安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

田中小実昌著「ほろよい味の旅」(中公文庫)を読みました。

2021-10-29 19:30:00 | 読書

田中小実昌著「ほろよい味の旅」(中公文庫、2021年2月刊)を読みました。1988年5月に毎日新聞社から出版された本を文庫化したもので、新たに小説家の角田光代さんの解説が収録されています。

   

表紙

   

裏面にある本書の紹介。

(著者紹介)
田中小実昌(たなか こみまさ)
1925年、東京生まれ。小説家・翻訳家。東京大学文学部哲学科中退。79年、「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」で直木賞を、『ポロポロ』で谷崎潤一郎賞を受賞。2000年旅先のロサンゼルスで没。主な著書に『香具師の旅』『アメン父』『上陸』『自動巻時計の一日』『くりかえすけど』、訳書にレイモンド・チャンドラー『湖中の女』、ダシール・ハメット『血の収穫』などがある。

(感 想)
本書の紹介に「気ままで楽しい食・酒・旅エッセイ」とあり、そのとおりですが、常識を翻す著者の生活ぶりに、抱腹絶倒の面白い本です。東京では、月曜日から金曜日まで毎日映画の試写を見て、家に帰ると夕方の7時半から12時くらいまで飲み、帰らない時は新宿などで飲んでいるという生活を送ったようです。
 
ワインがお好きで、『勝沼町のブドウ酒を、いっぺんに百本ずつ送ってもらっている。一升瓶で百本というと~、「飲屋でもないふつうの家で、いったい、だれがこんなにたくさんのブドウ酒を飲むんですか」と運送屋のオジさんにきかれ、「わたしゃ恥ずかしくて、返事ができなかったよ」と女房は言った。』とあります。
 
近ごろは『年に三か月以上は、外国に逃げ出している。』と記し、アメリカ、オーストラリア、アイルランドなどへ出かけています。『ある外国の町に一か月も二か月もいることがある。べつになにもしていない。』とありますが、現地のバーで飲んで、バスの旅をしていて、その際の話も出てきます。
 
また、著者の文章のテンポの良さにも驚かされます。小説家の村上春樹さんは、『小実昌さんの訳の素敵なところは、とてもわかりやすい読みやすい文章で、話をどんどん進めていく』(BRUTUS 2021年10月15日号「田中小実昌さんが訳したミステリー本を集めている。」)と記していて、エッセイもそんな感じです。