最近、人種差別に関する記事を掲載しました。人種差別には個人の心の中の差別と公的な社会生活における差別の2種類があります。
それに対して、この世には絶対に人種差別が存在し続けるという趣旨のコメントを沢山頂きました。
その上、頂いた全てのコメントはアメリカのキング牧師の公民権運動による黒人差別の社会生活における撤廃を完全に無視しています。
そして第二次大戦以前の欧米人のアジア人や黒人に対する人種差別だけを取り上げています。実に偏見に満ちたコメントでした。
しかし欧米社会では社会生活の場面では人種差別をしないように改革されているのです。社会生活で人種差別が無くなれば、個人の心の中にある人種差別感も次第に弱くなって行くのは自然なことです。
1960年にアメリカ留学しましたが、当時のアメリカは黒人用と白人用のレストランや映画館が別れていて、バスの席も前半分が白人席で後ろ半分が黒人席と厳密に分かれていました。間違って後ろの席に座った私を中年の白人男性が怖い顔で前の席に坐れと言ったのです。
このような人種差別が公民権運動の結果、完全に撤廃されたのです。
その上、アメリカでは黒人のオバマ大統領が8年間もアメリカのトップの座についたのです。これはアメリカの社会で人種差別は完全に無くなった証拠なのです。1960年代の悲しい黒人差別の実態を見た私にとってはアメリカの人種差別撤廃は感無量の一字につきます。
そこで今日はキング牧師の黒人差別撤廃運動でアメリカの黒人差別が消えてしまった経緯を簡略に書いてみました。なお公民権とは公の社会生活のなかの諸々の個人の権利のことを意味します。
キング牧師は1929年に生まれ、1968年4月4日に暗殺されました。バプテスト派の牧師でした。
アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者でした。
「I Have a Dream」(私には夢がある)で知られる有名な演説を行った人物で、1964年にノーベル平和賞を受賞しました。
アメリ人も彼を尊敬しており、2004年には議会名誉黄金勲章を授章します。彼の暗殺後、各州では彼を記念する祝日が制定されます。
キングの提唱した運動の特徴は徹底した「非暴力主義」でした。インド独立の父、マハトマ・ガンディーに啓蒙され一切抵抗しない非暴力を貫いたのです。
公民権運動にあたっては、主として南部諸州における人種差別的取扱いがその対象としました。公民権運動は州政府などの地域の権力との闘争という側面も有していました。従ってキング牧師の運動は警察の妨害を受け困難な展開になります。
しかしキング牧師は演説で白人も含めた大衆の心を掴んだのです。
特に、1963年8月28日、ワシントン大集会で、“I Have a Dream”という演説を行います。
この演説はリンカーン記念堂の前で、20万人の聴衆の前で行いました。
内容が人種差別の撤廃と各人種の協和という高邁な理想を簡潔な文体で訴えたものでした。歴史的な名演説だったので白人にも広く共感を呼んだのです。それはアメリカ国内のみならず世界的に高く評価されたのです。
この演説の冒頭だけを下に示します。
"I have a dream that one day on the red hills of Georgia the sons of former slaves and the sons of former slave-owners will be able to sit down together at a table of brotherhood."
「私には夢があります。いつの日にか、かつての奴隷の子供たちと、かつての奴隷を使っていた人の子供たちが、兄弟愛というテーブルに一緒に座れるようになるという夢が」
"I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character."
「私には夢があります。いつの日にかこの国が、私の4人の子どもたちが、肌の色でではなく、その人となりで評価されるようになるという夢が」
私はテレビで何度もこの冒頭部分を聞きました。キング牧師の声で。何度聞いても胸が熱くなります。
キング牧師の運動の結果、アメリカ国内の世論も盛り上がり、ついにリンドン・B・ジョンソン政権下の1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定されたのです。それは建国以来200年間、アメリカの法律よる人種差別が終わりを告げるものでした。
なお公民権法案を議会に提出したのはジョンソンが副大統領であったケネディ大統領でした。
そしてキング牧師は1968年4月4日にメンフィス市内のロレイン・モーテルのバルコニーで撃たれて死亡したのです。39歳の若さでした。
犯人のレイは国外に逃亡し、数ヵ月後、ロンドンのヒースロー空港で逮捕され、懲役99年の判決を受けます。その後、彼は服役中の1998年4月23日にC型肝炎による腎不全で死去しました。
暗殺の前日にキング牧師がおこなった最後の演説の最後の部分は以下のようなものであり、『申命記』32章のモーセを思わせる、自らの死を予見したかのようなその内容は“I Have a Dream”と共に有名なものとなりました。
…前途に困難な日々が待っています。
でも、もうどうでもよいのです。
私は山の頂上に登ってきたのだから。
皆さんと同じように、私も長生きがしたい。
長生きをするのも悪くないが、今の私にはどうでもいいのです。
神の意志を実現したいだけです。
神は私が山に登るのを許され、
私は頂上から約束の地を見たのです。
私は皆さんと一緒に行けないかもしれないが、
ひとつの民として私たちはきっと約束の地に到達するでしょう。
今夜、私は幸せです。心配も恐れも何もない。
神の再臨の栄光をこの目でみたのですから。
さて公民権法でアメリカ人はどのように変わったでしょうか?その後、何度も渡米した私は見ました。白人と黒人が一緒に公園でバーベキューをして楽しそうにしている場面を。白人と黒人の若者が一緒になってダンスパーティをしている場面を。レストランで同じテーブルに坐り楽しげに食事をしている場面を。
その度に私は彼の演説の冒頭部分を思い出し、胸が熱くまります。
「私には夢があります。いつの日にか、かつての奴隷の子供たちと、かつての奴隷を使っていた人の子供たちが、兄弟愛というテーブルに一緒に座れるようになるという夢が」
アメリカの黒人差別の撤廃は世界の国々の黒人差別に影響を与えるのが自然の成り行きではないでしょうか?
これで人間の心の中の人種差別が無くなったわけではありませんん。しかし少なくとも社会生活の中で黒人差別が撤廃されたことは人類の大きな進歩です。善い改革です。
ところが多くの日本人はアメリカの黒人差別撤廃を無視しています。そして「欧米人は人種差別する人間だ!」とオームのように繰り返すのです。最近、そのようなコメントを沢山貰ったのです。
1番目の写真はキング牧師と妻のコレッタです。(1950年代)
2番目の写真は1963年8月、ワシントン大行進にて、“I Have a Dream”の演説を行うキング牧師です。
3番目の写真はウェストミンスター寺院に飾られている「20世紀の10人の殉教者」のレリーフの一部です。左からロシア大公妃エリザヴェータ、キング牧師、ロメロ大司教、ボンヘッファー牧師です。
今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
それに対して、この世には絶対に人種差別が存在し続けるという趣旨のコメントを沢山頂きました。
その上、頂いた全てのコメントはアメリカのキング牧師の公民権運動による黒人差別の社会生活における撤廃を完全に無視しています。
そして第二次大戦以前の欧米人のアジア人や黒人に対する人種差別だけを取り上げています。実に偏見に満ちたコメントでした。
しかし欧米社会では社会生活の場面では人種差別をしないように改革されているのです。社会生活で人種差別が無くなれば、個人の心の中にある人種差別感も次第に弱くなって行くのは自然なことです。
1960年にアメリカ留学しましたが、当時のアメリカは黒人用と白人用のレストランや映画館が別れていて、バスの席も前半分が白人席で後ろ半分が黒人席と厳密に分かれていました。間違って後ろの席に座った私を中年の白人男性が怖い顔で前の席に坐れと言ったのです。
このような人種差別が公民権運動の結果、完全に撤廃されたのです。
その上、アメリカでは黒人のオバマ大統領が8年間もアメリカのトップの座についたのです。これはアメリカの社会で人種差別は完全に無くなった証拠なのです。1960年代の悲しい黒人差別の実態を見た私にとってはアメリカの人種差別撤廃は感無量の一字につきます。
そこで今日はキング牧師の黒人差別撤廃運動でアメリカの黒人差別が消えてしまった経緯を簡略に書いてみました。なお公民権とは公の社会生活のなかの諸々の個人の権利のことを意味します。
キング牧師は1929年に生まれ、1968年4月4日に暗殺されました。バプテスト派の牧師でした。
アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者でした。
「I Have a Dream」(私には夢がある)で知られる有名な演説を行った人物で、1964年にノーベル平和賞を受賞しました。
アメリ人も彼を尊敬しており、2004年には議会名誉黄金勲章を授章します。彼の暗殺後、各州では彼を記念する祝日が制定されます。
キングの提唱した運動の特徴は徹底した「非暴力主義」でした。インド独立の父、マハトマ・ガンディーに啓蒙され一切抵抗しない非暴力を貫いたのです。
公民権運動にあたっては、主として南部諸州における人種差別的取扱いがその対象としました。公民権運動は州政府などの地域の権力との闘争という側面も有していました。従ってキング牧師の運動は警察の妨害を受け困難な展開になります。
しかしキング牧師は演説で白人も含めた大衆の心を掴んだのです。
特に、1963年8月28日、ワシントン大集会で、“I Have a Dream”という演説を行います。
この演説はリンカーン記念堂の前で、20万人の聴衆の前で行いました。
内容が人種差別の撤廃と各人種の協和という高邁な理想を簡潔な文体で訴えたものでした。歴史的な名演説だったので白人にも広く共感を呼んだのです。それはアメリカ国内のみならず世界的に高く評価されたのです。
この演説の冒頭だけを下に示します。
"I have a dream that one day on the red hills of Georgia the sons of former slaves and the sons of former slave-owners will be able to sit down together at a table of brotherhood."
「私には夢があります。いつの日にか、かつての奴隷の子供たちと、かつての奴隷を使っていた人の子供たちが、兄弟愛というテーブルに一緒に座れるようになるという夢が」
"I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character."
「私には夢があります。いつの日にかこの国が、私の4人の子どもたちが、肌の色でではなく、その人となりで評価されるようになるという夢が」
私はテレビで何度もこの冒頭部分を聞きました。キング牧師の声で。何度聞いても胸が熱くなります。
キング牧師の運動の結果、アメリカ国内の世論も盛り上がり、ついにリンドン・B・ジョンソン政権下の1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定されたのです。それは建国以来200年間、アメリカの法律よる人種差別が終わりを告げるものでした。
なお公民権法案を議会に提出したのはジョンソンが副大統領であったケネディ大統領でした。
そしてキング牧師は1968年4月4日にメンフィス市内のロレイン・モーテルのバルコニーで撃たれて死亡したのです。39歳の若さでした。
犯人のレイは国外に逃亡し、数ヵ月後、ロンドンのヒースロー空港で逮捕され、懲役99年の判決を受けます。その後、彼は服役中の1998年4月23日にC型肝炎による腎不全で死去しました。
暗殺の前日にキング牧師がおこなった最後の演説の最後の部分は以下のようなものであり、『申命記』32章のモーセを思わせる、自らの死を予見したかのようなその内容は“I Have a Dream”と共に有名なものとなりました。
…前途に困難な日々が待っています。
でも、もうどうでもよいのです。
私は山の頂上に登ってきたのだから。
皆さんと同じように、私も長生きがしたい。
長生きをするのも悪くないが、今の私にはどうでもいいのです。
神の意志を実現したいだけです。
神は私が山に登るのを許され、
私は頂上から約束の地を見たのです。
私は皆さんと一緒に行けないかもしれないが、
ひとつの民として私たちはきっと約束の地に到達するでしょう。
今夜、私は幸せです。心配も恐れも何もない。
神の再臨の栄光をこの目でみたのですから。
さて公民権法でアメリカ人はどのように変わったでしょうか?その後、何度も渡米した私は見ました。白人と黒人が一緒に公園でバーベキューをして楽しそうにしている場面を。白人と黒人の若者が一緒になってダンスパーティをしている場面を。レストランで同じテーブルに坐り楽しげに食事をしている場面を。
その度に私は彼の演説の冒頭部分を思い出し、胸が熱くまります。
「私には夢があります。いつの日にか、かつての奴隷の子供たちと、かつての奴隷を使っていた人の子供たちが、兄弟愛というテーブルに一緒に座れるようになるという夢が」
アメリカの黒人差別の撤廃は世界の国々の黒人差別に影響を与えるのが自然の成り行きではないでしょうか?
これで人間の心の中の人種差別が無くなったわけではありませんん。しかし少なくとも社会生活の中で黒人差別が撤廃されたことは人類の大きな進歩です。善い改革です。
ところが多くの日本人はアメリカの黒人差別撤廃を無視しています。そして「欧米人は人種差別する人間だ!」とオームのように繰り返すのです。最近、そのようなコメントを沢山貰ったのです。
1番目の写真はキング牧師と妻のコレッタです。(1950年代)
2番目の写真は1963年8月、ワシントン大行進にて、“I Have a Dream”の演説を行うキング牧師です。
3番目の写真はウェストミンスター寺院に飾られている「20世紀の10人の殉教者」のレリーフの一部です。左からロシア大公妃エリザヴェータ、キング牧師、ロメロ大司教、ボンヘッファー牧師です。
今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)