つ、今回のラストに使っている『ぱれーど』の反応が良くて、少し驚くほどだった。この絵本はなかなか面白い、惹きつけられると考えて選書したのだが、今までの三館では集中してみているが、能動的な反応は今一つ感じられなかった。



 しかし、今回は「あれっ、〇〇がいる」「●●も」「すごい」などダイレクトに喜んでいた。集団の雰囲気と言えばそれまでだが、読み手としての声かけ…絵を見せるための勘所のようなことが不足していたかもしれない。本当にたくさんの生物・無生物の先頭に立つ「ぼく」への共感は、子どもなら誰しもあるはずだ。

長月十番勝負その二

2023年09月07日 | 絵本
 実は「その2」は一昨日のはずだった。朝にいつものようにこども園に電話をして確認した。そしてその30分後になんと「学級閉鎖が出てしまって…」という連絡をもらい、急遽来週に延期となった。まだまだ怖いコロナ感染である。ということで昨日は別のこども園、こちらは無事に年長組さんへ4冊読んだ。


 最初の紙芝居。最近はそれぞれの園で別タイトルになっている。というのはどうにも反応が…、というより語っている自分自身が楽しめない感覚になっていて、そこでごそごそと書棚を探して見つけたのが『ぬすびととこひつじ』という新美南吉作品。これは学校にいた時、ずいぶん低学年に読んだお気に入りである。


 シンプルなストーリーだし、羊の「メェー」の鳴き声の変化も語り手としては楽しい。それにしても、今さらながらに気づいたことがあった。この紙芝居は題名が下部に書いてあるではないか。扉を開く順番を変えなくてはならない。「右⇒左⇒上」が定番なのは題名を最後にする演出だから、上から開くことになる。





 この作品は案の定じっと聴き入ってくれた。安定感ある定番を持つのは心強い。その後は3つの絵本。『わにくんのだめだめアイス』(すみくらともこ)…短くてもウイットがあってよい。それから園児でも十分面白いと思い『お月さんのシャーベット』(ペク・ヒナ)を出してみた。独特の色味に惹きつけられていた。


 最後は『ぱれーど』(山村浩二)…とんとんとん ぼくが たいこを たたいたら みんな めが さめ おきあがる」と始まる。リズムに乗った文章と、パレードに連なって登場する多くの生物、無生物が賑やかで、心浮き立つ。「きょうはおしまい またあした」というエンディング。まさにおやすみ前の一冊にふさわしい。

長月十番勝負その一

2023年09月04日 | 絵本
 「勝負」と気張ったタイトル付けをしてみたが、なんのことはない備忘である。「十番」としたのは、実は今月はこども園や学校に出かける回数を予定表に書き込んだらなんと10回。ほとんど読み聞かせだが、いずれにしても子どもたちを前に語ることであり、最近沈滞気味の拙文活動(笑)の手がかりとしたい。


 今日月曜は西馬音内小学校2年生への読み聞かせ。メニューは『みち』(五味太郎)を皮切りに、『つかまえた』(田島征三)『お月さんのシャーベット』(ペク・ヒナ)、そして『トラネコとクロネコ』(宮西達也)の4冊だった。2冊目、3冊目は夏にふさわしい内容で、この夏何度か取り上げたのでかなり安定して読めた。



 『みち』は、なんと五味太郎28歳の絵本作家デビュー作。福音館書店から出ている「かがくのとも絵本」シリーズで復刻された一冊だ(2010年)。「せまいみち、ひろいみち、いっぽんみち、わかれみち…」と始まり、様々な「みち」を描く。語の意味を拡げていく時期に触れさせたいと考えた。じっと見入っていた。


 宮西達也さんが本館絵本ライブの今年度講師である。参加対象が2年生なので、ティラノサウルスやウルトラマンシリーズなどの紹介をして、少し興味づけしてから、自分の一番のお気に入り『トラネコとクロネコ』に入った。この作品をとりあげるのは3年ぶりだ。二匹のキャラクターの使い分けがポイントだ。


 20分以上びっしり語り続けた。選書に迷いもしたがバラエティに富んでいたので、子どもたちの集中も切れなかった。感想も別々の本を取り上げてくれた(さすがに『みち』は出なかったが)。宮西作品でブックトークしても面白かったかなとふと思った。とはいえ十番勝負、まずまずな滑り出しと評価しよう。