殿山泰司(1915~1989年)さんは、今村昌平や大島渚監督作品など多数の映画、テレビに出演した男優です。独特の文体で多くのエッセイを書いていますが、その中から文芸評論家・編集者の大庭萱朗さんがまとめたのが、この本です。生い立ちや交友といったプライベートな話題、軍隊、映画現場、ジャズやミステリーの話など、内容は広範に渡り、面白いものでした。
(ジャズの内容などに関した感想)
沖縄と京都のジャズ喫茶に入ってみて、『両方の店に共通していえることは、オレのように60ちかいジジイは一人もいなかったことである。いつものことだけど、さびしい!だから、アール・ハインズを聴きにいって、植草さんにうしろから声をかけられたときには、それはもう惚れている女にぱったり会ったごとく、~』
と、殿山さんは記してあり、いまさらながら当時(1972年)は、ジャズが若かったのだと愕然としました。現在は、ジャズ喫茶でもライブ会場でも中高年が主体で、若い人は少ない。そのうちに、聴く人がいなくなるのではないかと、そんな気もしています。
殿山さんはライブにもよく出かけていて、チック・コリア(p)やマッコイ・タイナ―(p)など来日ミュージシャンの公演にも出かけていますが、一番のお気に入りは、高柳昌行(g)グループのアヴァンギャルドなところだったようです。日本のミュージシャンの新しいところを実際に聴いている感性の柔軟性がすごい。
読書量も半端ではありませんが、ミステリのロバート・B・パーカー著『約束の地』について、『ボストンの私立探偵スペンサーもの、ハードボイルド・ファンは必読だと思うけどね、95点です、スペンサーは強くて気のきいたセリフはいってくれるしイチャモンのつけようのない探偵や』と記してあり、僕の趣味と一致して嬉しくなりました。
裏表紙から。
(なお、この本の主にジャズ関連の原典は、雑誌の『スイングジャーナル』に1971年~73年に連載されたコラム「独り言」、単行本の『JAMJAM日記』(白川書院刊)、『三文役者の待ち時間』(ちくま文庫)です。)