日本の家から消えつつあるもの 060603
■ 日本の現代住宅を紹介する月刊誌を見る機会がある。そこに紹介されている作品の多くには和室がない。室名が和室となっていても床の仕上げが畳ではあるが、壁や天井は洋室と変わらない、畳敷きの洋室とでも言うべきものが大半だ。 今日では縁側、床の間、襖(ふすま)などの無い家も決してめずらしくはないだろう。
日本の住まいから消えつつある伝統的なしつらいなどにまつわる小論文的なエッセイ集『日本の家 空間・記憶・言葉』中川武/TOTO出版。この本は友人からのメールで知った。
境界空間、仕切り、場、部位、しつらい、素材、象徴 と章立てし、カラー写真、図版などと共に各章3から5、計25の項目について綴っている。対象を的確に捉えたカラー写真が美しい。 「長押ってなに、三和土ってなんて読むの」といった質問を挙げそうな、建築に関する知識の少ない一般の方にも読んでみて欲しい本だ。
**何かを得るためには、何かを捨てなければならない。住宅近代化の課程で、私たちは多くの懐かしいものを失ってきただろう。それは、時代に即応した新奇性や性能など、新しい何かを得るためであった。**
著者は、このことを必ずしも悲観的に捉えているわけではないようだが、私には、日常生活に根差した「文化」の喪失に思える。 失われつつある日本の伝統文化、とりわけ日々の暮しから生まれ、日々の暮しを支えてきた建築文化に無関心ではいけない・・・そんな思いでこの本を読んだ。