透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「若菜 上」

2022-07-04 | G 源氏物語

「若菜 上 女三宮の降嫁、入道の遺言」

 『源氏物語』はここまで各帖(巻)すべて短く、2,30ページ位だった。だが「若菜 上」と「若菜  下」の2帖で約140ページある。「若菜」はこの長編の大きな峠のような気がする。峠を越えると今までとは違う風景が広がっているのではないか、そんな予感がする。

源氏物語の登場人物の多くに血縁的な繋がりがある。各帖のはじめに登場人物系図が載っている。いままでの帖では1ページに収まっていたが、「若菜 上」と「若菜  下」は見開き2ページ。

**朱雀院(光君の異母兄)は、先頃の行幸(みゆき)の後から、ずっと体調がすぐれないままである。**(272頁)「若菜 上」はこんな書き出しで始まる。出家を思い立った朱雀院には東宮の他に娘が3人いて、心配なのは女三の宮のこと。あれこれ思いをめぐらせる。光君の浮気心を心配するものの、**「本当に少しでも世間並みの暮らしをさせたいと思う娘がいるなら、どうせなら光君のような人と縁づかせたいものだ。(後略)」**(278頁)など考えて、後見に選ぶ。光君は一旦は辞退するが結局引き受けることに。

光君は40歳になる。いつまでも若いと思っていたのに、今やすっかりおじさん。

2月に女三の宮は降嫁、六条院に移ることになる。ずっと安泰だと思っていた紫の上は、落ち着いてはいられないし、居心地悪く思ってしまうが、平静を装っている。女三の宮に対する紫の上のコメント(ここに引用はしないけれど)を聞いた女房たちは**「お心が広すぎますよ」**と言っている。確かに寛大な女性だと思う。

**どうしてこの姫宮をこんなにもおっとりとお育てになったのだろう。とはいえ、たいそうご熱心にお育てになった皇女と聞いていたのに・・・(後略)**(306頁)と光君は女三の宮の幼稚さに落胆する。で、改めて紫の上の人となりをすばらしく思う。光君、紫の上の魅力再認識。

光君と朧月夜との関係は長年続いた、ということは前々から予備知識としてあった。この帖でその朧月夜が再び登場する。ここで復習。八帖「花宴」、当時光君は20歳。花見の宴が催された日、暗闇の中で朧月夜を抱き上げて部屋の中へ。彼女と一夜をともにする。その声から相手が光君だと分かった朧月夜は「光くん(ここは光君(ひかるきみ)ではなく、今風に光くんとしておこう)だったら、ま、いっか」と思ったのだろう。

光君は40歳にもなるが朧月夜との恋を再燃させる、朧月夜のことを軽々しい女と侮ってもいたのだが・・・。紫の上はふたりの関係を薄々感づいている。**「ずいぶん若返ったお振る舞いですね。昔の恋を今蒸し返されましても、どっちつかずの寄る辺ない私にはつらいだけです」**(314頁)と、光君に打ち明けられた紫の上は応える。

中年おじさんの光君は女子高生くらいの歳の女三の宮と結婚した。で、紫の上と姫宮は母娘ほど歳が離れているが仲良くつきあっている。やはり紫の上は人としてできている。

光君40歳。当時40歳といえば長寿の祝が催される年齢。で、いろんな祝いの催しが行われる。

翌年、明石の女御が東宮の子(男の子)を出産する。孫の女御が東宮に入内して男宮を出産したことを知った明石の入道、長年の念願が叶って人里離れた山奥に身を移す。この時代の人たちに晩年には俗世を断ち切りたいという願いがあったのだろう・・・。

長い帖のどこを切り取るか・・・。やはり柏木が女三の宮にずっと恋心を抱き続けていたことだろう。**衛門督(えもんのかみ)の君(柏木)も、かつて朱雀院につねに出入りし、ずっと親しく仕えていた人なので、この姫君を父朱雀院が帝の時からどんなにたいせつに育てていたか、その心づもりもよくよく見知っていて、だれ彼と縁談のさだめのあった頃から求婚の意を示していた。(中略)六条院に降嫁などと思惑外れのこととなったのは、まったく残念で胸も痛み、未だにあきらめきれないでいる。**(345頁)で、光君が出家したらその時は・・・、などと機会をうかがっているというのだから相当な恋心。

3月、六条院で蹴鞠が行われた時のこと。柏木もその場にいた。彼は猫が長い綱が何かに引っかかって、御簾の端がめくれたところを目にし、中にいた姫宮(女三の宮)の姿を見てしまう。**着物の裾が長く余るほど本人はほっそりと小柄で、姿かたち、髪のふりかかる横顔は、なんともいえず気品に満ちて、可憐である。**(348頁)

督の君(柏木)は**姫君のどんな欠点も思いつくこともなく、思いがけない隙間から、ほんのわずかにせよその姿をこの目で見られたのは、私が昔から寄せていた思いも成就する前兆でではないかと、こうした縁もうれしく思い、ますます慕わしく思う。**(350頁)

彼はとうとう姫君に恋文を書く・・・。あらら、知~らない。平安貴族の社会規範は今とはまったく違うんだろうな~。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋