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田中利典師の講演「生と死…修験道に学ぶ」より(5)山修行で「命の実感」を持つ

2022年12月20日 | 田中利典師曰く
金峯山寺長臈(ちょうろう)田中利典師は、ご自身のFacebookに、ご講演「生と死…修験道に学ぶ」(第42回日本自殺予防学会総会 2018.9.22)の内容を10回に分けて連載された(2022.11.7~20)。心に響くとてもいいお話なので、私はこれを追っかけて当ブログで紹介している。
※トップ写真は、奈良県立文化会館前庭の紅葉(2022.11.17撮影)

ちょうど折り返し点の今回(第5回)のタイトルは、「擬死再生の行」。よく「修験道は、擬死再生の行である」と言われる。命がけの激しい修行で、死ぬような思いをする。なので行を終えると、今度は「生きている」ということが実感できる、いわば「命の実感」が獲得できるのである。では師のFacebook(11/11付)から、全文を抜粋する。

シリーズ「生と死…修験道に学ぶ」⑤「擬死再生の行」
いよいよ本題に入ります。明治維新時に少々困ったことになったとはいえ、修験道が今も続けてきたことの中に、本日の学会のテーマと関連する学び、教えがあるということで、それをこれから3つの視点から紹介いたします。今日はこのあと、なんでも3つで展開します。

1つ目です。我々の山修行は「擬死再生の修行」ということを申します。一度死を体験して生まれ変わる、ということです。山の行、とくに大峯奥駈修行などでは1日12時間ぐらい歩きます。本当にくたくたになります。それを8日間ぐらい歩き続ける。まさに死を覚悟するような修行の日々を送る中で、一度死んで生まれ変わる実感を持つのが修験の行なのです。この行に白装束で入るというのも、いわゆる「死に装束」を象(かたど)っています。行の中で、一度死ぬような思いをするのです。

あるいは行場には、胎内くぐりという、狭いクレパスのようなところから潜って出てくるという場所もあります。死ぬような修行をした後、母の胎内から生まれ変わって出てくると言う、まさに擬死再生を体感する儀礼まで用意されているのです。

これが修験修行の意味なのですが、考えて見ると人間というのはもともと数年で全ての組織が生まれ変わると言われております。(お医者様たちの前で披瀝するのは憚られますが‥)細胞単位で言うと、皮膚は28日、胃腸は40日、血液は127日、骨は200日。肝臓腎臓は200日で生まれ変わるそうです。

厳密に言えば全部ではなくて、心臓とか組織が生まれ変わらないものもあるので、全てが生まれ変わるわけではないのですが、ほぼ、一年前の自分と今とは、組織上では違っているというのが、まあ科学的にいわれるところです。

しかしながら、それは自分の体で生に実感できるものでありません。今年の右足は一昨年の右足と生まれ変わって良いなと、いうようなことはないわけで、逆に老化するのを実感するくらいです。

ところが、山の擬死再生‥山で一度死んで生まれ変わるというのは、再生の実感があります。例えば50人から80人ほどを山に連れて入りますが、だいたいおいでになった時は参加のみなさんの顔がぼうっとしています。あるいは、ちょっと病んでいるような人もいるわけです。それが山に入れて3日とか1週間修行して、終えて降りてくると、みんながたいへん良い顔になっているのです。目つき顔つきが変わって、生まれ変わったなという、見た目にわかるのです。

本人もそれまでの自分が、山での苦しい苦しい修行を経て新たに生まれ変わったいう実感があるのです。それは、生きているという実感でもあります。ここが大事なのです。

生きている事というのは、生きている間はずっと動いていますから、よくわからない。物事は動いている時にはあまり実態は分からない。止まらないと、動いている時のことが理解できないものです。だから生きている間は動いていますから、生きていることが実は自分ではよくわからないのです。

どうしたらいいかというと、死ぬと止まるから、生きていることが分かる。ところが死んでからわかったのでは実は遅い。「生」の鏡は「死」であると言いますが、動いている間は分からない、止まらないと分からない。でも止まってからわかったのでは、もう死んでいるのですから遅いわけです。なので、普段から「生」の実感を持つということが極めて大事なのですが、なかなか生の、あるいは命の実感っていうのはわかりにくいものです。

そんな中で山の擬死再生の修行というのは、生きながらにして自分の死を覚悟したり、あるいは自分の生に気付いたり、そういう装置、そう言ってしまうと少し語弊がありますが、山修行にはそういう力があると、私は思っております。そういう教えが修験道の修行の中にはあるのです。生きる苦しさや、生まれ変わる苦しさを体験することと言えるかもしれません。

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好評いただいている?私の著作振り返りシリーズの第4弾は、平成30年に開催された第42回日本自殺予防学会での特別講演「生と死…修験道に学ぶ」を、10回に短く分けて紹介させていただきます。もう4年前の講演ですが、なかなか頑張ってお話ししています。ご感想をお待ちしております。
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