「新建築」6704(1967年4月号)より
■ 先日行なわれた、塩尻市の「市民交流センター」の公開審査については既に書いた。一次審査を通過した5案の内、2案がいわゆる「分散コアシステム」を採用していた。構造システムとしてだけでなく、空間的にもコアに重要な意味を持たせていたところが、両案に共通していた。
因みに当選案は「分散壁柱システム」とでも呼称されようか。
この分散コアシステム、「せんだいメディアテーク」をすぐに想起するが、私の記憶はさらに「山梨文化会館 /丹下健三+都市建築設計研究所」に繋がっている。甲府駅に隣接するこの建築は手元の古い「新建築」によると1966年11月に竣工している。いまから40年!も前のプロジェクトだ。
雑誌からこの「山梨」の計画に関する解説文を引用する。
**ここでわれわれが採用したのは、(中略)分散コアともよばれるシステムである。全体のブロック配置、スパン割りなどから15.290m×17.375mのグリッドが設定され、各格子の接点に、直径約5mの円筒コアを配置している。このコアは3本の階段シャフト、2本のエレベーターシャフト、2本の荷物用エレベーターシャフト、3本の便所、給排水シャフト、6本の空調機械室、設備配管シャフト、計16本のシャフトよりなっている。(中略)構造的にも、各スペースのフレキシビリティの要求からきた17mのスパン架構を支える中核体としてきわめて有効に働いている。**
構造シャフトの内部をこのように使うという発想は「せんだい」でも同じだ。
以下『せんだいメディアテーク コンセプトブック』NTT出版からの引用。
**このチューブは床を支える役目、つまり柱として働いているだけではなく、さまざまな役割を果たしています。(中略)エレベーターや階段はなかに収められ、人がこのなかに入ることができます。また、空調や電気、ネットワークの配管を収め、火災時には排煙の経路にもなります。チューブは全体を支えると同時に、さまざまなエネルギーや情報を建物全体に供給する樹の幹のような役割を果たしているのです。**
実によく似ている。説明文を入れ替えても分からないくらいだ。既に40年も前のプロジェクトでコアシステムを採用した計画がなされていたのだ。雑誌には構造に関する説明も載っているが図表は全て手書きだ。
この分散コアシステムのアイディアは磯崎さんによるものだと、むかし聞いたことがあるような気がするが、磯崎さんは1961年に大学院を修了し、1963年には既にアトリエを設立しているから、このプロジェクトに関わったのかどうかは分からない。
「せんだい」のコンペの審査委員長は磯崎さんだった。自分の昔のアイディアを思い出した?
まさかね。
学生の頃、この「山梨文化会館」を見学に行った。受付で渡された黄色い腕章をつけて内部を見て回ったものだ。このプロジェクトが掲載されている「新建築」はずっと後年(雑誌の発行年、1967年には生まれてはいたがまだ小さかった!?)、南洋堂(東京神田の建築書専門店)で買い求めたもの、手元にある建築関係の一番古い雑誌だ。
「せんだい」はすごい建築だと思う。
「山梨文化会館」も当時の建築デザインの状況を考えるとすごい!と思う。そして美しいと思う。「山梨」の美しさをどう説明したらいいだろう・・・。