透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

駅には悲恋がよく似合う

2006-06-07 | A あれこれ
『映画の中で出逢う「駅」』臼井幸彦/集英社新書

駅は重要な役割を担ってしばしば映画に登場する。この本は映画に登場するヨーロッパやアメリカそして日本の駅を数多く取り上げて、駅が映画の中でどのように登場し、どのような役割を果たしているのかを論じている。優れた映画論であり、優れた建築論でもある。 著者は大学で土木工学を修め、旧国鉄に入社した方で、現在北海道旅客鉄道の常務。

都市の歴史を刻む駅、都市のランドマークとしての駅が映画では格好の舞台となることはよく解る。物語の始まりで主人公が降り立つ駅、エンディングで主人公が列車に乗り込む駅・・・。映画に登場するいくつかの駅が写真で紹介されているがヨーロッパの駅の重厚な存在感には圧倒される。

日本では建築の建て替えがはやいが、駅も例外ではなく、全国の都道府県庁所在地の主要46駅のうち、初代の駅舎が原型を留めているのは、なんと東京駅だけだという。長野県でも松本駅や長野駅が凡庸な(と書いたら設計者に失礼かも知れないが)駅に建て替えられてしまった。

著者も指摘しているが、駅には恋愛それも悲恋がよく似合う。でもその舞台に相応しい駅は、日本の都市部にまだあるのだろうか。邦画に登場する印象的な駅舎は北海道を始め、鄙びた地方のものが多いように思う。

今年の4月、東京のイイノホールで「建築と窓」について講演を聴いたが、その中で「映画と窓」についても話が及んだ。観る人の関心の所在によって映画の捉え方が違うのだと改めて思った。

そう、映画も観る人の知性と感性とによってそれぞれに受容されるのだ、建築と同様に・・・。