透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「賢木」

2022-05-07 | G 源氏物語

 

「賢木 院死去、藤壺出家」

 桐壺院崩御、政権は右大臣方に移る。藤壺出家。物語が大きく動く。

六条御息所は娘と伊勢に下ることを決心する。嵯峨野の野宮に六条御息所(俗な言い方だと年上の愛人)を訪ねる光君。久しぶりの再会。

暁の別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな(315頁)

藤壺の出家は源氏との関係を絶つため。源氏とは違い、理性的な判断は大人。

政敵の右大臣の娘・朧月夜と光君の密会、不倫関係は続く。ひょんなことから右大臣にバレるふたりの密会・・・。右大臣は**二藍色の帯が、尚待の君の着物に絡みつき、外側に出てしまっているのに気がつき、何か変だなと思う。**(352頁) 男帯が娘の着物の絡みついているのを見てしまった父親・・・。

右大臣と弘徽殿大后は光君の失脚を画策する。光君大ピンチ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「あ・うん」向田邦子

2022-05-07 | A 読書日記

 
『あ・うん』向田邦子(文春文庫2006年第4刷) カバーデザイン:中川一政(もう何年も前、柳沢孝彦設計の真鶴町立中川一政美術館を見学した。)

   唯一の長編小説『あ・うん』向田邦子戦前、太平洋戦争間近。製薬会社のサラリーマン水田千吉と実業家・門倉修造。一対の狛犬に喩えられるようなふたりの奇妙な、そう奇妙としか思えない友情。門倉と水田の妻たみとのプラトニック・ラブ。昭和の暮らし、親密なつきあいが描かれる。

仙吉の父親が東京駅で倒れた。**白金三光町のうちにかつぎこまれたときは、もう死相が出ていた。**(113頁)
仙吉の娘のさと子が外出先から帰ってくる。

以下、さと子の感慨。

**初太郎は、ふたりを、「こまいぬ」だと言っていた。
こまいぬさん あ
こまいぬさん うん
阿呍という字も教えてくれた。
初太郎は、門倉がたみを好きなこと、たみもまた門倉を好きなことを知っていた。しかも仙吉がそれを知っていることも、よく知っていた。息子に口を利かなかったように、そのことはひとこともしゃべらずに死んでいった。
おとなは、大事なことは、ひとこともしゃべらないのだ。**(116,7頁)

物語が進んで終盤。**さと子は急に母親が憎らしくなった。自分の夫と門倉を両天秤にかけている。まん中にいて微妙な揺れを楽しんでいるところは弥次郎兵衛じゃないか。
父親もうとましく思えた。親友が自分の妻に夢中なのを知りながら、波風立てずに二十年もつき合ってきたというのは、卑怯なのかずるいのか。(中略)
門倉にも言いたかった。「お母さんのこと本当に好きなら、力ずくでも奪えばいいじゃないの」(後略)**(216頁)

誰もが、このような状況を受け入れ、口にも出さず、日々暮らしている。このことに、さと子は思う。この思いは私の感想の代弁。私だけでなく、多くの読者がこのような感想を抱くのでは。

 これが向田邦子の描いた昭和。