透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「横笛」

2022-07-18 | G 源氏物語

「横笛 親友の夢にあらわれた柏木の遺言」

 柏木の一周忌の法要が営まれた。その後こと、夕霧は柏木の妻の落葉の宮とその母・御息所を一条宮邸に見舞った。静かに琴を奏する宮邸は夕霧の邸とは大違い。御息所は柏木が大切にしていた横笛を夕霧に送る。夜遅くに夕霧が邸に帰ってみるとみな眠っている。雲居雁(夕霧の妻)も起きて来ない。

**「大将の君はあの女宮にご執心で、それであんなに親切になさっているのですよ」と北の方(雲居雁)に女房たちが告げ口したので、こうして夜更けまで大将が出かけているのもなんだか憎らしく、帰ってきたもの音を聞いたものの、眠ったふりをしているらしく・・・。**(488頁)と事情が説明されている。ここで大将とは夕霧のこと、女宮とは落葉の宮のこと。読んでいて時々、あれこの人誰だっけとなるので念のため。

その夜、夕霧の夢に柏木が出てくる。**笛竹に吹き寄る風のことならば末の世長きねに伝へなむ**と柏木が読む。(489頁)**(前略)願わくば末永く私の子孫に伝えてほしい。**と訳されている。それは誰かと問おうとすると、赤ん坊がひどく泣き出したので目が覚めてしまう。夕霧は横笛をどうしたものかと思いあぐねて、六条院に光君(父親)を訪ねる。そこで薫を見た夕霧は目元や口元が柏木に似ていると思う。

夕霧から夢の話を聞いた光君は、横笛は自分が預かるべきものだと答える。夕霧は柏木の遺言を伝え、真相を聞き出そうとする。光君は、夕霧はやはり気が付いているのだなと思う。だが、心当たりがない、ととぼけて答えようとしなかった・・・。

この帖では横笛が血脈を象徴するものとして扱われている。これは紫式部の冴えたアイデアだと思う。このことだけ書いておけば良いかな・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                


「どくとるマンボウ途中下車」

2022-07-18 | A 読書日記

『黄いろい船』
『どくとるマンボウ青春記』
『どくとるマンボウ途中下車』 
『どくとるマンボウ追想記』
『どくとるマンボウ昆虫記』
『どくとるマンボウ航海記』
『夜と霧の隅で』
『白きたおやかな峰』 
『楡家の人びと』

 上掲した北 杜夫の作品を10年ほど前に再読している。これらの作品を思い浮かべると、北 杜夫が追憶の作家だということが分かる。時にユーモアを交え、時に羽化したばかりの蜻蛉のようなとでも形容したらいいのか、繊細でナイーブな独特の表現で追憶が綴られている。

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しばらく前から『どくとるマンボウ途中下車』(中公文庫1973年)をまた読んでいたが、昨夜(17日)読み終えた。

**さて、機はエンジンを片方ずつ全開させてテストした。私はそのエンジンの響きにじっと耳をすませて、不調の徴があったらすぐさまパイロットのところへ言いに行こうとベルトを外しかけた。だが、まずまずの響きのようだった。パイロットもそう思ったのだろう、機は滑走を開始し、私の祈りのせいもあって、無事に空に浮かびあがった。**(57頁)こんなユーモアのある文章は他の作家に書けないだろう。北さんはごく自然にこんな表現になるのだろう。

**小説というものはつくづく便利なもので、主人公が町角をぶらぶらしていると、必ずや心にひめやかにたゆたっている女性とばったり出会う。**(163頁)と北さんは書く。何年振りかであった太郎と花子はこの後一緒にラーメンを食べにいく、というように話はスムーズに進行してゆく。でも現実はなかかなこうはいかない、と北さんが指摘した後に続く文章に、黄色の鉛筆でごく薄く傍線が引いてある。**太郎と花子は双曲線のように近づくかと見えるが、やがて遥かな空間に溶け去って、二度とまみえることはないのである。**(163頁)この件、確かにそうだなと思ってあの頃引いたものだろう・・・、きっとそうだ。