英国のEU離脱のニュースは、第二次大戦以後、育って来たヨーロッパ各国間の国際協調主義の挫折を意味する歴史的転換と考えられます。
世界の国々はそれぞれ独自の文化を有し、各国は自由に対外政策を決めるべきです。ですからEUのように28ケ国もの国々が団結して自国の利益だけを守ろうとすることはフェアーでないという見方も出来ます。
その上、EU本部によるイギリスの国内政策への干渉が強すぎます。さらにEU圏内で自由に移民出来るので、経済的に遅れた東ヨーロッパからイギリスに移住する人が増えます。しかもシリア難民まで押し寄せて来るのです。
こんな背景から、イギリスはEUから独立して、EUとは決別すべしと考える英国人が増大したのでしょう。
私は6月21日のこの誌面の掲載記事に以下のような導入文を書きました。
「地球にポピュリズム、扇動政治という妖怪が歩き回っている。人間の低俗な欲望を刺激し、扇動し政治を支配しようとする妖怪である。
それは各国の狭量な愛国者と手を携え勢いを増している。アメリカ大統領候補のトランプ氏の勢いを見よ。イギリスの欧州連合からの脱退運動もしかり。イタリアではEUに反対する「五つ星運動」の女性がローマ市長とトリノ市長に当選した。」
この妖怪は、大変残念ながら欧米各国で勢いを増しつつあるのです。
ですから6月21日の掲載記事の中でフランスの経済学者のジャック・アタリ氏の意見を下記のように紹介したのです。
アタリ氏は「もしイギリスが離脱したら、これは非常に悪い事態で、第二次大戦前に国際連盟が解体し始めた状況に似ている」と指摘し、トランプ氏が大統領に当選するだろうと言ったことをご紹介しました。
今回のイギリスのEU脱退は偶然の現象ではないのです。それは欧米各国で勢いを増しつつある個別国家主義思想の一つの表れに過ぎないのです。そこでもう少し視野を広げてオーストリア、フランス、スペイン、イタリアなどの個別国家主義的な政治勢力の躍進ぶりを見てみましょう。
1、オーストリア;
5月の大統領選挙で極右政党のホーファー氏が敗れましたが、僅差でした。
2、フランス;
極右政党の「国民戦線」の女性のルペン党首が今回のイギリスの離脱を歓迎する談話を発表し、2017年の大統領選挙に向けて勢いを増しているといいます。
3、スペイン;
緊縮財政に反対する左派政党「ボデモス」が2015年12月の総選挙で第3党に躍進しました。
4、イタリア;
EUに批判的な新興政党の「五つ星運動」の女性のラッジ氏が6月の選挙でローマ市長になりました。同じくトリノ市の市長も「五つ星運動」の女性が当選しています。
5、この他、
オランダやデンマークではEU残留か離脱かの決着をつける国民投票をすべいという動きが強くなっているそうです。
このようなヨーロッパの動きに対して、アメリカのトランプ旋風が思想的な追い風になっているのは明らかです。
この欧米の極右思想と結びついたポピュリズム、扇動政治は決して善い思想でないと私は信じています。
私は反対です。しかしトランプ氏が大統領になったらヨーロッパの国々に加速度的にポピュリズムが蔓延する方向になります。
ですから欧米の個別国家主義的な政治勢力の躍進ぶりを大きな危惧を持って見守っています。
その勢力は急に欧米諸国の主導的な政治勢力にはならないでしょうが、国際協調主義の挫折と消滅に発展しないことを祈らざるを得ません。
さて欧米の極右政党の躍進は安倍政権にはどのような影響を与えるでしょうか?
経済的には今回のイギリスの離脱による株安でアベノミクスは打撃を受けるでしょう。しかし日本の経済が大きく落ち込むことは考えられません。
むしろ日本の集団的自衛権による自主防衛という方向は、ますます加速されるでしょう。
トランプ氏は日米安保体制を見直してアメリカに有利なように改定すべしとさかんに叫んでいます。もしヒラリー氏が大統領になったとしても、その意見は無視出来ません。
その結果、アメリカ軍の駐留規模を少なくしながら自主防衛努力をせざるを得ません。日本が軍備強化のために使う予算が増大します。
これは軍事的に日本がより独立する方向です。安倍総理の好む方向です。彼は就任早々、「戦後レジームからの脱却!」と盛んに叫んでいました。それをアメリカは「占領政策に対する反抗」とを受けとり、その叫びに不快感を示しましたと私は想像しています。
安倍さんが急に、「戦後レジームからの脱却!」と言わなくなったのはそのせいではないでしょうか。
安倍さんの本音は在任中に憲法を改正し、第9条を改定したいのではないでしょうか。軍備拡張して日本の交戦権を公にしたいのでしょう。
世界中の独立国は交戦権が認められているので、日本もそう改定すべしというのが安倍総理の本音なのでしょう。
今回のイギリスのEU離脱の決定を経済的な影響だけと理解することは大きな間違いと思います。
その背景には欧米諸国で勢いを増しつつある個別国家主義的思想が厳然と存在し、第二次大戦後に育ってきた国際協調主義が挫折しつつあるのです。それは右翼的な動向と一緒になって世界の国際関係を変えて行くと考えられます。
何度も言いますが、私自身はその方向が嫌いです。
しかしそれも一つの自然現象として心静かに受け入れています。
皆様はこのような変化をどのように思っておられるでしょうか?
今日の挿し絵代わりの写真は先日、都立小山内裏公園で撮ったアジサイの花の写真です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)