これまでのイスラム過激派のテロや武力攻撃はアメリカとその協力者へ対する軍事活動だけであり、イスラム教にももとずいた国家建設という明確な思想的背景が存在していませんでした。要するに政治的展望の皆無な武力攻撃だけだったのです。
しかるに2014年の6月に「イスラム国」の樹立を宣言し指導者として「アブ―バクル・アルバグダーディ」をムハンマドの後継者、カリフにしたと発表したのです。
この新しい国家の第一の目標はシリアとイラクを統一し、最終的には現在の中東全域の統一にあるのです。その構想は壮大で、中東に広大な統一国家、イスラム国を作ろうとしているのです。その国家の形態と政治はかつて地中海全域を版図にしたオスマン帝国をモデルにしているのです。
このイスラム国の構想と現在の統治の実態については放送大学の高橋和夫教授が詳しい解説をネット上に幾つか発表しています。学問的で客観的な説明なので信用出来そうです。
そこで、以下にその概略をご紹介いたします。なお詳しくは末尾の参考資料を是非ご覧下さい。
アメリカが「イスラム国」の活動地域に対する空爆を、これまでのイラクのみでなくシリアにまで拡大させました。なぜアメリカはシリア空爆に踏み切ったのか、イスラム国はこれまでのテロ組織と比べて何が違うのでしょうか。
広い「領土」で住民サービスも提供
イスラム国の特殊性は、余りに国らしい点にあります。つまり「テロ組織」の域を超えているわけです。それは、既にイラクとシリアの2つの国にまたがって広い「領土」と数百万の人口を支配しています。
しかも、徴税や電気や水道の供給など国家としてのサービスも住民に提供しています。一定の領土と人口を一定期間以上にわたって有効に統治しているわけです。アルカーイダのような、これまでの「テロ組織」とは全く違うのです。
アメリカはシリア領まで爆撃したのは、この国家という名前のテロ組織が、やがてはアメリカへの脅威になるという認識からです。
大型兵器をイラクからシリアへ移動
とはいえシリア爆撃の直接の理由は、シリアでの軍事情勢だと考えられます。というのはイスラム国の特殊性は、今になって急に始まったからではないからです。それでは、アメリカがシリアに爆撃を拡大した軍事的な理由は何でしょうか。
それはイスラム国が大型兵器をイラクからシリアに移動させてシリア北部のクルド人地域などに攻勢をかけてきたからです。イスラム国が、こうして攻勢の矛先をイラクからシリアに変えたのは、イラクではイスラム国が保有する戦車や大砲などの大型兵器がアメリカ軍による爆撃の標的になってしまうからです。イスラム国は、空爆されないシリアに兵器を移動させて攻勢を始めたわけです。シリア北部のクルド人の多数がイスラム国の攻撃を受け難民としてトルコに流入しています。またイスラム国に包囲されて、このままで全滅させられそうなクルド人の村落もあります。
アメリカは、これ以上に状況を悪化させるわけにはいかないという判断に至ったわけです。サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連合、バーレン、そしてヨルダンのアラブ五カ国が爆撃に参加したのが、オバマの決断を助けたことでしょう。ブッシュ前大統領の単独でも行動するという姿勢をオバマは批判して当選した大統領だからです。
さて一方イスラム国の統治はどのようなものでしょうか?(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%9B%BD よりの抜粋)
一方、「イスラム国」はシリア北部のラッカを首都だと宣言しており、ラッカでは一般市民に税金を納めさせており、次第に国家としての体裁を整えつつあるようです。
また防衛省や保健省や電力省などの省庁を置き、各省庁には大臣もおり、治安組織(警察組織)も持って、パトロールカーも巡回させているそうです。その上、支配地域の住民のために、独自のパスポートも発行しているといいます。
さらに、2014年11月13日には、イスラム国は、独自の金貨・銀貨・銅貨を発行すると発表しました。
朝日新聞の推測では、独自通貨を発行し流通させることは経済の統制を強める狙いもあるが、国家としての正統性を高める狙いもあるとされるています。これらのお金の単位は、この地域の本来の あるべき姿だと思っているオスマン帝国が用いていた通貨名・硬貨名と同じなのです。硬貨のデザインとしては、アルアクサー・モスクなどイスラム教に関係する絵柄が描かれており、
イスラム国」のことを、イスラム国家であったオスマン帝国を継承している 正統性のある存在とて、各地のムスリムたちに認めてもらおうとする狙いがあると言われています。
このような情勢を見ると、何故、クルド族とイスラム国との戦争が熾烈になったか、その原因が明らかになります。シリアとトルコの国境に近いラッカを首都にするためにはその近辺のクルド民族を殺戮し、平定しなければなりませんでした。多くのクルド難民がトルコに逃れたのです。イラクに居たクルド民族もアメリカの支援で決起したのです。そしてトルコ領を通過してシリア領へ進撃したのです。これがイスラム国とクルド民族の戦いです。なおイスラム国が首都をラッカにしたかという理由には深い歴史的な伝承があったからです。そこがイスラム教徒とキリスト教徒の最終決戦地になるという伝承があったからです。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈りいたしす。後藤和弘(藤山杜人)
今日の写真はイランの世界文化遺産のイスファハンのイマーム広場、の写真2枚と世界遺産イマーム広場にある橋の写真1枚です。
そして4番目の写真にかつて隆盛をきわめたオスマン帝国の領域をしめします。
こんなに華やかな文化の花を咲かせて中東には5番目のような難民が溢れているのです。悲劇です。
=====参考資料====================
(1)なぜ米軍はシリアに空爆拡大? 「イスラム国」の特殊性 /高橋和夫・放送大学教授:http://thepage.jp/detail/20141003-00000027-wordleaf(2014.10.03 18:02
(2)イスラム国とは?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%9B%BD
(3)スンニ派過激派が「イスラム国」樹立 狙いと今後の影響は?
:http://thepage.jp/detail/20140714-00000011-wordleaf
(4)性奴隷の運命恐れ自殺… イスラム国被害者の惨状、人権団体が報告:http://news.livedoor.com/article/detail/9606207/ 2014年12月23日
(5)オスマン帝国とは?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%B3%E5%B8%9D%E5%9B%BD
(6)なぜイスラム国は「奴隷制」の復活を宣言したのか? /放送大学教授・高橋和夫:http://thepage.jp/detail/20141025-00000008-wordleaf