安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

鈴木良雄著 人生が変わる55のジャズ名盤入門 (竹書房新書)

2016-06-03 18:35:21 | 読書

ジャズ・ベーシストの鈴木良雄さんのジャズ仲間50人に、入門として聴いてもらいたいアルバムベスト10枚とそこにいれられなかった10枚の計20枚を挙げもらい、その集計をもとに55枚を選定し、鈴木さんが解説をつけた本です。類書は今までにもありますが、選定と解説が、ミュージシャンから行われているところに特徴があります。

   

著者の鈴木さんは、早稲田大学の出身で、渡辺貞夫、アート・ブレイキー、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツなどのグループでベースを弾いていたので、その当時の話もたくさん出てきます。また、ミュージシャンやジャズそのものに関しての評価や好みを率直に書いているところがあって、ジャズ入門の域を超えています。

鈴木さんの特徴のある発言を抜き書きしてみます。(1)~(3)の項目は僕が立てたものです。

(1)音楽について

『70年代は、どんどんジャズが変わっていった激動の時代です。ニュー・メインストリーム(ジャズのジャンル)で、僕はジャズは終わったと思っているんです。』(111ページ)

『僕はジャズのヴォーカルはあまり聴かないんです。楽器しか聴かない。というのも、僕は歌というのは歌詞がわかってこそだと思っているんです。』(129ページ)

『僕もフリー・ジャズというのは面白いと思って自分でやることもあるのですが、そんなにエンジョイはできないですね。ちょろっとだったらいいかなと思います』。(221ページ)

『リーダーアルバムとしては、キャッチャーなヒット作がないと残っていかないということなんですね。何度も書いているように、ジャズメンというのは作曲もできて演奏もできる人でないとつまらないんです。』(239ページ)

(2)ミュージシャンについて

『ハービー、チック・コリア、キース・ジャレット、この3人は卓越した才能をもっていますね。この3人でジャズの時代は終わってしまったのではないかと思うくらい、その後は出てこないですね。』(75ページ)

『僕は、ピアノではウィントン・ケリーが大好きです。』(97ページ)

(3)その他

『ジャズはベース(低音が不可欠なんです)の体感というのがないと、やはり本当のジャズの再現はできないと思うんです。特にこのアルバム(「ブルースエット」)は、トロンボーンの音を大きな音で聴くことができれば、凄いことをやっているとわかると思うんですよ。実は、日本は世界で一番ジャズ・クラブのライヴが多い国なんです。会社帰りに居酒屋で愚痴を言うのもいいですが、ライヴに遊びに来て音量の豊かな生音を楽しんでみてください。』(175ページ)

(感 想)

キャッチャーな曲の必要性に言及しているところがあり、深く同感いたしました。ライブや録音ではオリジナルはそこそこにしていただき、スタンダードや有名ジャズオリジナルを取り上げてほしいものです。ヴォーカルについて、日本人は言葉の意味がとれずメロディーを追っているだけだという鈴木さんの指摘は、そのとおりかもしれませんが、聴く方は、ヴォーカリーズのようにも楽しめるので、それでもいい気がします。

鈴木さんは、ライヴへ是非いらしてくださいと何度も記しています。まさにそのとおりで、アーティストが気に入った場合のライブはいいものです。しかし、毎回そうとは限りませんし、ライヴは料金が高く、地方だと交通費もかかるので、好みの演奏に出会えるように日本人ミュージシャンの紹介をしてもらえたら嬉しい。例えば、ウィントン・ケリー(p)のように弾く人、ズート・シムズ(ts)のように吹く人を教えてもらえば、出かけて行きたくなります。もし、この本の続編を作ることがあるなら、そんなことを書いてほしいと思いながら読了しました。