百醜千拙草

何とかやっています

凋落する日本の研究

2022-06-03 | Weblog
沈下する日本の学術レベルについての最近のScience紙の記事。

この記事を書いた記者はDennis Normileで、上海からの発信。かつては欧米企業のアジア支部は日本にあるのが普通でしたが、次々に中国、韓国へと移動。東京は、すでに東アジアの中心では無くなってしまいました。


(一部引用) 大学の地位が低下していることに危機感を抱いた日本は、大学の存在感を高めるために、一部の大学に年間23億ドルもの資金を投入することを計画している。、、、1年以上前から検討されていたこの動きは、沈む一方の日本の研究の運命をどう立て直すか、研究者の間で再び議論を呼んでいる。、、
 新計画は「世界のトップ大学が提供するはずの研究環境を若い有望な研究者に提供し、国際協力を劇的に強化し、国内外での頭脳循環を促進することを目指しています」、、、
 しかし、熊本大学の中国人発生生物学者であるGuojun Sheng氏は懐疑的である。「この計画が、日本の研究活動のランキングや国際競争力の低下を食い止めるのに役立つとはとても思えません」と、彼は言う。中国、米国、英国で研究・仕事をした経験を持つSheng氏は、新計画は、女性や外国人科学者が少なすぎる、変化を恐れる、若い科学者へのサポートがない、といった日本の研究機関の根本的な問題には対処していないと指摘する。、、、
 日本の科学的影響力の衰退に対する懸念は、何年も前から高まっている。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の研究開発費は1670億ドルで、米国と中国に次いでトップである。しかし、研究生産性は「(20カ国)平均を著しく下回り、引用インパクトも低い」、、、
 日本は1997年から1999年まで被引用数上位10%の論文のシェアで4位だったが、2007年から2009年は5位に、2017年から2019年は10位に下がった。、、、カナダ、フランス、イタリア・オーストラリア、インドも日本を抜いた。、、、
 シンガポール国立大学の日本人幹細胞研究者である須田敏雄氏は、(日本の)トップダウン型のプログラムは、その規模と広大な課題により責任の所在が曖昧になり、パフォーマンスの評価を難しくしていると指摘する。また、基礎研究よりも応用に重点が置かれているという。一方、文部科学省が競争的に審査する科学研究費補助金は、過去10年間は年間20億ドル以下で停滞している。、、、
 「さらに悪いことに、日本の大学は固定的なブロック資金で運営されているため、若い科学者に(常勤の)職を与えることをやめてしまった」。また、幸運にも職を得ることができたとしても、スタートアップ資金を得ることはほとんどなく、「リソースの面では上級教授の言いなりになってしまう。
 このようなキャリアの見通しの悪さが、人々をアカデミアから遠ざけている。文部科学省のデータによれば、修士号取得後すぐに博士号取得を目指す学生の数は、20年間で25%減少している。そして、博士号を取得した人の中には、海外にキャリアを求める人もいる。、、、

という内容ですが、日本の問題は他国の組織と比べてみると明らかです。具体例として表れているのは、「アカデミアに職がなく、あっても不安定で将来が見通せない」、「資金配分を広く浅く行うのではなく、トップダウンで集中投下するため、研究格差が拡大し、底力となる裾野の研究者が育たない」、「組織の硬直化と過剰な雑用と報告書の強制によって、研究者なのに研究しているヒマがない」などなどですが、その根本的な問題は、日本政府の不勉強と不作為と短慮です。つまり、やる気がないのです。日本政府の無能さの例を挙げるときりがないです。例えばコロナ対策に30兆円の予算をつけておきながら、有効につかえず余らせる、挙句に何兆円もその使途さえわからない、というような政府です。これでは、小学生のお使いレベル未満です。

記事では日本は多額の研究開発費を費やしているが生産性が悪いと書いてありますが、しかし、この多額の研究開発費に占める政府資金は、諸外国と比べると驚くほど貧弱です。例が挙げられている文科省の科学研究補助金の年間20億ドル未満という数字は、アメリカの政府の研究予算の多くを占めるNIH年間予算の5%未満にしか過ぎません。政府は国の科学技術で世界トップクラスを維持したいのであれば、人口比から考えても、アメリカの1/4規模の予算を組む必要があるでしょう。つまり100億ドルぐらいは出せということです。そして政府が今回、投入しようとしているのが年間23億ドルです。しかし、これでは日本の科学研究を底上げするには全然、不十分なので、一部の大学に選択的に回すと言っているのです。これもマトモに科学振興を考えていない証拠です。これでは、一瞬はよくても10年も経てば元の木阿弥でしょう。その目先のことしか考えられない無能ぶりにくわえて、やることがみみっちくケチくさい。一部の大学だけ立派にして外国に見栄を張り、大半の疲弊する一般大学や研究室は見捨てるというわけです。張り子の虎作戦とでも言いましょうか。

一事が万事ですが、日本が経済的に凋落し、人々が貧困に苦しむのも、科学技術立国の地位を失ったのも、政府の失策。経済政策、科学政策の失敗が原因と言って良いと思います。政府がここまで堕落し無能になったのも、この10年ほどで極度に腐敗が進んだ自民党政治であると言えるでしょう。

2年前にNatureがアベ政権での日本の科学政策の失敗について述べていましたが、自民党政権は誰が頭になっても中身は同じです。失敗から学ばず、同じ失敗を何度も繰り返す。それは、志低くして、誠意乏しく、民間の努力の結晶と国民の富を吸い上げることしか興味がない与党政府が起こした人災です。

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