百醜千拙草

何とかやっています

環境問題のビジネス化は時期尚早

2008-03-07 | Weblog
地球温暖化は地球に生きる生物にとって緊急の対策を要する最大の環境問題です。その主な原因は化石燃料の燃焼による人間の活動であると考えられています。温暖化の原因の主な要因である炭素ガスの排出を抑制し、炭素ガスを固形有機化合物へ固体化させることがその解決法です。炭素ガス排出を地球規模で抑制するための最も実際的なアイデアは「Cap and Trade」だと私も思います。地球全体で許容できる年間の炭素ガス排出量を設定して炭素ガス排出量を炭素排出者に割当て、その間で炭素排出権を売り買いするというモデルです。現在、中国の近代化により、中国の炭素ガス排出量が急激に増えてきています。地球規模でみるとこれは脅威です。しかし中国にしてみれば、これまでアメリカやヨーロッパや日本が自分たちの都合でさんざん地球環境を汚しておきながら、今になって、よりよい生活を求めようとする中国の産業化を抑制しようとするのは、割にあわない話だと思うでしょう。そういう意味でも、炭素排出権の売買を通じて地球全体での炭素ガス排出量を抑制しようとするCap and Tradeは多分唯一機能しそうな方策です。中国は他国の炭素ガス排出権を買うことで、化石燃料に変わるよりよいエネルギーの実用化までの当面の間の近代化をまかなえる可能性があります。
 一方、ここで炭素排出権の売買というトレードが絡むということは、ここにビジネスチャンスが生まれる余地があります。炭素排出権をゼロからつくり出せば、それを売って利益を出すことが理論的には可能です。炭素ガスを減らすには、炭素ガス排出の抑制と、炭素ガスの固体化があります。炭素ガスを固体化する最も効率のよい方法は、植物の光合成によって二酸化炭素を糖に変えてしまうことです。地球上の二酸化炭素濃度は季節変動し、秋から冬にかけて、二酸化炭素濃度は上昇します。北半球の植物の光合成活動が冬に低下するからです。南半球の植物の光合成は勿論増えるのですが、地球全体でみると北半球の方が陸地が広いので、全体としては冬の間の光合成は落ちます。ですから植物の光合成の活動というのは地球規模で大気中の二酸化炭素濃度と直接結びついていると考えられます。この光合成を人工的にコントロールしようというアイデアが海洋富養化法でした。以前触れたように(繰り返す過ち、危険な人間の浅知恵)、海洋の光合成を行うプランクトンの増殖限界を決めているのは、鉄の濃度です。これまでの実験で海洋への鉄の散布により光合成プランクトンの急激な増殖を引き起こせることが分かっています。これらのプランクトンは二酸化炭素を糖に変えて固化したあと、急激に海洋底へと沈んでいくらしいことが明らかになっています。これを利用して大気中の二酸化炭素を海底奥深くへ沈めてしまおうというのが、海洋富養化法のアイデアでした。これに目をつけたのがカリフォルニアのPlanktosという会社でした。Cap and Tradeで二酸化炭素排出権の売買が行われるようになれば、こうした方法によって二酸化炭素を減らせれば、減らした分を売ることによって利益を得るというビジネスモデルです。そのPlanktosはこの1月、大西洋での実験を始めたのですが、先日、結局このビジネスプランを追求することを中止すると発表しました。問題は複数あります。海洋富養化法でどれぐらいの二酸化炭素が実際に減らすことができるのかが明らかでないこと、それを測定することすら困難であること、また、ビジネスを続けていくには大量の鉄を継続的に海洋散布する必要があり、その環境への影響が不明であること、などが最大の問題でした。結局、海洋に大量に鉄を散布することに対する環境破壊を心配するグループからの反対キャンペーンのため、資金を集めることが困難となったのが、今回のビジネスの中止の最大の原因となったようです。アイデアは面白いし、科学的にも興味深い、しかし、ビジネスという経済活動へ直結させようとする態度は感心しません。人間、金のためなら、ものを壊したり、人を殺したりすることを何とも思わない者もいっぱいいるのですから、環境の問題にすぐビジネスを割り込ませはいけません。特に環境問題は自分の周辺の環境さえよければ良いと思っているような人間によって引き起こされてきたのです。ビジネスの自己保存の本能はしばしば、周囲(環境)との利害相反を引き起こします。海洋富養化法というアイデアはSF小説の中にとどめておくべきでしょう。科学は半分はエンタテイメントなのですから、それで十分ではないですか。
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