都会に住んで、毎日通勤電車に揺られている人々の多くは田舎暮らしに憧れるものです。
電車も無い大自然のなかで、青い山並みや広々とした紺碧の海を眺めて暮らすことに憧れます。そしてそこで農作物を作ったり、魚を釣ったりして自給自足の生活がしてみたくなります。実行はしませんがそんな夢を想う人は必ずいるものです。
それが証拠には随分と前から本屋さんへ行くと「田舎暮らし」という雑誌が置いてあります。何度か買って読みました。その本には田舎暮らしの楽しさが沢山書いてあります。大自然の美しい写真もあります。そし全国の田舎の住宅の案内が具体的に書いてあります。
しかし一方その雑誌を注意深く読むと、田舎暮らしの厳しさも想像出来ます。私には田舎暮らしは出来ません。
ところが5年ほど前の11月に田舎暮らしを楽しんでいるある夫婦と偶然知り合ったのです。今日はその話をしたいと思います。
夕焼けの八ヶ岳や甲斐駒の写真を撮ろうと山梨の北杜市の白州の村落をブラブラ歩いていました。すると大根を一輪車に満載した男性に出会ったのです。田舎暮らがしたくて、定年後、都会生活を引き払いご夫婦で引っ越してきてもう10年くらいになるそうです。
まあ、お茶でもどうぞ、と招じられます。
彼の家は下の写真のように都会風の家でした。前は広々とした水田になっています。南には地蔵、甲斐駒、北には八ヶ岳、東には金峰山が見えます。
下の写真は、声楽がご趣味の奥様の作ったカボチャです。もっぱらガーデニングが趣味で、ロマンチックな洋風の庭を作り上げています。
下の写真はご主人のK氏が使っている300坪の水田です。これで毎年7俵(420Kg)のお米が取れるそうです。他に畑も借りて野菜も作っています。米も野菜も完全有機栽培で農薬は使っていません。完璧な自給自足の田舎暮らしなのです。感心しました。
少し詳しく聞いてみました。k氏は有名なあるベアリング製造会社の研究所で定年まで働いていたそうです。研究所長もしていたのです。しかし現在は悠々自足の生活です。
家の1階の大きな部屋には高級なステレオ装置とピアノがあります。一角には食卓用のテーブルがあり、そこに座れば地蔵岳や金峰山が見えます。手前に目をやると芝生と草花の庭があり、その先には水田が広がっています。陽射しが明るい場所で、昔からあった集落の端にあります。
ピアノが置いてあっても狭く感じません。奥様は毎月、何度か東京の声楽の先生の所へ通っています。田舎でもレッスンの合宿もするそうです。近くの花白州というペンションに皆で泊まりながらするそうです。
さて、「完璧な田舎暮らし」とは何でしょうか? 「理想的な田舎暮らし」と読み替えても良いです。人それぞれ理想の田舎暮らしの内容は異なります。しかし私は以下のように考えています。
(1)夫婦揃って田舎暮らしが好き。(離婚してまで田舎暮らしはしない方が良い)
(2)夫は稲作が好きで、自給自足以上の米や野菜を作っている。
(3)奥さんもガーデニングが好きで、独自の趣味をしっかり持っている。
(4)自宅の中は完全に都会風で、日常の生活が清潔で便利に出来ている。
(5)日当たりが良くて、近くにスーパーや病院があるような立地条件になっている。
5年前に、偶然にお会いしたK氏の暮らしは上の条件を完璧に満たしています。
しかし多くの人々は農作業が好きではありません。稲栽培が出来る都会人は少ないものです。
一般的には奥さんが都会に残り、ご主人だけで田舎に住んでいる人が多いのです。
聞くとK氏が田舎暮らしをは始める前に十分な準備をしたことが分かります。村落の人々の了解を得て家を新築し、田圃を借りる交渉をしたのです。そして高価な農機具は全て村落の人々が進んで貸してくれたのです。田舎に引っ越す前に現地の人々の協力を得たのです。これこそが田舎暮らしの挫折を避ける鍵ではないでしょうか。そして充分な資金が必要です。
私には真似の出来ない周到さです。
そこで私は田舎暮らしは諦めて山林の中に小屋を作り時々遊びに行っています。小屋の近所の乳牛を育てている人と養鶏の人とは仲良く長い間付き合いました。そして山小屋に今でも行って遊んでいます。下に40年前に作った小屋の写真を示します。
下の写真は家内が小屋の庭を流れている小川の落ち葉を取り除き、綺麗な砂の川底が見えるようにしている様子です。
そしてこの写真は私が小屋の中で焚いて遊んでいる薪ストーブの写真です。
こういうのも一種の田舎暮らしと思います。稲作もしないし、農機具も使わないので苦労がありませんません。
趣味は人それぞれでと言います。自分の好みと能力に合ったいろいろな田舎暮らしの楽しみ方があるのではないでしょうか。自然に接し、自然のことを深く考えさせる「田舎暮らし」という言葉が大好きです。大切にしたい言葉です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)