昨年の秋から年末にかけての日米のマスコミはトランプ氏は泡沫候補という記事を流していました。年が明けて2月頃には大統領候選挙から消えて行くという見方が日本でもありました。
しかしマスコミの予想に反してトランプ氏は共和党を代表候補に決定し、民主党のヒラリー氏と11月に決戦投票をすることになっています。
アメリカのマスコミが何故このような大きな間違いを犯したのでしょうか?
私は、このマスコミの見込み違いの原因に関心があり、その後の解説や論評に目を通すようにしてきました。
そうしたら昨日の読売新聞の一面に政策研究者のリチャード・ハース氏が実に明快に原因を説明していたのです。
昨年以来の疑問が、成程と納得し、気分が晴れたのです。
お読みになった方も多いと存じますが、今日はその長文の手堅い記事を分かりやすく要約してお送りしたいと思います。
ハース氏はワシントン・ポスト紙の記事を引用しながら、アメリカの大衆は怒っていると言うのです。
そして、その怒りはむき出しの怒りではなくある種の強い不安だと説明しているのです、
そして怒りの対象が以下のようないろいろなものに対する怒りだというのです。
(1)ウオール街の金融市場、
(2)イスラム教徒、
(3)外国との通商協定、
(4)ワシントン政治、
(5)警官による容疑者らへの過剰な発砲、
(6)オバマ大統領、
(7)移民。
このようないろいろな標的に対するアメリカ大衆の怒りのムードの原因はよく分からないとハース氏は書いています。
しかしこのようなモヤモヤした怒りが既成政治に反旗を翻す候補者(トランプ氏など)を支持する結果を招いているのです。
ハース氏は2008年のリーマン・ショック以後、アメリカ経済は確かに立ち直ったと言います。しかしアメリカの世帯あたりの実質所得は停滞し、正規雇用も減少したままで、老後の生活に備えた貯蓄も出来ない状態がここ15年位続いているそうです。
その結果、誰でも努力すれば成功者になれるというアメリカン・ドリームが無くなり、代わりに階級社会が出来ているというのです。そしてあからさまな貧富の差が怒りの原因になっているのです。
そして成果より代償がはるかに大きかったアフガニスタンとイラクでの軍事作戦から、多くのアメリカ人は外国への関与を縮小すべきと感じているのです。(当然、日米安保体制も抜本的に見直すムードになっています。)
以上がハース氏の解説の要約です。
この解説を読むと、何故、トランプ氏は旋風を起こしているかが明快に理解出来ます。
それは上に列記した7つの怒りの対象を見れば明白です。
(1)不動産業は金融業とは違うのでトランプ氏は支持されます。
(2)イスラム教徒を差別、排撃するトランプ氏は支持されます。
(3)外国との通商協定、例えばTPP協定などはアメリカの自由経済の発展の邪魔になると考える人々がトランプ氏を支持します。
(4)ワシントンの職業政治家が嫌われているのでトランプ氏が支持されます。
(5)については私は分かりません。
(6)オバマ大統領の軟弱外交と貧困層支援政策に反対する人が多いのでトランプ氏が支持されます。
(7)移民で職場を失うと危惧している人々は移民制限を掲げているトランプ氏を支持しています。
このように書きますと私はトランプ氏を支持していると誤解されるかも知れません。しかし私はトランプ氏は支持していません。むしろヒラリー氏の方が良いと思っています。
それにしてもリチャード・ハース氏の解説は明快です。なるほどそうだったのかと目から鱗の落ちる気分です。
最後に何故アメリカの良識的な大新聞やマスコミが大きな間違いを犯したのでしょうか?私見を書いて終りとします。
その原因は上に列記した事柄にアメリカの大新聞は伝統的に賛成して来たのです。
アメリカの優位は金融業にある、イスラム教徒を排斥してはいけない、外国との通商協定は必要だ、ワシントンの政治家は信用すべし、オバマ大統領は良識的である、自由な移民政策こそがアメリカを発展させて来た、などなどという固定観念があったのではないでしょうか。
もしマスコミの組織が固定観念を持っていたらそれを打破するのが困難だったのでしょう。
それともう一つの原因はマスコミを職業にしている人々はアメリカ社会の権力者であり、エリート階級なのです。正規雇用もされないで貧困にあえいでいる経済弱者層の感じ方が理解できなかったのも原因だったと思います。
今日の挿し絵代わりの写真は一昨日、都立小山内裏公園で撮って来た紫陽花の花の写真です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)