透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「少女」

2022-05-30 | G 源氏物語

「少女(おとめ) 引き裂かれる幼い恋」

 光君の息子の夕霧と内大臣に昇進したかつての頭中将の娘の雲居の雁はいとこどうし。ともに祖母の大宮のもとで育てられる。ふたりは恋心を抱き・・・。「少女」の帖ではこのいとこどうしの恋が描かれる。娘の彼氏が長年のライバルの息子となると、父親(内大臣)は心中穏やかではないだろう。政治的な思惑もあることだし。で、ふたりの仲をむりやり引き裂こうとする。大宮は孫がかわいいからふたりに同情もする。

内大臣は光君と昔から親しいけれど、張り合ってきたことなどを思い出すとおもしろくなくて眠れない夜を過ごす。そして考える。**大宮も、二人のご様子には気づいていらっしゃるだろうに、またとなくかわいがっておられる孫たちだから、好きなようにさせておいでなのだろう、という女房たちの話しぶりを思うと不愉快にも思い腹も立ち、心を静めることもできない。**(615頁)

夕霧の乳母がそっとふたりを逢わせる。**二人は互いになんだか恥ずかしく、胸も高鳴り、何も言えずに泣き出してしまう。**(625頁)夕霧が「ぼくのこと好き?」と問えば、雲居の雁はわずかにうなずく。小さな恋のメロディ。夕霧は父親とはまるで違う。

この帖で光君は教育に対する考え方、教育観について語る。そのポイントを文中から引用する。**やはり学問という基礎があってこそ、実務の才『大和魂』も世間に確実に認められるでしょう。**(604頁)現在使われる大和魂とは意味が違う。引用文にあるように柔軟に、実務的に事を処理する能力を指す。

帖の最後には次のような出来事が描かれている。**光君は閑静な住まいを、同じことなら土地も広く立派に造築し、ここかしこと離れてなかなか逢えない山里の人なども集めて住まわせよう、と考えて、六条京極のあたり、梅壺中宮の旧邸付近に、四町の土地を入手して新邸を造らせはじめた。(後略)**(638、9頁)いくつもの御殿が建つ広大な邸宅(*1)の六条院が完成すると紫の上、花散里、梅壺中宮(六条御息所は存在感がある女性だが梅壺中宮はその娘)、明石の君と次々移り住む。

春夏秋冬、四季をイメージして造園された4つの町(区画・ブロック)から成る広大な六条院。光君の栄華はこの先いつまで続くのか、物語はどうなる・・・。

角田光代訳の『源氏物語』上中下3巻、上巻を読み終えた。素直にうれしい。

源氏物語は登場人物が多いし、役職も変わるから関係が分かりにくい。え、この人誰だっけと源氏関連本の人物相関図で確認することしばしばだった。本書の帯に**四百人以上の登場人物が織りなす物語の面白さ、卓越した構成力、こまやかな心情を豊かに綴った筆致と、千年読み継がれる傑作である。**とある。登場人物が400人を超えるとは驚きだ。確かに作者・紫式部の構成力はすごいと思う。

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たくさんの半透明の付箋、色に意味はない。きれい。


*1 『源氏物語 解剖図鑑』佐藤晃子(エクスナレッジ2022年第3刷)には**六条院は、京の都の碁盤の目を4つ取り込んだ大邸宅(252m四方)。**(57頁)とある。

1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋