百醜千拙草

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オバマ政権への期待と不安

2009-01-22 | Weblog
オバマのinaugurationについて書こうと思っていたのですが、あんまり書くことがありません。
住宅バブルの崩壊、経済の低迷、失業率の増加、この局面で、アメリカ人に向けて、誤解を招くことなく、何かポジティブなことを言おうとしたら、誰がしゃべっても、ああいったスピーチにならざるを得ないだろうと思います。選挙前であれば、相手方を攻撃し明るい未来を約束する、キレのよい演説も可能でしょう。しかし、今や、アメリカ大統領となったオバマは、攻撃する相手もいませんし、それにこれからは、自分の政権中におきることは、全て、自分の責任となって返ってきます。トルーマンではありませんが、「The buck stops with Obama」という状態へと変化した、言い換えれば、攻撃する側からむしろ、防御する側に回ったと言えましょう。「ブッシュが悪いから世の中が悪い」とこれまでは言えました。だから、ブッシュと共和党を政権から引きずりおろせば、世の中は良くなると国民は考えて、オバマを選びました。そして、ブッシュは去り、民主党政権となりました。国民はオバマになって、社会が良くなることを期待しています。しかし、スタートラインが悪過ぎます。経済は当面はこの調子で落ちる所まで落ちるでしょう。Inaugurationの日、ニューヨーク株式市場は、更に4パーセントほど下がりました。Inaugurationのスピーチで、オバマは、経済が悪いこと、テロ対策や外交問題も進展がないなど、の暗い話題から始めました。世の中は良い状態ではないことを強く強調した上で、歴史を振り返って、アメリカが成し遂げて来たことを思い出し、われわれの力を信じて、未来に向かってがんばろう、というようなことをしゃべりました。他に何が言えたでしょう。

このinaugurationが歴史的であるとメディアは盛んに喧伝するのですが、その意味は、どうも、アフリカ系大統領がはじめて誕生した、という点以外にはなさそうです。普通の感覚だと、このことに意識的にならない方がおかしいとは言えます。今回のinaugurationにあたって、オバマも奴隷解放を行った(というか、行わざるを得なかった)リンカーンに自らを重ね合わせるような行動や言動をしています。前日の祝日のマーティン ルーサー キング日は、黒人公民権運動で大きな役割を果たしたリーダー、キング牧師に因んでいます。45年前に、 National MallとReflecting Poolをはさんで inaugurationのセレモニーの行われた議事堂とちょうど反対側にあるリンカーンメモリアルの前で、キング牧師は、黒人と白人が同等の権利を持って共存する社会の実現に向けて、「I have a dream」の演説を行いました。そして、ついに、アフリカ黒人の血を引くオバマが大統領に就任しました。そういう観点から、アフリカ系黒人の子孫が大統領となったことの歴史的な意義について、異議を挟むつもりはありません。しかし、オバマ自身が、アフリカ系アメリカ人の代表として大統領を務めるというようなつもりがないのは明らかです。彼は、選挙前から人種というカードを積極的に使ったことはありません。白人支持者もアメリカの民主党政権のリーダーとしてオバマを選んだだけで、むしろオバマの人種は思慮の対象外であった筈です。マイルスデイビスが白人のビルエバンスをバンドを入れた時、黒人ファンからの文句に、「いい音を出す奴なら、仮に緑色の肌をしていてもオレは雇う」と答えたというのを思い出します。ミッシェル ペトルチアーニが偉大なピアニストであるのは、彼が先天性骨形成不全で、身長は一メートルもなく、ピアノペダルに足も届かなかったからではありません。オバマのinaugurationセレモニーでバイオリンを弾いたイツアーク パールマンが偉大なバイオリニストであるのは、彼がポリオで車椅子に乗っているからではありません。同じく、オバマが支持されたのは、彼が黒人の血を引くからではありません。そもそも、少年期は白人社会の中で育ち、そしてハーバードでの高等教育を受けたオバマは、ボストンのロックスベリーやニューヨークのハーレムの黒人街で少年期を過ごしたMalcom Xとは違います。見かけは黒人でも、社会的クラスという点で、オバマは、多数の一般黒人とは異にします。(選挙前、黒人公民権活動家から政治家となったジェシー ジャクソンが「オバマは黒人を見下している」と、こっそり言ったのがビデオに撮影されていて、問題になったのを思い出します)もしも、オバマになってからも、経済の好転が期待したように進まなければ、黒人の中には、特に、これまで自らの社会的非成功を人種差別のせいにして来たような人は、遅かれ早かれ、オバマに失望することでしょう。むしろ、オバマが黒人の血を受け継ぐ故に、彼らの社会や政府に対する怒りは、却って大きなものになるとも予想できます。また、非黒人一般国民も同様です。オバマの評価は結局は、オバマ政権中の「経済状況」に依存します。経済が上に向けば、オバマは、誰にとっても歴史的な素晴らしい大統領であり、経済が悪ければ、オバマの政策が仮に最善であったとしても、オバマは失敗の烙印を押されることになります。その時にオバマの人種的ルーツが、国民の感情にどういう影響を与えるか考えると、多分、オバマが白人であった場合よりもより深刻なものになりそうな気がします。オバマの選択はブッシュ政権への反動という部分が大きい訳で、この悪い状況であるがゆえに、オバマへの期待は必要以上に大きなものであるはずです。そんな状況を見ると、オバマが望むリンカーンの再来というイメージよりはむしろ、ジミーカーターが選出された時のことが思い出されます。カーターは、大統領をやめた後の活躍を評価されてノーベル平和賞を貰っていますが、大統領就任期間中は、全くの期待はずれでした。ウォーターゲート事件での共和党のニクソンに対する反感に乗じて就任時の高い支持率を得た所も、反ブッシュ票を集めたオバマと似ています。今回、オバマの就任をカーターと重ね合わせて論じている人が意外と少ないことに私は不思議な気がします。人はこのちょっと不吉な類似性をあえて口にしないようにしているのでしょうか。私も、この想像は、是非はずれて欲しいとは思っています。
コメント
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