tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

大垣内立山祭り(広陵町三吉)/毎年8月24日開催!

2011年09月02日 | 奈良にこだわる
広陵町三吉(みつよし 奈良県北葛城郡)で毎年8月24日に営まれる「大垣内立山祭り(おおがいと・たてやままつり)」を見物してきた。これは約300年続くといわれる地蔵盆(8/24)のお祭りで、町の指定文化財である。近畿地方以外の方に「地蔵盆」は馴染みがないと思うので、世界大百科事典「地蔵盆」から引用しておく。



《8月23,24日に行われる地蔵をまつる行事のこと。京都を中心とする近畿地方で子どもによって行われている。地蔵が子どもと関係が深い仏だからという。福井県小浜ではどの堂にも賽銭箱が用意されていて,おとなが近づいて行くと〈参ってんのう,参ってんのう〉と参拝をせがまれるという。ことに日本海側では地蔵を絵具などできれいに化粧するところが多い。毎月の24日が地蔵の縁日であるということは,平安時代中期以来みられる》。



地蔵盆の祭りの中でも、大垣内の立山祭りは、「作り物(立山)を飾る」という特徴がある。地蔵堂に建てられた広陵町教育委員会の説明看板「広陵町指定文化財 大垣内の立山祭」によると《専光寺(地蔵堂)で毎年8月24日に行われる地蔵盆の祭。地域住民によって行われてきた伝統の行事で、「作り物」を飾る。「作り物」は、公民館・新築の家・婚礼のあった家などを会場として、そり年に話題となった出来事や有名になった人物を取り上げておもしろおかしく飾り付け、話題性を盛り上げるものである。これを立てないとフジイル(病気や事故が起きる)と言われ、近隣からも見物人が多く集まる》。



《立山祭の由緒は、江戸時代に流行した疫病の身代わりとして立て始めたとする説や、中世「見立山武士」と呼ばれた土豪細井戸氏が元禄年間に武士の名残を偲んで武者人形を立てたのが始まりとする説など、さまざまに語り伝えられている。特色ある夏の風物詩として平成8年3月に広陵町指定文化財に指定されている》。



立山といえば、八木町(橿原市)の愛宕祭(あたごまつり)もよく知られている。橿原市のHPによると《毎年8月23日から25日の間、橿原市八木町で行われます。立山(造り山)や夜店が並び見物客を集めています。橿原の夏祭の終幕を飾るお祭りとして多彩に行われます。愛宕信仰は、もともと京都の愛宕神社中心の信仰で、火難除けの神として全国的に厚く信仰されるようになりました》。


地蔵堂(専光寺)。題字は田中垂エンさんの書である

《大和では、八木が一番盛んとされていて、そのため八木には火災が少ないと言われていたそうです。八木の愛宕祭では、町内周辺38ヶ所におのおの愛宕神社祠を祀り、町内あげて立山(造り山)をつくり出来栄えを競い合います。立山(造り山)見物もこのお祭りの醍醐味のひとつです》。


地蔵堂の向かい(敷地内)に旧公民館がある


旧公民館に展示されていたNHK「江」にちなむ立山(トップ写真とも)

大垣内の立山祭、今年は特に力が入っていて、新聞やテレビでも取り上げられていた。産経新聞奈良版(8/25付)「九州新幹線などの作り物も 広陵町で伝統の立山祭」によると《広陵町の伝統行事「大垣内(おおがいと)の立山祭」が24日、同町三吉の専光寺境内などで開かれ、地元の住民や里帰り中の家族連れなどでにぎわった。立山祭は江戸時代から続く地蔵盆の祭りで、地域の保存会のメンバーが数カ月前からさまざまな人形などの作り物を準備》。


ロイヤルウエディング。さすがの美男・美女である



《この日は大河ドラマ「江」にちなんだ人形や、九州新幹線の作り物など計12点が地区内の公民館や民家など6カ所で披露された。訪れた見物客は発泡スチロールや折り紙などで本物そっくりに作られた迫力ある新幹線などを興味深そうに眺め、家族と訪れた近くの小学3年、竹嶋大晴(はるせ)君(8)は「新幹線は本物みたいで格好良かった」と話していた》。


近松門左衛門『冥途の飛脚』の梅川・忠兵衛。舞台は新口村(橿原市新口町)

奈良新聞(8/25付)には《手作りの人形「作り物」を飾る広陵町指定文化財の伝統行事「立山祭」が24日夕、同町三吉の大垣内地区で開かれ、地区住民を中心に多くの見物客でにぎわった。立山祭は専光寺を中心とする地蔵盆に伴う行事で、江戸時代に疫病が流行した際、身代わりの人形を立てたのが始まりとされる。存続の危機にあったが、昨年から保存会を募って活性化した》。


広陵町は、かぐや姫ゆかりの地である

大垣内周辺は、若者の減少により祭り存続の危機に直面したため、昨年、60代を中心に住民たちが保存会を結成したという。《この日は、公民館、民家6カ所に保存会の住民らが作ったNHKの大河ドラマ「江」や地元ゆかりの「竹取物語」などの人形が並び、人気を集めた。出井裕久区長(68)は「知名度が上がったようで、昨年以上の人出があり盛況だった。今後も伝統文化を守っていきたい」と話していた》。


これはユニークな雨乞い太郎さん(専光寺の木彫十一面観音)の儀式の再現


太郎さんを千刈池に投げて雨乞いをした、という故事にちなむ

出井区長さんは、保存会会長を兼ねている。昨年の「平城遷都1300年祭」では、ともに「平城宮跡探訪ツアー」のガイドを務めたボランティア仲間である。この日もお会いしたが、大汗をかきながら、今回初という青竹の燈火を準備されていた。おかげで今年は例年以上の盛り上がりだったそうだ。地元を盛り上げるのは、やはり「元気なシニア」なのである。





奈良県は「祭りの宝庫」といわれる。しかも、お水取り(東大寺二月堂修二会)や春日若宮おん祭(まつり)のような著名社寺の祭礼だけでなく、立山祭や愛宕祭のような小規模な民俗行事がちゃんと受けつがれているところがすごいのである。この伝統ある大垣内の立山祭、ぜひ住民の皆さんのお力で継承され、ユニークな立山に、無病息災をお祈りしていただきたい。



※2016.9.22追記 毎日新聞奈良版に鹿谷勲さんが連載している「やまと・民俗への招待」に《土地に根付く「芸術」》(9/2付)として、この「大垣内立山祭り」が紹介されましたので、以下、追記しておきます。


なんと!この衣装は超高級品・小千谷縮(おぢやちぢみ)。小千谷縮は
国の重要無形文化財で、ユネスコの無形文化遺産に登録されている

8月24日夕、広陵町三吉の大垣内(おおがいと)地区の立山(たてやま)行事を見学した。立山は民家の一室などを借りて、思い思いのテーマで人形などを展示するもので、集落の地蔵堂(専光寺)を中心にあちこち巡り歩けるように設定されている。今年は「オバマ大統領広島訪問」、「真田丸」、「あさが来た」、「イチロー」、「アンパンマン」、「獅子舞」の6テーマだった。


道端に、こんな碑が建っていた。「新道路建設功労者 出井惣治郎翁」


新公民館駐車場では、金明太鼓が演奏されていた

二次世界大戦前は、10人ほどの有志の男が青年団に手伝わせて行っていたが、戦後は青年団が続けてきた。その後下火となったため、7年前、当時自治会長だった出井裕久さんが呼びかけて「大垣内立山保存会」を結成した。現在は男女60人足らずが6班に分かれて受け継いでいる。




婦人会によるパフォーマンス。衣装は1300年祭のユニフォームだった!

5月ごろ舞台となる民家を依頼し、6月から準備を始めるという。もとは家の新築や結婚などの祝い事のあった家に頼んでいた。人形は等身大で、30体分ほどの頭や手足が地元に伝えられており、胴体を木組みで作り、衣装を着せて念入りに作り上げていく。「真田丸」では、運命を決する「犬伏の密談」が、玄関の間に再現されていた。照明にも工夫を凝らし、真田家の緊迫した談義を思わせる場面だった。



立山は愛宕祭りや地蔵盆などにあわせて催される庶民主体の民俗行事で、橿原市や吉野町でも行われている。鶴見俊輔の芸術論を適用すれば、土地の人の創意工夫で作り、土地の人が楽しむ「限界芸術」そのものだ。専門家が作り、観光客を呼び込もうと今年新規に始まった「奈良大立山まつり」は名は似ていても本質的に異なる。

地蔵堂の解説板には、江戸期に疫病がはやり、身代わりに立山を行ったとも、土豪が武者人形を立てたのが始まりとも書かれている。しかし、だからといって、県内各地の立山行事全部が「身代わり」として立山を作っている訳ではない。(奈良民俗文化研究所代表・鹿谷勲)=隔週掲載
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする