【内容】
あの時あの女と添い遂げていれば……。
捨てた女を妓楼に訪ねる男の肩に、時雨が降りかかる。
取り返しのつかない時の流れを刻む珠玉の藤沢文学11編。
にがい思い出だった。若かったとはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身籠っていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという……。
表題作「時雨みち」をはじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。
【目次】
帰還せず
飛べ、佐五郎
山桜
盗み喰い
滴る汗
幼い声
夜の道
おばさん
亭主の仲間
おさんが呼ぶ
時雨みち
本文より
機(はた)屋新右衛門は、さざん花を見ている。こんなに大きな木だったかと思っていた。
池のそばにある松などにくらべると、幅はさほどではないが、木の頂きは、すぐそばの塀をはるかに抜いて、枝の先は灰色の空までのびている。その枝頭にも花が咲いていた。
木の回りの湿った地面に、夥しい花びらが散っている。そして木は、まだ夥しいつぼみをつけていた。寒くなるのを待っていたように咲きはじめた花は、ひらききるやいなやすぐに散りはじめるものらしい。(「時雨みち」)
捨てた女を妓楼に訪ねる男の肩に、時雨が降りかかる。
取り返しのつかない時の流れを刻む珠玉の藤沢文学11編。
にがい思い出だった。若かったとはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身籠っていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという……。
表題作「時雨みち」をはじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。
【目次】
帰還せず
飛べ、佐五郎
山桜
盗み喰い
滴る汗
幼い声
夜の道
おばさん
亭主の仲間
おさんが呼ぶ
時雨みち
本文より
機(はた)屋新右衛門は、さざん花を見ている。こんなに大きな木だったかと思っていた。
池のそばにある松などにくらべると、幅はさほどではないが、木の頂きは、すぐそばの塀をはるかに抜いて、枝の先は灰色の空までのびている。その枝頭にも花が咲いていた。
木の回りの湿った地面に、夥しい花びらが散っている。そして木は、まだ夥しいつぼみをつけていた。寒くなるのを待っていたように咲きはじめた花は、ひらききるやいなやすぐに散りはじめるものらしい。(「時雨みち」)
【著者】
藤沢周平
【読んだ理由】
藤沢周平作品。
【コメント】
心にしみる話ばかりです。