『ハヅキさんのこと』川上弘美/講談社
川上さんはこの本のあとがきにこう書いている。
**ちかごろ、原稿用紙にして十枚前後の、短篇、というには少々短い長さの小説をしばしば書くようになった、(後略)**
この本にはそのような小編が何編か納められている。
写真では帯の文字が読みにくい。
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この人は、きっと少し前に
本気の恋をしたんだろうな。
なんとなく思った。
そしてそれはもう、終ったんだろうな、とも。**
この文章は、収録作品「森」の一節だが、私にはこの作品が印象的だった。
同い年の幼なじみのふたりが二十五年ぶりに偶然故郷で再会して、小さい頃遊んだ森に行く。
「わたし、○ちゃんのこと、好きだったんだよ」
よくある告白だ。
「もうちょっと若かったら、○ちゃんと深みにはまってもよかったのにね」 ふたりの年齢は五十。
「ほんとにここは、森だったんだね」
「また、来られるかな」
「きっと、いつかね」
○ちゃんは、わたしと同じ名前、漢字が違うけれど。
たった9頁の小説、なんだかくすぐったいような気分で読了。
川上弘美の作品の雰囲気が少しずつ変わってきているような気がする。
以前のような、「ふわふわ」感が薄らいで、ここに収録されている作品はどれもきちんと輪郭がある、とでも表現すればよいのかな。
村上龍の『空港にて』文春文庫も同時に読んでいたから、二つの作品の異なる印象がミックスされてしまったのかもしれない・・・。
ついでに『空港にて』はなかなかの短編が揃っていた。
特に「クリスマス」は、この作家のいつものストーリー展開とはちょっと違っていて印象的な作品だった。こちらについてはまたいつか。