透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「奥性」 別所温泉の安楽寺で考えたこと

2010-01-25 | A あれこれ






安楽寺 八角三重塔(国宝) 撮影 100123

 別所温泉にある古刹 安楽寺。この寺には八角三重塔がある。昭和27年に長野県で初の国宝に指定されたと説明板に記されている。この塔は松本城よりも、善光寺よりも先に国宝に指定されたということになる。

塩田平を縁取る里山の麓に別所温泉はあるが、安楽寺はその温泉街の「奥」の山腹にひっそりと佇んでいる。

山門に続く長い階段をゆっくりのぼる。山門に立つと石畳のアプローチの正面に大きな屋根の本堂が見える。手入れの行き届いた庭木が奥行き感を強調する。めざす三重塔は本堂の更に奥、山の中にある。急な階段を何段ものぼる。

四重塔じゃないか、と思うが初層は屋根ではなく裳階(もこし)。屋根との違いが分からないが、庇か下屋と理解すればいいのだろう、だから三重塔。薬師寺の塔も三重だが、裳階が各層に付いているので六重塔に見える。

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奥座敷ということばがある。住居で一番「奥」に大切な座敷を配置する空間構成。この考え方は建築だけでなく都市の構成、構造把握にも適用されている。東京の奥座敷といえば熱海温泉、それとも箱根温泉か。大阪だと有馬温泉あたりか。ちなみに別所温泉は信州の奥座敷ともいわれる。

どうも日本人には「奥」を好む心、「奥」を求める精神風土があるようだ。日光よりも奥日光の方がなんだか魅力的なイメージではないか。飛騨より奥飛騨。身近な浅間温泉も松本の「奥」にある。この安楽寺の立地も空間構成も「奥」というキーワードで読み解くことができる。

今よく読まれている内田樹氏の本のタイトルはずばり『日本辺境論』。中心より辺境志向の日本人が論じられている。これに対してヨーロッパは「中心」志向が強い。このことは都市の構造にもよく表れていると思うが今回は触れない。

京の都は元々中国の古い都市をモデルに計画されたが、歴史の流れと共に日本人本来の意識に沿ってしだいに中心から周辺へ向かって行き(その一例が桂「離」宮)、中心性が薄れていった。

石川さゆりが歌う「津軽海峡 冬景色」。北へ帰る人の群れは誰も無口で・・・。そう東京(中心)で生活していても奥(北)が気になってしかたがないのだ。奥に心惹かれる日本人。演歌がよく奥(北)を歌うのはその証左ではないか。

以前から日本の空間構成の特徴が「奥性」にあることを、例えば槇文彦氏の『記憶の形象』筑摩書房などで読んでいた。23日に別所温泉の安楽寺を訪ね、やはり日本人は「中心」より「奥」なんだなぁ~、と改めて思った。