百醜千拙草

何とかやっています

パルティータ2 プロジェクト II

2023-08-22 | Weblog
パルティータ2 のシンフォニアの練習と並行して2曲目のアルマンドと3曲目のクーラントも練習し始めました。しかし、ちょっと練習を休むとあっという間に弾けなくなるものですね。

五年ほど前に某市市民病院から独立して新たにできた医療施設の院長をやっている先生は、20年前は同じ町内のご近所さんでしたが、当時はしばしばヨーロッパなどでのコンクールに出場するぐらいのピアノの腕前で、若い時はプロのピアニストを目指すか医者になるかで真剣に悩んだそうです。優れた頭脳をもち、ピアノはプロ級、上質で品のよい服を着こなし、エリートを絵に描いたような人でしたが、驕ったところは全くなく穏やかで、育ちの良さが滲み出ている、そんな完全無欠の先生でした。ご近所時代、私に話してくれたところによると、この先生がプロのピアニストに届かなかったのは、二度目についた先生があっていなくて、そこで伸び悩んだのだと分析されていました。研究でも他の分野でもそうですが、若者にとって指導者というのは計り知れぬ影響力をもっているようです。「三年勤め学ばんよりは三年師を選ぶべし」という古語もあれば、道元は「正師を得ざれば学ばざるにしかず」とも言いました。「良い師匠」を探すことの重要性を生意気ざかりの若いうちから理解するのは難しく、私が、自分を導いてくれる人の大切さを実感したのは、自分が若い人を指導しないといけなくなってからです。私も若い時に真面目に先生の言うことを聞いておけば良かったと反省するばかりですが、それでも、面白いことに自然と師の癖みたいなものを受け継ぐようで、ときどき自分の話し方が師に似ていると感じる時があります。また、逆に私の部下の口癖が私そっくりだと指摘されたこともありますから、人の振る舞いというのは感染性があるのでしょう。いずれにせよ、若い時によい師を探し、謙虚に教えを乞うことの重要さを強調しすぎることはないと思います。

私はピアノを人前で弾く予定もレコードにする予定もなければ、ましてコンクールに出るという目標もなく、単に、美しい曲を自分で弾けるようになったらいいな、と思って我流でやっているだけですけど、余裕ができたら先生についてレッスンに通いたいとも思っています。今は、練習しながら、曲を分析したり、この曲が書かれた時代のことなどを想像しながら、楽しんでおります。

さて、パルティータ2のアルマンドは名前の通り、ややゆっくり目のドイツ風舞曲ですが、この曲は後半のサビのアルペジオが美しいです。この部分の和音とその進行とメロディーの流れは緻密な計算の上に書かれているように感じます。和音のルートが4> 5/3>6/2>7/1..と小節の前半で一度ずつ下がり、後半で一度ずつ上がるように進行するように書かれています。左手はコードの基本音ですが、右手のアルぺジオに使われているテンションノートが効果的。弾くのはそう難しくありません。

次のクーラント(Courante)は3拍子の「流れるような」リズムの舞曲です。短い曲で、簡単そうに見えるのに、リズムと右手と左手のコーディネーションがちょっと難しくてなかなかスムーズに弾けません。この時代の右手と左手が独立してメロディーを奏でるpolyphonyというスタイルは右手が主旋律で左手が伴奏という形の現在主流の曲を弾くのとは違った概念と技術が必要で、左右の手が独立して音を伸ばしたりする部分があるために、時に非常に不自然な指遣いが必要になります。またこの時代の曲の装飾音のショートトリルはAllemandeで聞かれる通り、一音上から始まるので近代曲のトリルより一音多く、これもやりづらいです。

Andras Schiffの演奏。Allemandeは4’21からCouranteは8’52から

また、フランスのクーラントとイタリアのコランテでは、曲のコンセプトが若干異なるようで、バッハはクーラントとコランテを区別して書いているようです。パルティータ2のこの曲はフランス風のクーラントで、リズムとメロディーが面白く、バッハの作曲の天才性に感動を覚える曲です。因みに、クーラントに続くのはサラバンド(あいにく上のSchiffの演奏では著作権の関係で省かれています)。これはゆっくりした荘厳さのある曲で、多分、技術的には最も簡単ですが、しみじみとした曲調が美しい。それに続くロンドと最後のカプリッチオを合わせた6曲でこの組曲は成り立っており、アルマンド(ドイツ風)、クーラント(フランス風)、サラバンド、ロンド(円舞曲)の4舞曲が最初のシンフォニアと最後のカプリッチオ(奇想曲)によって挟まっているという構成になっています。

私のこのプロジェクトのきっかけに一つとなった演奏がこちら。アルゲリッチがアンコール用に高速で演奏したカプリッチオ。通常スピードの3割増しぐらいでしょうか。音楽的にはどうかと思いますけど、アルゲリッチのカリスマを見せつけた演奏。上のSchiffの情緒纏綿なうねるような演奏とは随分違いますね。

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