遠藤周作のルーツの一つに岡山県の美星町があることを以前美星町に行ったときclickに知って遠藤周作により興味を持っようになっていた。
この本を読んで知ったが 遠藤周作の母は岡山県の笠岡に近い井原市美星町の医者の娘で 上野の芸大のバイオリン科を出た人だった。
遠藤周作は「狐狸庵シリーズ」というユーモア小説の方は読んできたが それらの本やエッセイで 神戸の灘中学時代の劣等生ぶりや当時甲南女学校に通っていた
佐藤愛子さんの美少女の描写を面白く読んだ。また彼は満州大連から戻った時神戸や西宮に住んで 阪神間の空気を身に着けたことも親しみを持った理由の一つだ。
この「影に対して」は遠藤周作の生前には 誰も原稿の存在を知らなかった作品だ。
遠藤周作は「沈黙」click で世界のキリスト教文学の仲間入りをした。この遠藤周作の作品も遠藤の母と、母を通じた遠藤の二人のキリスト教受容の物語でもある。
そして遠藤周作の生涯のテーマの一つ 日本人とキリストの教えの受容の歴史がこの本の他の作品に描かれている。
遠藤は父と離婚した母が最期は一人住まいのアパートの一室で誰にも看取られず亡くなった悲しみを生涯ずっと心の中に持ち続けて生きたことを知った。
男にとっての 母と言う存在。その深い結びつきと関係が この本の7つの作品に通底している。
読んだ後 今は時々しか思い出さない 自分と自分の母親とのことをしばし思う時間が流れた。
「影に対して」を読んで行って 最後の文章をこれで終わりと思わず読んだ。まだ話は続くと思っていたら 小説は終わっていた。
自分の想像だが 遠藤周作自身も この作品を発表するには もう少し熟した時間がいると思ったのでないか。
もうちょっと推敲してから もうちょっと母への思いの表現をなんとかしたいと考えているうちに 時間がたったような気がする。
発表には遠藤周作の子息の了解を取った上とのことだが 遠藤周作本人はまだ手を入れたかった書き物のような気がする。
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「影に対して」は2020年2月、長崎市遠藤周作文学館で自筆草稿(一部、原稿用紙2枚)と清書原稿(全文、同104枚)が見つかった。
母の生きざまに強く影響を受ける男が主人公で、遠藤本人の体験に根差した自伝的小説。
物語はかつて小説家を目指し、今では妻子を養うため外国小説の翻訳で生計を立てる勝呂(すぐろ)が主人公。
幼いころ、平凡に生きる父と、音楽家としての道を追求する母が離婚。勝呂は父のもとで成長するが、やがて母は病で亡くなる。
「母を見捨てた」という後悔の念を強める勝呂は生前の母を知る人々を訪ね、自らの生き方を振り返るというストーリー。
未発表原稿を発見した同館の川﨑友理子学芸員(27)は「刊行されてうれしい。作品を通じ遠藤が母に抱いていた深い思いに触れてほしい」と話している。引用元。
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遠藤周作
エンドウ・シュウサク
(1923-1996)東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、十二歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955年「白い人」で芥川賞を受賞、以後『海と毒薬』で毎日出版文化賞、『沈黙』で谷崎賞、『キリストの誕生』で読売文学賞、『侍』で野間文芸賞、『深い河(ディープ・リバー)』で毎日芸術賞など受賞作多数。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多い。海外でも広く読まれており、『沈黙』はマーティン・スコセッシ監督によって映画化された。他の作品に『死海のほとり』『イエスの生涯』『女の一生』『スキャンダル』『影に対して』などがある。引用元