「松風 明石の君、いよいよ京へ」
■ 朧月夜との密会が見つかり、処分に先んじて京から須磨へ退去した光君。夢枕に現れた故桐壺院(父親)のお告げで明石へ。わびしい生活だったかと思いきや、その地で明石の入道一家の歓待を受ける。で、入道の娘と結ばれた光君。やがて光君はみごもっている明石の君を残して京に戻り、政界復帰。
さて「松風」
二条院の東の院が立派に造営され、光君は西の対に花散里(なつかしい名前)を迎える。東の対(*1)には明石の君を予定しているが、彼女は身分が低いということから、どう待遇されるのかわからず不安で上京をためらう。それで両親は大堰川(おおいがわ)のほとりに所有する邸を修理して娘と孫娘を住まわせることに。
光君の使者が明石に出向き、説得。明石の君は母尼君と姫君(自分の娘)とともに大堰に移り住む。明石には父親だけが残るということに・・・。
光君は嵯峨野に造営中の御堂を見にいくことを口実に明石の君を訪ねる。そこで初めて我が子の明石の姫君と対面する。今まで離れて暮らしていたことを悔やむ。この時姫君は3歳。
**御方は、光君が明石の夜をちょうど思い出している時を逃さず、あの琴を差し出した。なんとなくものさみしく思っていた光君はじっとしていられずに琴を受け取り、掻き鳴らす。**(540頁) あの琴とは明石の別れで形見にと光君が与えた琴のこと。
変わらぬ音色を聞き、契りしにかはらぬ琴の調べにて絶えぬ心のほどは知りきや(540頁)と光君が詠む。約束通り、ずっとあなたのことを思い続けてきたのです。
かはらじと契しことを頼みにて松の響きに音を添へしかな(540頁)と返す明石の君。
光君は姫君を養女として育てようと考える。帰京して、紫の君(奥さん)に相談。幼い子どもが好きな紫の君はすなおに喜ぶ。実子に恵まれなかったということもあるのかも。
上京した明石の君が育てるのが自然だと思うけれど、なぜ光君は姫君を養女にしようと考えたのだろう。常にそばにいて欲しいと思うほど可愛らしかったから?(*2)いや、ありきたりの恋愛小説ではないのだ。なにかそこには光君の政治的な深慮、先読みがあるのでは。考えすぎか・・・。
*1 西の対と東の対は寝殿の左右(東西)にシンメトリックに配置されている。
*2 岩崎宏美の「ロマンス」が浮かんだ。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋