透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「朝顔」

2022-05-26 | G 源氏物語

「朝顔 またしても真剣な恋」

 朝顔の姫君は光君のいとこ。姫君は父親(式部卿宮)が亡くなり喪に服するために斎院を辞して、実家(父親の旧邸)である桃園の邸に移り住む。そこにはふたり(朝顔の姫君と光君)の叔母の女五の宮が同居している。光君は叔母に会うのを口実に桃園の邸を訪れる。そこで朝顔の君に長年の思いを訴える。だが、姫君は恋愛ごとに疎く、引っ込み思案。光君の熱心なアプローチにまったく取り合わない。

「朝顔」の帖は次の贈答歌、光君と朝顔の姫君の歌のやり取りに尽きると思う。

**見しをりのつゆ忘られぬ朝顔の花の盛りは過ぎやしぬらむ**(583頁) むかし会ったときのことが忘れられない光君、朝顔のようなあなた、うつくしい盛りはもう過ぎてしまったのでしょうか、と歌で問う。

これに対して姫君は返事をしないとわからず屋のように思われるのではないかと思い、**秋果てて霧の籬(まがき)にむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔  (秋も終わり、霧のかかった垣根にまとわりついて、あるかなきかに色あせた朝顔、それが今の私でございます)**(584頁)と返す。今はもうお互いに恋などふさわしくないほど歳を重ねているという自覚、理性的な判断をする姫君。

光君が姫君に熱心に言い寄っているという世間の噂が紫の上(奥さん)の耳にも入る。光君の心が朝顔の姫君に移ってしまったら、私はどうなるのだろう・・・、と心を痛める。こんなことになることもあり得るのに、安心しきって過ごしてきたなぁと考える紫の上。朝顔の君との件は本気じゃないから安心しなよ、と紫の君の機嫌をとる光君。

雪の夜、物思いにふける光君。人は春の花(桜)や秋の紅葉に心惹かれるけれど、冬の月夜の雪の風景も格別で、これ以上のものはないなあ、と思う。これを興ざめなことの例だと書き残した昔の人は浅はかだと言う。ここで紫式部は昔の人とは書いているけれど、清少納言を意識しているとする説もあるようだ。ほかにも「枕草子」との関係を思わせるところがあるそうだが、調べずに読み進む。

さて、風情ある雪景色を見ながら光君は紫の君に今まで関係した女性について語りだす。藤壺、朝顔、朧月夜、明石の君、花散里。源氏物語にはいろんなタイプの女性が登場する。中には朧月夜の君のように恋に積極的な女性もいる。このあたり、作者の紫式部が読者に回想を促す意図があったのかも知れない。

夫から女性遍歴を聞かされた奥さん、**氷閉じ石間の水はゆきなやみ空澄む月のかげぞながるる (私は閉じこめられているけれど、あなたはどこへも行けるのですね)**(596頁)と詠む。上手いなあ、賢い人だなあと思う。

平安貴族の社会における夫婦の関係は現代とは違うけれど、個々人の心情は今も昔も変わらないと思う。となると、紫の君はつらかっただろうな、と同情する。

その後、光君が藤壺のことを考えながら寝室で横になっていると、夢に藤壺がでてきて、**「けっして漏らさないとおっしゃっていたのに、嫌な評判が明るみに出てしまって恥ずかしく思います。こんなつらい思いをして、苦しくてたまりません」**(596頁)と恨み言。光君は藤壺の供養をする。

この帖を読み終えて「光君の母親さがし 藤壺に実の母親を求めた」とノート(源氏物語用のメモ帳)に書いた。「源氏物語」、この後の展開やいかに・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋

上巻は「少女」を残すのみ。