tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(52)観光は、地元の元気のおこぼれ

2011年09月12日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
9/10(土)、以前当ブログで紹介した刀根浩志氏(観光カリスマ、観光ビジネス総研代表)による「なら観光ビジネスカレッジ(斑鳩・信貴)」(第2回)に出席してきた。開催場所は斑鳩町役場地下会議室だった。全8回のスケジュールは、こちらに掲載されている(一部変更あり。詳細は℡で確認を)。8/22(月)にプレオープンしているので、9/10は2回目。しかし、本格的なスタートはこの日から、ということで、冒頭「オリエンテーション」の時間に受講者全員(約30人)の自己紹介が行われた。

主催が生駒郡商工会広域協議会(斑鳩町、平群町、三郷町、安堵町の各商工会で構成される)だったので、奈良市からの参加は私1人。ほとんどが上記4町と大和郡山市、河合町など周辺地域の住民で、「町の広報を見てきた」という人が大半だった。ホテル、百貨店、金属工芸品メーカー勤務の人、農家、NPO役員、外国人向けガイド、町職員など多士済々で、斑鳩町長の小城利重氏(斑鳩町観光協会会長)の姿もあった。

まる1日(9:30~16:30)の講義録はA4用紙10枚にビッシリとなったが、すべてを書いて刀根氏に迷惑がかかってはいけないので、私が聞いてピンときたところを抜粋し、なかでも要所は太字にした。この日は「総論」との位置づけで、演題は「講座1.観光ブランド戦略」、午前の部は「1-1 観光ビジネス概論」、午後の部は「1-2 体験交流型観光と地域振興」だった。


斑鳩町の小城町長。来賓ではなく、受講生として参加された

1.観光ビジネス概論
「人が来た」といって喜んでいてはいけない。「おカネを落としてもらう」ことが大切である。つまり「交流人口にモノを売る、食事を提供する」という発想だ。奈良で、観光客にマグロやイカの刺身を出してはいけない。それは単に料理人の自己満足だ。お客はそんな食材ではなく「奈良の食文化を食べたい」のである。

観光協会などは、よくガイドブックを作って観光客に渡す。「これを見て行ってきてください」というわけだが、私はこれを「放ったらかし観光」と呼んでいる。そうではなく「私と一緒に歩きましょう」という交流が大切だ。今回のセミナーも、一方通行ではいけない。自己紹介を拝聴し、ご参加の皆さんを足し合わせれば、立派な「ほんまもん体験」ができると感じた。大切なのは交流型観光を興そうという「思い」と「意図」である。

○斑鳩町も法隆寺があるから通過型観光客が多いと思うが、通過型では大しておカネは落ちない。ペット茶と菓子を買う程度。ペット茶を飲めばトイレに行く、その掃除は地元民がする、これでチャラになる。

○、明日香ニューツーリズム協議会は「飛鳥物語」という体験観光プランを開発した。 歴史文化、農林業、味覚、自然、伝統工芸・芸能、農家民泊の6つのプログラムを用意している南都経済センターのHPに、同センター主席研修員・丸尾尚史氏が詳しく紹介している)。9/21には、東京の杉並中学の生徒が訪れることになっている。いちごの作業体験や森林の間伐、飛鳥鍋づくりの体験をする。宿泊は、分かれて民家に泊まる。体験型観光では、それに携わる人材の育成が最も大切である。



○外国人観光客(インバウンド)は着実に増えていたが、震災で減り、それが戻ったところで円高でまた減った。国内客・外国人客あわせて、震災後の「自粛」では一時90%近いキャンセルが出た。景気や社会情勢に左右されない観光を作っていきたい。今夏、天川村、十津川村は2~3割増だった。京丹後市や香住町も増えた。しかし城崎や南紀白浜は減った。要は秘湯が増えたのである。

○ロンリー・プラネット(英語版『地球の歩き方』)には、「日本で道を聞くときは、男性に聞くな」「日本人は、英会話は完璧になるまでは話せないと思っている」。これは、外国人との交流に「見えない不安」があるということ。

時代は「癒し(いやし)」から「兆し(きざし)」へ。お客は「自分が変わった」という手応えを求めている。新しい自分に出会いたい、生まれ変わりたい、言い換えれば「心の器」を大きくしたい(刹那的な癒しは、映画を見れば済む)。

宿泊業は、地元農業を活性化する。観光経済新聞(08年6月7日付)によると《農林水産省はこのほど、「平成19年度 食料・農業・農村の動向」で、地域の旅館やホテルなどの宿泊関連産業が地元農産物の調達量を増やした場合、地域の農業生産額が押し上げられるとの試算を発表した。地域によっては4%超の増加率が見込めるところもあり、観光産業の農業に与える影響の大きさが分かった。宿泊施設が「地産地消」に積極的に取り組めば、地域農業の活性化の一助となりそうだ》。



ヨーロッパの「グリーンツーリズム」では、夏のバカンスのとき、長期間田舎に滞在する。おカネを払って働くので、「ワーキングホリデー」に近い。これは、自分の命を支えてくれる「農」に対してお礼にいく、という考えから来ており、一種の「食育」である。日本のグリーンツーリズムは「コメでは食えないから観光客を受け入れよう」ということで、これでは長続きしない。

○日本のブルーツーリズム(漁業体験)の例。地引き網体験で、100人で5万円払うと、アジが100匹獲れる。20万円払うと、タイが100匹獲れる。これは観光漁業であり、漁業体験ではない。ほんまもん体験の「田植え体験」では、2~3列手植えするのに1時間かかる。植えたものをチェックし、ダメなものは植え替えさせる。しかし、苦労して植えると、時々、生育状況を見に来るし、「稲刈り体験もしたい」という。

○昔は、歴史の教科書で白黒写真の大仏さまを見て、本物を見たいと思った。しかし今は、ハイビジョン画面で、実際に見るよりもっと精緻に見える。だから、わざわざ現地に行く必要はない(モノでは満足しない)。行くなら、触りたい、食べたい。つまり五感で感じたい。納得を売らなければおカネはいただけない。

○体験交流ビジネスは、感動ビジネスである。15歳未満はゲームに感動する。20代は映画、30代は買い物、40代以上は「旅」に感動を求める。人気の観光地、TDRもUSJも、ニセモノであり、アメリカがテーマ。中高年は行かない。奈良は本物で勝負しよう。奈良の「過去(歴史)」だけでなく、「今」を語ってほしい。

ガイドをするなら、おカネをもらおう。例えば半日1万円、1日1万5千円。そうすれば、奥さんが「行っていらっしゃい」と言ってくれる。どうしても受け取りたくないのなら、地場産品を買ってお土産にあげれば良い。

○グリーンツーリズム、エコツーリズム、ヘルスツーリズム…。名前が違っても中身は同じ。担当する省庁が違うから名前が違うだけ。

最近は「安近短」ではなく「安近長」志向。アンケートでも「同じ地域でのんびりしたい」という人が7割以上を占める。また予約も、エージェントではなく、ネット予約が増えている(ネットで調べた人が旅行エージェントのカウンターに行っても、客の方が多くの情報を持っているので、対応に満足しない)。



2.体験交流型観光と地域振興
○「ほんまもん体験」のほんまもんとは、単に「偽りではない」という意味ではなく、筋金入りの本物ということ。向上心を持って生きる人の生きざまに触れることで、旅人の心が昂揚し、価値観や行動が変わることをねらう。施設がいらないので、すぐできる。ただし、いい加減ではダメ。

目的は観光振興ではなく、地域振興、産業振興。観光を地域づくりの要として取り組む。「結果が観光」となる。

地域観光人材は、「観光ビジネスリーダー」「地域コーディネーター」(企画・調整者)「オペレーター」(体験インストラクター)の3種類。

観光ビジネスリーダーに必要なのは、(地域の観光資源を)見る力、(お客のニーズを)読む力、(住民を)導く力。ふるさとの5Kを活かす。環境、健康、教育(教養)、絆、心。

○和歌山県高野町の元副町長・高橋寛治氏(高野山大学客員教授)は、長野県飯田市の元カリスマ行政職員。高野町が招聘し、地域おこしを担当された。真言宗徒のイギリス人を呼び、修業体験・写経体験などインバウンドに成功。「弘法大師塾」も開講。

○まずは足元から、気づき→やる気→本気→元気。Uターン、Iターンの人を活用しよう。観光は、地元の元気のおこぼれ。

○旅行先として、今は九州に目が向いている。男性ばかりのグループ旅行が増えてきた(同趣味とか同僚)。カヌーにも藍染め体験にも、元気な中高年男性が来る。キャンプ場に、女性が1人で来る(現地集合)。中高年女性は、体験プログラムには厳しい目。

奈良県には「行きたいけれど、地元のWelcomeが見えない」との声あり。「良いものは奈良にあり」をアピールしよう。

○JTBの「あなた支店」(JTBのHPによると「お客さまの視線で旅を見つめ、サービスをご提案するJTBあなた支店ページです。旅行に関する便利でお得な情報が満載です」とある)。「自分のテーマを解決してほしい」「持っていなかった能力を身につけて帰りたい」。

○体験型ツアーでは、「ガイドの(力量の)差」が「内容の差」になる。中辺路で語り部養成の研修をしたときのこと。「歴史」「山野草」「生物」それぞれの専門家に連れられて歩いたが、午前中の3時間で50mしか進まない(山野草の説明だけで、それだけかかった)。草花は年3回楽しめる。花の写真は持参して「咲けばこんな感じですよ」と見てもらう。

「裏があるから“おもて”なし」。「もてなし」の陰には、相当な努力が要る。

○「体験ギフト」が人気(販売元のHPによると「ソウ・エクスペリエンスの体験ギフトは、様々な経験ができるチケットを箱に入れて、あなたや贈りたい相手にお届けすることができる商品です。スパやリフレクソロジーのようなリラックス体験からキャニオニングのようなアドベンチャー、そしてホテルステイやレストランまで。ありとあらゆる『体験』をプレゼントできるのが体験ギフトです。誕生日に。結婚祝いに。パーティーの景品に。ちょっと変わった贈りものをお探しのみなさま、お待たせしました」)。

旅行には「何度も行く人」と「全く行かない人」にハッキリ分かれる傾向がある。旅行の天敵は「巣ごもり消費」『知恵蔵2011』によると「ネット通販、カタログ通販、ケータリングなどを利用し、外出せずに家の中での生活をたのしむ消費傾向のこと。巣にこもるひな鳥の姿にたとえた言葉で、2008年の年末商戦から広く使われるようになった。『家ナカ消費』『ウチごもり消費』などとも言われる。08年の金融危機による景気低迷が、消費者の「節約志向」や生活全般に対する『縮み志向』を後押ししたことによる現象だが、消費マインドの冷え込みに加え、前年からの燃料価格の高騰や食の安全性に対する不安拡大なども背景にあると見られる」)。

「ほんまもん体験」3つのルールは、「準備しない、片付けない」「やってしまわない(やらせる)」「ほめすぎない」。

○大人は、ほんまもん体験+温泉または食(楽しいこと)+知的欲求の充足。作業より理屈を好む。

○WAK JAPANの「日本文化体験 in Kyoto」。舞妓さんとお茶屋遊び、茶道、、着物の着付、利き酒、家庭料理(天ぷらと巻き寿司)などが好評。料理の作り方を書いたマニュアルを渡し、同時に「アメリカの○○州なら、□□という店で海苔と干瓢(かんぴょう)が買えますよ」という情報も提供する。

刀根さんのお話は、以上である。国内の体験型旅行からインバウンドまで、幅広い領域にわたって興味深いお話を拝聴した。次回は9/17(土)9:30~16:30、場所は今回と同じ斑鳩町役場。講師は刀根さんと、長浜市の田渕正人氏(元日本旅行。びわ湖・近江路観光圏 近江屋ツアーセンター所長)。

残すところあと6回であるが、私はスケジュールの都合上、2回は参加できない。しかし4回分はシッカリと聞いて帰ろうと思う。なお同カレッジへの参加お申し込み、お問い合わせは、生駒郡商工会広域協議会(0745-74-2564)へ
コメント (2)
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