まえがき、
このブログではいろいろな方々に原稿をお願いして記事を書いて頂いています。
今回はフランスやドイツに長く住んで子育てを経験したEsu Keiさんに寄稿を頼みました。ご主人の仕事のため1974年から1984年の間滞在しました。
日常の生活で感じたことを飾らず素直な、そして読みやすい文章で綴ったものです。
何気ない書き方ですが、人々の息づかいが感じらるのです。ユーモアもペーソスがあります。
連載の第3回目は、「駐車違反には買収で対抗?」です。お楽しみ頂けたら嬉しく思います。
===「パリの寸描、その哀歓(3)駐車違反には買収で対抗?」Esu Kei著=====
日本に限らず、世界のどこでも大都市の通りでは駐車場が不足している。そういう時にお国柄が出る。ドイツなどでは駐車違反をする人はとても少ない。ドイツ人の車に乗せてもらうと、駐車するためにだけでも正規の駐車場を探してちょっとしたドライブをする人が多い。規則はきちんと守るという真面目な国民性は実に見上げたものだ。日常的な意味では。ただ私は、どんな長所も同時に欠点になり得るし、どんな欠点も長所と裏表でであると思っているので、ドイツ人だけが素晴らしいとか、ラテン系の人達がけしからんと言うつもりはない。
パリのヴィクトル・ユーゴー大通りで愉快な場面にであった。ある日の午後、駐車違反の車を監視するオーベルジーヌ(茄子)とよばれる茄子色の制服を着た女性の補助警官が、違反の車に罰金支払い命令の紙を貼りつけて歩いている。そこへちょうど車の持ち主が戻って来た。太っちょの気の好さそうなおじさんだ。大慌てで駆け寄ると「ちょっと、ちょっと待ってよ!マドモアゼル、ちょっと待って...大急ぎで帰ってきたんだから。息も切れそうに走ってきて、ほら、こんなにドキドキしてるよ。あなたのほうが偶然一歩早かっただけじゃないか。それはあまりにも意地悪というものだ。貴女のような美しくて、優しくて、エレガントな人のすることじゃないでしょ。お願いします、今日一度だけはお見逃しください。」と胸の前で手を合わせて、拝まんばかりである。オーベルジーヌ嬢(日本風に言えば茄子娘)は、お腹をよじって笑いをこらえながら、首を横に振っている。「美しいマドモアゼル、あなたにプレゼントがあります。この私の傑作を見てください。これをあなたに差し上げましょう。」とさっきから巻いて手に持っていた絵らしきものを差し出した。今度は買収作戦か。楽しませてくれる人だなぁ。もちろんそんなことが通じるはずもなく、茄子娘は笑いながら去っていった。
喜劇の一場面をを演じた名優は、両手を広げ、肩をすぼめ、ちょっとうなだれて見送っていたが、一転、ずっと側に黙って立っていた連れの男と肩をたたきあうと何事もなかったような表情で車を出した。(続く)
さて挿し絵ですが、この記事の内容と関係の無い私の好きなユトリロの絵画にしました。サクレクール寺院の見える風景画です。
彼は『サクレクール寺院』の見える風景画を沢山描いていますが、私の好きな絵3点を選びました。
不思議な詩情が漂っている絵です。
モーリス・ユトリロ(Maurice Utrillo, 1883年 - 1955年)は、近代のフランスの画家です。生活環境に恵まれなかった上、飲酒依存症でした。
彼の作品のほとんどは風景画、それも、小路、教会、運河などの身近なパリの風景を描いたものです。ありふれた街の風景を描きながら、その画面は不思議な静謐さに満ちています。特に、用いられた白色が独特で美しいのです。
第二次世界大戦後まで余命を保ちましたが、作品は、後に「白の時代」といわれる、アルコールに溺れていた初期のものの方が一般に評価が高いそうです。パリ郊外のサノワにはモーリス・ユトリロ美術館があります。またモンマルトルにある墓には献花が絶えないと言います。
このブログではいろいろな方々に原稿をお願いして記事を書いて頂いています。
今回はフランスやドイツに長く住んで子育てを経験したEsu Keiさんに寄稿を頼みました。ご主人の仕事のため1974年から1984年の間滞在しました。
日常の生活で感じたことを飾らず素直な、そして読みやすい文章で綴ったものです。
何気ない書き方ですが、人々の息づかいが感じらるのです。ユーモアもペーソスがあります。
連載の第3回目は、「駐車違反には買収で対抗?」です。お楽しみ頂けたら嬉しく思います。
===「パリの寸描、その哀歓(3)駐車違反には買収で対抗?」Esu Kei著=====
日本に限らず、世界のどこでも大都市の通りでは駐車場が不足している。そういう時にお国柄が出る。ドイツなどでは駐車違反をする人はとても少ない。ドイツ人の車に乗せてもらうと、駐車するためにだけでも正規の駐車場を探してちょっとしたドライブをする人が多い。規則はきちんと守るという真面目な国民性は実に見上げたものだ。日常的な意味では。ただ私は、どんな長所も同時に欠点になり得るし、どんな欠点も長所と裏表でであると思っているので、ドイツ人だけが素晴らしいとか、ラテン系の人達がけしからんと言うつもりはない。
パリのヴィクトル・ユーゴー大通りで愉快な場面にであった。ある日の午後、駐車違反の車を監視するオーベルジーヌ(茄子)とよばれる茄子色の制服を着た女性の補助警官が、違反の車に罰金支払い命令の紙を貼りつけて歩いている。そこへちょうど車の持ち主が戻って来た。太っちょの気の好さそうなおじさんだ。大慌てで駆け寄ると「ちょっと、ちょっと待ってよ!マドモアゼル、ちょっと待って...大急ぎで帰ってきたんだから。息も切れそうに走ってきて、ほら、こんなにドキドキしてるよ。あなたのほうが偶然一歩早かっただけじゃないか。それはあまりにも意地悪というものだ。貴女のような美しくて、優しくて、エレガントな人のすることじゃないでしょ。お願いします、今日一度だけはお見逃しください。」と胸の前で手を合わせて、拝まんばかりである。オーベルジーヌ嬢(日本風に言えば茄子娘)は、お腹をよじって笑いをこらえながら、首を横に振っている。「美しいマドモアゼル、あなたにプレゼントがあります。この私の傑作を見てください。これをあなたに差し上げましょう。」とさっきから巻いて手に持っていた絵らしきものを差し出した。今度は買収作戦か。楽しませてくれる人だなぁ。もちろんそんなことが通じるはずもなく、茄子娘は笑いながら去っていった。
喜劇の一場面をを演じた名優は、両手を広げ、肩をすぼめ、ちょっとうなだれて見送っていたが、一転、ずっと側に黙って立っていた連れの男と肩をたたきあうと何事もなかったような表情で車を出した。(続く)
さて挿し絵ですが、この記事の内容と関係の無い私の好きなユトリロの絵画にしました。サクレクール寺院の見える風景画です。
彼は『サクレクール寺院』の見える風景画を沢山描いていますが、私の好きな絵3点を選びました。
不思議な詩情が漂っている絵です。
モーリス・ユトリロ(Maurice Utrillo, 1883年 - 1955年)は、近代のフランスの画家です。生活環境に恵まれなかった上、飲酒依存症でした。
彼の作品のほとんどは風景画、それも、小路、教会、運河などの身近なパリの風景を描いたものです。ありふれた街の風景を描きながら、その画面は不思議な静謐さに満ちています。特に、用いられた白色が独特で美しいのです。
第二次世界大戦後まで余命を保ちましたが、作品は、後に「白の時代」といわれる、アルコールに溺れていた初期のものの方が一般に評価が高いそうです。パリ郊外のサノワにはモーリス・ユトリロ美術館があります。またモンマルトルにある墓には献花が絶えないと言います。