「東京でそばを食す by 坂崎仁紀著『ちょっとそばでも』」のタイトルで、これまでに2回(2013年10月、2014年2月)、東京の美味しい立ち食いそば屋(大衆そば屋)さんを紹介してきた。今回、やっと3回目を書くことにした。今年(2014年)の9月19日(金)と20日(土)に上京したのである。今回は『ちょっとそばでも』を片手に、2日間で4軒のそば屋さんを回り、4種類の「かけそば」をいただいてきた。
(10/16追記)本書の著者・坂崎仁紀さんから、こんなメールをいただいた。
はじめまして 『ちょっとそばでも』の著者 坂崎仁紀です 昨年より、私の本をお手に上京の際には 大衆そばをたべていらっしゃって、その記事を大変楽しく拝見させていただいておりました 御取り上げいただき、大変恐縮しており、また、感謝しております
真っ黒の汁に驚愕されたり、と、素晴らしい指摘に読み入っておりました また今年も冒険の旅にいらしゃったそうで、さらにバージョンアップしたお店のチョイスに感心しきりです
関西にはあまり出張にいかなくなりましたが、もし、行く時はいろいろめぐってみたいと考えております
また、今後ともよろしくお願いいたします
さて9月19日(金)に訪ねたのは、新橋駅の東側・駅前ビル1号館地下1階の「おくとね」(奥利根)。名前の通り、ここは群馬県奥利根地方の舞茸の天ぷらが美味しいと評判の店だ。ランチタイムが過ぎていたので、お客さんが少なくて幸いだった。ここで「舞茸天そば」(450円)を注文。出てきたのがトップ写真のそばだ。私の掌を広げたほどのサイズである。真っ赤な紅ショウガの壺があったので「これを入れるのですか?」とご主人に聞くと「お好みですので、途中で少し試してみてください」とのこと。
まずはツユをひと口。鰹ダシが利いたマイルドなツユで、これなら関西人の口にも合う。そばは冷凍麺だそうで、歯触りがとても良い。舞茸天は、日に何度も揚げるそうだ。パリパリしていて、とても美味しい。途中で紅ショウガを足したが、これもよく合う。これでワンコイン(500円)以下とは、有り難い。
次は新橋駅の西側に出て、「うさぎや」へ。可愛い店名だが、先々代の卯三郎さん(大正4年のウサギ年生まれ)が創業されたそうだ。看板に「抜群にうまい つゆの味」とあり、これは期待できそうだ。ここは「冷(ひや)かけそば」(丼に入れたそばに冷たいツユをかける)が美味しいと『ちょっとそばでも』にある。私は冷かけ(320円)にゴボウの天ぷら(110円)を合わせた。「関西では、あまり『冷かけ』は見かけません」と申し上げると、若主人は驚いておられた。
食べログの口コミにも「ぐびぐび飲める『冷かけ』のツユが絶品」とあったので、まずはつゆをひと口。おおっ、これはうまい。鰹節、鯖節、ダシじゃこ、椎茸、日高昆布などを使っているそうだ。どうしても関西人は、麺よりツユに関心が行く。
若主人にお聞きすると、先々代が、お昼に来られる周辺のサラリーマンの意見を聞いて編み出したのだそうだ。「関西風ですね」と申し上げると、「周辺には住友系の企業さんに勤務する四国出身の方が多かったので、自然とこのような味に落ち着いたそうです」とのこと。この味は、ぜひ守り続けていただきたいものだ。
この日の締めは、「うさぎや」から徒歩数分の「丹波屋」。「おはぎの丹波屋」ではない。とても小さな店だ。『ちょっとそばでも』には「ピッキヌー(タイ産唐辛子)の醤油漬けと激ウマカレー」とある。カレーライスのメニューがあるとは、珍しい。ここで「げそ天そば」380円とミニカレー250円を注文した。
ここのツユはやや濃い目(濃口醤油の辛さ)だが、シッカリした鰹ダシとは相性がいい。ミニカレーは、いわゆる「おそば屋さんのカレー」ではなく、本格的なカレーだ。本書によれば、アジア系の従業員が本場のレシピを再現したそうで、25種類の材料と、10種類以上のスパイスを使っているという。これも美味しい。なおピッキヌーは見るからに辛そうだったので、振りかけなかった。
翌9月20日、場所は変わって日本橋三越前。ここで大手チェーン「小諸そば」三越前店に入った。お店のモットーは「打ちたて 茹でたて 揚げたて」で、生麺の茹でたてを提供する店として知られている。広くて明るくて、清潔な店だ。奥には椅子席もある。
ここで「かき揚げそば」350円を注文。うーん、なるほど。麺は更科そばのように白く上品、ツユはあっさりマイルド。揚げたてのかき揚げはパリパリで、とても美味しい。都内の港区・千代田区・中央区を中心に80店舗以上展開している大手チェーンだそうで、関西なら「家族亭」といったところか。それにしてもこんなに安くて美味しいチェーン店があると、小規模なお店は大変だろう。まぁ、切磋琢磨で味のレベルは上がるだろうが。
今回の4ヵ店とも、初回(その壱)で取り上げたような、関西人震撼の「真っ黒ツユ」のそば店はなく(丹波屋はやや濃いめだったが)、安心して美味しくいただけるものばかりだった。傾向としては、老舗のツユは昔ながらの黒ツユ(濃口系)が多いが、比較的新しい店では「マイルド系」に変化しているように思える(ただし醤油は濃口を使用)。それは讃岐うどんが東京で受け入れられているという近年の状況と関係があるのかも知れない(「小諸そば」は、その傾向をよく読んでいる)。これは今後も追求したいテーマである。
細木数子ご用達「にんべんのつゆの素」。近所のスーパーで350円くらい
本題から外れるが、皆さんは家で冷たいそば(ざるそば、もりそば)を食べるとき、どんなツユを使っているのだろう。思うに、関西で市販されている「そばツユ」は、薄口醤油を使っていたりして、私には物足りない。細木数子が絶賛していたという「にんべんのつゆの素」とか、評判のいい「創味のつゆ」も同様で、私はこれらに市販の「かえし」(醤油に砂糖・みりんなどを加えて寝かせたもの)を足し、濃口のそばツユに仕立てて、いただいている(かけそばと違い、ざるそばのツユは濃口が好みなので)。かえしの代わりに、神宗の「塩昆布煮汁」を使うこともある。
玄(ならまち)の「かえし醤油」1,200円
それも結構面倒なので、上京のおりなどに関東風のそばツユを買い込んできて、使うことも多い。関西で、関東風の醤油味の濃いそばツユは、市販されていないのだろうか。ご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示いただきたい。
閑話休題。若い頃は東京へ出張となると、気負い込んで有名そば店のノレンをくぐったものだ。しかし感じたのは「美味しいけど、こんなに量が少ないのに何でこんなに高いの?」。あの頃、東京の立ち食いそばがこんなに安くて美味しいと知っていたら…、と悔やまれてならない。さあ、東京の「ファストそば屋」めぐり、これからも頑張るぞぉ~。
ちょっとそばでも 大衆そば・立ち食いそばの系譜 | |
坂崎仁紀 | |
廣済堂出版 |
(10/16追記)本書の著者・坂崎仁紀さんから、こんなメールをいただいた。
はじめまして 『ちょっとそばでも』の著者 坂崎仁紀です 昨年より、私の本をお手に上京の際には 大衆そばをたべていらっしゃって、その記事を大変楽しく拝見させていただいておりました 御取り上げいただき、大変恐縮しており、また、感謝しております
真っ黒の汁に驚愕されたり、と、素晴らしい指摘に読み入っておりました また今年も冒険の旅にいらしゃったそうで、さらにバージョンアップしたお店のチョイスに感心しきりです
関西にはあまり出張にいかなくなりましたが、もし、行く時はいろいろめぐってみたいと考えております
また、今後ともよろしくお願いいたします
さて9月19日(金)に訪ねたのは、新橋駅の東側・駅前ビル1号館地下1階の「おくとね」(奥利根)。名前の通り、ここは群馬県奥利根地方の舞茸の天ぷらが美味しいと評判の店だ。ランチタイムが過ぎていたので、お客さんが少なくて幸いだった。ここで「舞茸天そば」(450円)を注文。出てきたのがトップ写真のそばだ。私の掌を広げたほどのサイズである。真っ赤な紅ショウガの壺があったので「これを入れるのですか?」とご主人に聞くと「お好みですので、途中で少し試してみてください」とのこと。
まずはツユをひと口。鰹ダシが利いたマイルドなツユで、これなら関西人の口にも合う。そばは冷凍麺だそうで、歯触りがとても良い。舞茸天は、日に何度も揚げるそうだ。パリパリしていて、とても美味しい。途中で紅ショウガを足したが、これもよく合う。これでワンコイン(500円)以下とは、有り難い。
次は新橋駅の西側に出て、「うさぎや」へ。可愛い店名だが、先々代の卯三郎さん(大正4年のウサギ年生まれ)が創業されたそうだ。看板に「抜群にうまい つゆの味」とあり、これは期待できそうだ。ここは「冷(ひや)かけそば」(丼に入れたそばに冷たいツユをかける)が美味しいと『ちょっとそばでも』にある。私は冷かけ(320円)にゴボウの天ぷら(110円)を合わせた。「関西では、あまり『冷かけ』は見かけません」と申し上げると、若主人は驚いておられた。
食べログの口コミにも「ぐびぐび飲める『冷かけ』のツユが絶品」とあったので、まずはつゆをひと口。おおっ、これはうまい。鰹節、鯖節、ダシじゃこ、椎茸、日高昆布などを使っているそうだ。どうしても関西人は、麺よりツユに関心が行く。
若主人にお聞きすると、先々代が、お昼に来られる周辺のサラリーマンの意見を聞いて編み出したのだそうだ。「関西風ですね」と申し上げると、「周辺には住友系の企業さんに勤務する四国出身の方が多かったので、自然とこのような味に落ち着いたそうです」とのこと。この味は、ぜひ守り続けていただきたいものだ。
この日の締めは、「うさぎや」から徒歩数分の「丹波屋」。「おはぎの丹波屋」ではない。とても小さな店だ。『ちょっとそばでも』には「ピッキヌー(タイ産唐辛子)の醤油漬けと激ウマカレー」とある。カレーライスのメニューがあるとは、珍しい。ここで「げそ天そば」380円とミニカレー250円を注文した。
ここのツユはやや濃い目(濃口醤油の辛さ)だが、シッカリした鰹ダシとは相性がいい。ミニカレーは、いわゆる「おそば屋さんのカレー」ではなく、本格的なカレーだ。本書によれば、アジア系の従業員が本場のレシピを再現したそうで、25種類の材料と、10種類以上のスパイスを使っているという。これも美味しい。なおピッキヌーは見るからに辛そうだったので、振りかけなかった。
翌9月20日、場所は変わって日本橋三越前。ここで大手チェーン「小諸そば」三越前店に入った。お店のモットーは「打ちたて 茹でたて 揚げたて」で、生麺の茹でたてを提供する店として知られている。広くて明るくて、清潔な店だ。奥には椅子席もある。
ここで「かき揚げそば」350円を注文。うーん、なるほど。麺は更科そばのように白く上品、ツユはあっさりマイルド。揚げたてのかき揚げはパリパリで、とても美味しい。都内の港区・千代田区・中央区を中心に80店舗以上展開している大手チェーンだそうで、関西なら「家族亭」といったところか。それにしてもこんなに安くて美味しいチェーン店があると、小規模なお店は大変だろう。まぁ、切磋琢磨で味のレベルは上がるだろうが。
今回の4ヵ店とも、初回(その壱)で取り上げたような、関西人震撼の「真っ黒ツユ」のそば店はなく(丹波屋はやや濃いめだったが)、安心して美味しくいただけるものばかりだった。傾向としては、老舗のツユは昔ながらの黒ツユ(濃口系)が多いが、比較的新しい店では「マイルド系」に変化しているように思える(ただし醤油は濃口を使用)。それは讃岐うどんが東京で受け入れられているという近年の状況と関係があるのかも知れない(「小諸そば」は、その傾向をよく読んでいる)。これは今後も追求したいテーマである。
細木数子ご用達「にんべんのつゆの素」。近所のスーパーで350円くらい
本題から外れるが、皆さんは家で冷たいそば(ざるそば、もりそば)を食べるとき、どんなツユを使っているのだろう。思うに、関西で市販されている「そばツユ」は、薄口醤油を使っていたりして、私には物足りない。細木数子が絶賛していたという「にんべんのつゆの素」とか、評判のいい「創味のつゆ」も同様で、私はこれらに市販の「かえし」(醤油に砂糖・みりんなどを加えて寝かせたもの)を足し、濃口のそばツユに仕立てて、いただいている(かけそばと違い、ざるそばのツユは濃口が好みなので)。かえしの代わりに、神宗の「塩昆布煮汁」を使うこともある。
玄(ならまち)の「かえし醤油」1,200円
それも結構面倒なので、上京のおりなどに関東風のそばツユを買い込んできて、使うことも多い。関西で、関東風の醤油味の濃いそばツユは、市販されていないのだろうか。ご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示いただきたい。
閑話休題。若い頃は東京へ出張となると、気負い込んで有名そば店のノレンをくぐったものだ。しかし感じたのは「美味しいけど、こんなに量が少ないのに何でこんなに高いの?」。あの頃、東京の立ち食いそばがこんなに安くて美味しいと知っていたら…、と悔やまれてならない。さあ、東京の「ファストそば屋」めぐり、これからも頑張るぞぉ~。