私の友人の石山さんは長くロンドンに住んでいます。そして日本に住んでいた頃の思い出やイギリスでの生活にかんする随筆を書いています。日本の社会はイギリスのようになるべきだという説教臭い文章でないのです。日本の社会で体験した悲しい思いをただ正直に書いているだけです。それだけに素直に心に沁みる文章です。石山さんは意図していませんが日本の社会に対して考えるべき問題を提起しているのです。そのような石山さんを私は好きです。決して偉そうにしません。悲しむ人に心を寄せる人間らしい人です。
そんな石山さんの最近インターネットに発表した文章を以下に転載いたします。転載を承諾して下さった石山さんへ感謝します。
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石山 望 著、「英国の一卵性双生児」
アダム ピアソン(Adam Pearson)さんはイギリス人。35歳。
双子の兄(弟)がおられる。ニール(Neil)さん。でも、このご兄弟を見て、一卵性双生児だと思う人は、まずおられないであろう。
それほど、似ても似つかない。しかし、お二人の仲はとてもいい、絆がとても強いのである。
アダムさん、TVによく出ておられたから、お顔は知っていた。それも当然で、一度見れば、誰も決して忘れられないお顔である。
https://www.mirror.co.uk/…/agony-identical-twins-born-rare-…をご覧下さい。
1985年、彼とニールさん誕生。かわいい双生児である。そこまでは良かったのであるが、アダムさん幼少の時、頭蓋骨の中にいくつもの突起物ができ始め、彼の顔は、異様に変化した。実に異様な変化である。そして頭蓋骨も大きい。片目は、間も無く失明。もう1つの方も、視力が徐々に落ちているという。
これまでに受けられた手術の数はなんと33回。大抵は、整形手術だと思うが、もっと厄介なものもあったであろう。
そして、ニールさんはといえば、表面的には何も変わったところがなく、美男子の青年である。しかし、そこで話が終ったかと思いきや、彼には、独自の問題があった。記憶力の喪失、そして、癲癇症状の発生である。今、医療関係の図書館に勤めておられるから、ごく特定の事柄に関しては、記憶力をお持ちなのであろう。
さて、問題のアダムさんであるが、この人、幸い、症状が頭脳にまで及ぶことはなく、非常に聡明である。話し方も、筋道が通っていて、聴いていると、彼の顔のことなど忘れ、楽しい。
よくTVに出てこられるが、それは、芝居の俳優としての時もあり、何か、深刻な討論会で、自分の意見を述べておられる時もある。勿論、ご自身のような症状を持っておられる人たちのための支援も、進んでしておられる。
大学出。大学では、「ビジネス管理」を専攻。学位を持っておられる。将来、いい女性に出会えれば、結婚して、子供を持ちたいのだそうである。なんとも、ご立派なこと。
ただ、私、アダムさんが本当に立派だと思うのは、いつも堂々としておられること。街を平気で歩かれるし、少しも卑屈なところがない。「これが、ワシの顔じゃ。文句あっか!」。始めから、そんなではなかったと思うが、いつの日にか、そういう境地に到達されたのであろう。ジタバタしても、どうしようもない。じゃ、ありのままの自分を受け入れるしかない。
私、英国、そして英国人のそういうところが、非常に好きである。
私、日本にいた時、いわゆる「兎唇」症状の女性を3人知っていた。いずれも京都での話。しかし、実に悲惨なことに、そのうちの二人までが「自死」された。そう、自死である。
そのお一人は、私の家の近所におられたから、よく覚えている。この女性の渾名が「ホガちゃん」。彼女は、このアダ名を耳にするたび、胸に刃物を突き刺されたように、死ぬほど嫌だったのであろう。
私が、英国に来てからも、もうお一人、同じ症状を持たれる日本人女性を知っていたが、彼女は、早くに英国人男性を見つけ、幸せな結婚をされていたように思う(ちなみに大阪出身)。
この話を、医療社会学専攻の英国人に言ったところ、その英国人、呆れて物が言えないという顔をされた。兎唇程度のことで、自らの命を絶つのか??
英国に、いい男優がいる。その人、兎唇。しかし、非常に魅力があり、演技力もあるので、そんなの、この国では大した問題にはならない。
私、目下75歳。人間これくらいの歳になると、昔、若い時には歯牙にもかけなかった様なことを知りたいと思うものである。
私の母の叔父に、生涯独身で、仕事もせず、草深い田舎に一人蟄居しておられた方があった。
彼の「のぶさん」という名前は、兄姉の話によく出てきたから、知っていた。この頃になって、その「のぶさん」のことを知ってみたいと思うようになった。どういう理由でそういうことになられたのか?
明治のこととあって、どこの家も子沢山。その中に、どこか不都合な子供がいても、べつだんふしぎではない。むしろ、その方が自然である。
ただ、そういう都合の悪いのは「隠す」という風潮が嫌なだけである、私。
私のその疑問に答えられる人は、私の20歳上の姉であったが、彼女、昨年亡くなってしまった。年長の従姉妹に訊けばいいのかもしれないが、そうすると、彼女、「何でそんなこと、知りたいの?」と言うであろう。
私のことを言う。
私が日本を出たのは、丁度44年前。理由はいろいろあるが、基本的には、勿論、個人的なことから。
それと、日本という国の「在り方」に、もうひとつ馴染めなかったこと。日本に、私の居場所はないと思っていたのであろう。(終り)
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今日の挿し絵代わりの写真はイングランドの風景写真です。
写真の出典は、https://www.1zoom.me/ja/wallpaper/555018/z13329.4/2560x1440 です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
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そんな石山さんの最近インターネットに発表した文章を以下に転載いたします。転載を承諾して下さった石山さんへ感謝します。
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石山 望 著、「英国の一卵性双生児」
アダム ピアソン(Adam Pearson)さんはイギリス人。35歳。
双子の兄(弟)がおられる。ニール(Neil)さん。でも、このご兄弟を見て、一卵性双生児だと思う人は、まずおられないであろう。
それほど、似ても似つかない。しかし、お二人の仲はとてもいい、絆がとても強いのである。
アダムさん、TVによく出ておられたから、お顔は知っていた。それも当然で、一度見れば、誰も決して忘れられないお顔である。
https://www.mirror.co.uk/…/agony-identical-twins-born-rare-…をご覧下さい。
1985年、彼とニールさん誕生。かわいい双生児である。そこまでは良かったのであるが、アダムさん幼少の時、頭蓋骨の中にいくつもの突起物ができ始め、彼の顔は、異様に変化した。実に異様な変化である。そして頭蓋骨も大きい。片目は、間も無く失明。もう1つの方も、視力が徐々に落ちているという。
これまでに受けられた手術の数はなんと33回。大抵は、整形手術だと思うが、もっと厄介なものもあったであろう。
そして、ニールさんはといえば、表面的には何も変わったところがなく、美男子の青年である。しかし、そこで話が終ったかと思いきや、彼には、独自の問題があった。記憶力の喪失、そして、癲癇症状の発生である。今、医療関係の図書館に勤めておられるから、ごく特定の事柄に関しては、記憶力をお持ちなのであろう。
さて、問題のアダムさんであるが、この人、幸い、症状が頭脳にまで及ぶことはなく、非常に聡明である。話し方も、筋道が通っていて、聴いていると、彼の顔のことなど忘れ、楽しい。
よくTVに出てこられるが、それは、芝居の俳優としての時もあり、何か、深刻な討論会で、自分の意見を述べておられる時もある。勿論、ご自身のような症状を持っておられる人たちのための支援も、進んでしておられる。
大学出。大学では、「ビジネス管理」を専攻。学位を持っておられる。将来、いい女性に出会えれば、結婚して、子供を持ちたいのだそうである。なんとも、ご立派なこと。
ただ、私、アダムさんが本当に立派だと思うのは、いつも堂々としておられること。街を平気で歩かれるし、少しも卑屈なところがない。「これが、ワシの顔じゃ。文句あっか!」。始めから、そんなではなかったと思うが、いつの日にか、そういう境地に到達されたのであろう。ジタバタしても、どうしようもない。じゃ、ありのままの自分を受け入れるしかない。
私、英国、そして英国人のそういうところが、非常に好きである。
私、日本にいた時、いわゆる「兎唇」症状の女性を3人知っていた。いずれも京都での話。しかし、実に悲惨なことに、そのうちの二人までが「自死」された。そう、自死である。
そのお一人は、私の家の近所におられたから、よく覚えている。この女性の渾名が「ホガちゃん」。彼女は、このアダ名を耳にするたび、胸に刃物を突き刺されたように、死ぬほど嫌だったのであろう。
私が、英国に来てからも、もうお一人、同じ症状を持たれる日本人女性を知っていたが、彼女は、早くに英国人男性を見つけ、幸せな結婚をされていたように思う(ちなみに大阪出身)。
この話を、医療社会学専攻の英国人に言ったところ、その英国人、呆れて物が言えないという顔をされた。兎唇程度のことで、自らの命を絶つのか??
英国に、いい男優がいる。その人、兎唇。しかし、非常に魅力があり、演技力もあるので、そんなの、この国では大した問題にはならない。
私、目下75歳。人間これくらいの歳になると、昔、若い時には歯牙にもかけなかった様なことを知りたいと思うものである。
私の母の叔父に、生涯独身で、仕事もせず、草深い田舎に一人蟄居しておられた方があった。
彼の「のぶさん」という名前は、兄姉の話によく出てきたから、知っていた。この頃になって、その「のぶさん」のことを知ってみたいと思うようになった。どういう理由でそういうことになられたのか?
明治のこととあって、どこの家も子沢山。その中に、どこか不都合な子供がいても、べつだんふしぎではない。むしろ、その方が自然である。
ただ、そういう都合の悪いのは「隠す」という風潮が嫌なだけである、私。
私のその疑問に答えられる人は、私の20歳上の姉であったが、彼女、昨年亡くなってしまった。年長の従姉妹に訊けばいいのかもしれないが、そうすると、彼女、「何でそんなこと、知りたいの?」と言うであろう。
私のことを言う。
私が日本を出たのは、丁度44年前。理由はいろいろあるが、基本的には、勿論、個人的なことから。
それと、日本という国の「在り方」に、もうひとつ馴染めなかったこと。日本に、私の居場所はないと思っていたのであろう。(終り)
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今日の挿し絵代わりの写真はイングランドの風景写真です。
写真の出典は、https://www.1zoom.me/ja/wallpaper/555018/z13329.4/2560x1440 です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
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